prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「秋深き」

2011年10月27日 | 映画
織田作之助(1913~1947)の短編から「秋深き」(1942)と「競馬」(1946)を混ぜている。
前者からは肺を悪くして湯治に行った主人公が妙な男女に会い、男から肺病には石油を飲むといいというアドバイスを受けて本当に飲む羽目になり、腹を壊すというくだりが使われ、後者からは「お寺さん」とあだ名される地味な教師が交詢社というクラブのNo.1と結婚するが、ガンで妻を失い、一代という名前にちなんで競馬で一番を執拗に買い続けるくだり他が使われている。
おおざっぱに言ってタイトルは前者から、内容は後者から主に採用されていて、妻とのなれそめから結婚生活の部分を膨らませて主筋にしている。

作之助自身、1944年に結婚前は酒場勤めだった妻の一枝を亡くしているわけで、かなり私小説な内容とも思われ、だらしのない男としっかりした女との組み合わせは「夫婦善哉」あたりともつながる。八嶋智人と佐藤江梨子の組み合わせは、背の高さの差だけでそういう感じが出た。

余談だけれど、原作にはラジウムによるガンの放射線治療が出てくるので、そんな前からあったのかと思ったら昭和九年に三井財閥が5g100万円(現在の価格で3億8,400万円)で輸入してがん研究会病院に寄贈したのが最初だという。それから十年くらいあとというと、まだ珍しかったのではないだろうか。

映画の方は、今年一月に入水自殺した池田敏春監督の遺作になってしまったわけで、(長いこと、それこそ学生時代から欝病を患っていたらしい)撮ったときかなり体調良くなかったのではないかと思えて正直、画面に力が感じられない。
トレードマークのような夜の雨や、血まみれ泥まみれになって肉体と精神とがともに苦痛にまみれる感じも見られず、大阪の街らしい人間くささもあまり出ていない。
ある時期、ビデオ作品を含めて欠かさず見ていた監督で、綾辻行人の「時計館の殺人」を撮ったらどうだろうと夢想したりもした。残念。
(☆☆★★★)

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