『富江 アンリミテッド』 井口昇監督 インタビュー
2011年9月26日 (月)
現在公開中の『富江 アンリミテッド』が早くもDVDで解禁!『富江 アンリミテッド』を完成させた井口昇監督が『ロボゲイシャ』以来、2度目のご登場!3.11の震災後の心境の変化や現在クランクイン中の2本の映画について。本題の『富江』に関しては、原作者である伊藤潤二氏への想いや過去に7本映画化されている『富江』シリーズを「今改めて撮ること」への心境、そして、本作のヒロイン、荒井萌&仲村みうちゃんについて。井口監督の考えるアイドル映画とは?など・・・さらに!今秋公開予定の板尾創路氏主演!『電人ザボーガー』について・・・とたっぷりとお話して下さいました。持ち前の大きなサービス精神と包容力に溢れた愛あるインタビュー、お楽しみ下さい。INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美
『富江』シリーズの伝統というか特徴はグロテスクな描写がある一方でアイドル映画の側面があることだと思うので、荒井萌さんと仲村みうさんのアイドル映画としても観てもらいたいと思いますね。
- --- 『ロボゲイシャ』以来、2回目のご取材になりますが・・・。
井口昇(以下、井口) そうですよね!(笑)。その節はありがとうございました。
『ロボゲイシャ』 井口昇監督 インタビュー
- --- こちらこそです(笑)。本日もよろしくお願い致します。
井口 よろしくお願いします。
- --- ご結婚されたそうで・・・おめでとうございます!
井口 ありがとうございます!(笑)。引っ越しが4月1日にようやく完了しまして。(しみじみと)いやあ、3月が人生の中で一番激しい月でしたね。仕事もちょうど重なって、そこに震災もあり、入籍もあり、引っ越しもありで、もう発狂しそうになりましたね(笑)。
- --- 映画関連のイベントや試写会も相次いで中止になるような状況でしたから、『富江 アンリミテッド』(以下、『富江』)の公開も雲行きが怪しくなりましたよね?
井口 そうですね。やっぱり、震災後はちょっといろいろ考えましたね。あとはもう、またあんなことが起こらないように世間が平和にいてくれることを祈るだけです。
- --- 「こんなご時世だからこそ、あえて未来を進む道を選び、結婚に踏み切りました」と書かれていましたね?
井口 ある意味、すごく区切りにはなりましたね。不謹慎ですけど、自分の中では震災がある前と後では、気持ちがかなり切り替わりました。震災が起こる前から入籍と引っ越しも考えていたんですけど、その辺りがきれいに「第2部」みたいな感じになりましたね。そういう意味で今回、『富江』はいろいろな自分の状況が変わった直後に上映されるのですごく思い出深い気持ちになるだろうなあと。作品自体もここのところずっとアクションとかかなりギャグテイストの作品が多かったのでこういうシリアスなテイスト・・・まあ、シリアスじゃない場面も入ってますけど(笑)、メインとしてはシリアスな作品をすごくやりたかったってこともあったのですごくいい節目になりましたね。
- --- 震災があった3.11以降の井口さんの作品は変わってきそうですか?
井口 実は今ちょうどね、2本同時に動いてるんですけど、1本は昔の『クレクレタコラ』だとか『ケロヨン』みたいなテイストで等身大の着ぐるみの人形劇で『山神くん』っていうタイトルなんです。山の神様が自然界をあんまり荒らすので、怒って地上に降りてきて人間を食べようとする。最後は核戦争が起こって、原子力で地球が滅んじゃって人間がほとんど死体になっちゃうんですけど、そこに山神くんがおならをかけると人間が蘇ってくるっていうクライマックスなんですけど(笑)、それを震災前に考えてたんですよ!で、「うわー、これ、ご時世的にヤバイんじゃないか?」って思ったんですけど、「あえて、今やろう」ってことで、震災前に考えたプロットのままでやることにしました。
- --- まるで予知していたような・・・恐ろしいですね(笑)。震災前にそのようなプロットを考えられていて、実際に映画を作る上での気持ち的なギャップという部分はあまりなかったですか?
井口 やっぱり、もう吹っ切れた気がしますね。今まで「こういう企画って通るのかな?」とか自分の中で躊躇してたり考え過ぎてるところがあったんですけど、ああいう経験をした後ですし、むしろこれは振り切らないと意味がないと思うんですよね。だから、もう「怖いものねえや」って気持ちでいます。で、もう1本、4月の中旬から作る新作の映画がゾンビものなんですよ!お尻から牙が生えてきたりとか登場人物の女の子が全員お腹が痛くなっておならが止まらなくなったり、おならで空飛んだりとか、そういう内容なんですよ(笑)。震災前はちょっと躊躇というか、どう表現するか迷ってたりもしたんですけど、「もう、そのまんまやってやれ!」って気持ちにむしろなりましたね。震災前と震災後でおそらく観る人達が求めてくるものも変わるし、世の中自体、現実がものすごく暗いものというか不安も抱えているとしたら、よりバカバカしいものを観たくなるんじゃないかなって思うんですよね。さらに映画界自体の意味合いも変わっていくだろうし、テレビ局が出資する映画とかもたぶん減ってくるでしょうし、本当にいろんな表現の価値観が変わってくると思いますね。だから、自分達で勇気というか思い切りみたいなものが今後、本当に必要なんじゃないかなっていう風に思って、よりやる気が出てますけどね。
- --- そうなってくると余計に井口さんの撮りたいものがどんどん世の中に出てくる環境が整ってきますね(笑)。
井口 どこに行くんだろうって思いますけどね(笑)。本当にね、今回のゾンビものなんて震災前から動いてはいたんですけど、もうね、正直、めちゃくちゃな内容なんですよ。だから、最初は絶対、撮影中止になると思ったし、キャスティングも集まらなくて、制作もそんなに上手く進まないんじゃないかなって思ったんですけど、キャスティングもトントン拍子にいき、震災の影響でどんどん中止になる作品が多い中、(強調して)普通に今、着々と準備が進んでますからね。だから、そういうことってあるんだなあって(笑)。
- --- そのめちゃくちゃな内容の?新作も楽しみです。『富江』が5月14日(土)から公開になりますが、改めて、手応えなどはいかがですか?
井口 僕は元々、伊藤潤二さんのマンガ自体がすごく好きだったんです。それは「富江」に限らず、伊藤さんの作品はかなり愛読していて、「なめくじ少女」とか「首吊り気球」とか「うずまき」とか「ギョ」とかね、伊藤さんの作品を読めば読むほど、実写の映像を撮ってる人間には刺激になるし、「これを映像で観たらすごいだろうな」って思ってた。さらに言うと、僕が思う伊藤さんの雰囲気というかマンガの画面を「自分で映像にしたいな」って思ってたんですよ。でも、「富江」は今までずっと映画化されていたし、自分にはなかなか順番が回ってこないんだろうなって思ってたんですけど、今回は本当にいいタイミングで自分が手掛けられるようになってすごく光栄でしたし、「待ってました。これをやりたかった!」って思いましたね。ありがたかったです。
※伊藤潤二 1963年生まれ。幼い頃より、楳図かずお、古賀新一らの怪奇マンガに魅了され、自らも怪奇マンガを描き始める。男女問わず現実離れした美貌を持つキャラクターを描く繊細な画力とグロテスクな描写が特徴で、映画化された作品も多い。1968年「月刊ハロウィン」(朝日ソノラマ)に「富江」を投稿し、第1回楳図賞にて佳作入選し、見事デビューを飾る。代表作は「うずまき」、「ギョ」、「富江」、「ミミの怪談」など。これまでに「富江」シリーズを含め、15作品が映像化されており、本作で16作品目となる。今年1月には伊藤潤二傑作集「富江」が上・下巻として再販されており、新たなファン層を広げ続けている。
- --- 過去の7作品の映画、『富江』シリーズを観ていたというよりは、伊藤さんの原作を愛読されていたんですね。
井口 そうですね。過去7本も『富江』シリーズがあったとしても、今回の『富江』は過去のシリーズ映画も伊藤さんの原作も知らない方が観てもわかるような作品を目指したかったし、全く切り離しても観れる作品として成立させたいっていうのがテーマだったので、それは上手くいったんじゃないかなって思いますね。
- --- 井口さんにこの企画が来たのは、「過去の『富江』シリーズに足りないものを出して欲しい」ということでもなかったんですか?
井口 それはなかったですね。実は僕に「『富江』をやらないか?」ってお話が来た時に、逆にすごくやりたい話ではあったし、待ってた企画なんですけど、考えなくちゃいけないのは今まで7本もあって、「なぜ今、『富江』?」っていう答えを自分の中でまず最初に出さないといけないなって思ったんですよね。『富江』が最初に映像化されたのは10何年前なので、その時は出来なかったCG技術で合成とかモンスター・・・クリーチャーの表現ですよね、そういう今だからこそ出来る表現を使っていこうと。当時はたぶん出来なかった・・・例えば、首なしの富江が走ってきたりっていうのを今あえてやっていこうと。そういう答えが僕の中で見つかったのでそこから気持ちは楽になりましたね。やっぱり今までこのシリーズを観てきた方は、「なぜ今、『富江』なのか?」って思うと思うんですよ。そこの答えがちゃんと出せたので、「富江がお姉さんであったらどうなるか・・・」っていう今回僕が思い付いたアプローチを入れることが出来ましたしね。
- --- シリーズ史上、最も富江が似ていると評判になっていますが、仲村みうさんがすっごくハマリ役ですよね!
井口 ありがとうございます!
- --- オーディションで決定されたんですよね?
井口 プロデューサーの方から何人か頂いた候補の中で、僕は仲村みうさんだけ存じ上げてなくて、写真のイメージしかなかったんですよね。で、そこからご本人にお会いしたんですけど、マンガと同じところにホクロがあったりとか(笑)、あまりにも富江とダブるところがあったんで、お会いした瞬間に「彼女が富江をやったらおもしろいんじゃないかな」って思いましたね。仲村さんってすごくミステリアスな雰囲気がありますし、彼女だったら演出で、人間離れした表現もできるんじゃないかと思いました。そうなると歴代の女優さんが演じてきた富江とも違うアプローチが出来るなあと。なので、仲村さんからイマジネーションを湧かせて頂いた部分もすごく大きかったですね。
※仲村みう 1991年3月14日生まれ。まだ10代でありながら、既に所属事務所の取締役という異色の肩書を持つ。2005年グラビアアイドルとして芸能界デビュー。2006年講談社主宰のミスマガジン2006でミスヤングマガジンに選出され、一躍注目を浴びる。女優としても『デコトラの鷲 其の五 火の国熊本親子特急便』、『制服サバイガール1&2』(08)、『バサラ人間』(09)など多くの作品に出演している。2009年3月、事務所取締役に就任。同年8月には多くのファンに惜しまれつつもグラビアの引退を発表。その後は、コラムなどの文筆業をメインとしてやっていく意向を示す。現在週刊プレイボーイにて自身の実体験を基にした4コマ漫画「みうまん」を連載中。
- --- 使用されている造形物の量も今回すごく多かったように思うんですが、その造型物にも仲村さんの顔が大フィーチャーされていて、よりミステリアスな雰囲気がすごくよかったです。
井口 現場も仲村さんの横に仲村さんがいるみたいなそんな感じで至るところに(造形の)仲村さんが置いてありましたね(笑)。今回は「富江が増殖していく」っていうテーマもあったので。仲村さんはそういう、ありえない状況とかシチュエーションを説得させちゃうものがあるので、そこはすごく得したんじゃないかなって思いますね。
- --- 技術が発達したとはいえ、西村喜廣さんをはじめ、造型、CGチームの方々はご苦労されましたよね?
井口 やっぱり、何が一番大変かって、ぶっちゃけて言うと時間と予算がない中での帳尻ですよね。だから、造型もCGの予算もすごく少ない中でお金がかかっているように見せる努力をするというか。そこはみんなのチームワークが上手くいきましたね。特に後半の鹿角剛司(かずのつよし)さんのムカデのCGとかはすごくよく出来てますし、予算よりも上のことをやってくれたと思うんですごく感謝してますね。あと、造型の西村(喜廣)さんが言ってたのは、「富江に首がないっていうのを現場のトリックじゃなくて、合成を駆使して細かいところまで気にして作ってるっていう感じを出していこう」って言われたんですよね。だから、テーブルから首を出すっていう現場的なトリックも出来たと思うんですけど、そうじゃなくて、人形の顔に富江の顔をCGでハメ込んでいくっていうちょっと手間のかかる作業をあえてやってみたりとか、その辺りの情熱はかけてくれた感じがありますね。
※西村喜廣 1967年生まれ。造型、特殊メイク、撮影、照明、美術などを独学で学び、多くの作品に参加。CM制作会社に入社し、プロとしての現場を学ぶ。95年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門で自主制作映画『限界人口係数』が審査員特別賞を受賞。08年、劇場映画初監督作『東京残酷警察』を発表。国内のみならず、海外でも高い評価を受け、衝撃的なデビューを果たす。その他の監督作として、井口、坂口拓共同監督作『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』(10)、監督最新作『HELLDRIVER』(11)が公開を控えている。特殊造型としての参加作品に学生時代からの友人である園子温監督の『自殺サークル』(02)、『紀子の食卓』(05)、『エクステ』(07)、『愛のむきだし』(08)、そして大ヒット中の『冷たい熱帯魚』(10)。松尾スズキ監督『クワイエットルームにようこそ』(07)、中田秀夫監督『L Change the world』(08)、山口雄大監督の『MEATBALL MACHINE ミートボールマシン』(05)、井口監督の『恋する幼虫』(03)、『片腕マシンガール』(07)、『ロボゲイシャ』(09)、『電人ザボーガー』(10)など、様々な作品を手掛けている。
- --- これから観る方はぜひ、あのクオリティーも堪能して頂きたいですよね。
井口 今回の作品はお化け屋敷的な感覚で観てもらえるんじゃないかなって思いますね。特に映画館で観て欲しいんですよね。映画館(の大画面)だと、富江が小さくなったり大きくなったりっていう効果がより一層出ると思いますし、単純にエンタテインメントとして観てもらいたいっていう気持ちもありますね。孤独な女の子の地獄巡りというか、幻想物語っていう風に捉えて観て頂いてもいいと思いますし、いろんな楽しみ方をしてもらえたらいいなあと思いますね。
- --- 仲村みうさんの妹役として荒井萌さんをキャスティングされましたね。
井口 プロデューサーの方からの推薦もあったんですけど、賢さと清潔感と親しみやすさが全部ミックスされてる感じがありましたね。荒井さんはまだ16歳ですけど、本当にすごく賢い子なんですよね。このドラマで与えられてる役柄の意味合いを読み取ってくれてますし、自分の芝居や立場をどうすればいいのかをすごく分かってますよね。そこにプラスして清潔感と親しみやすさがあって。『富江』シリーズの伝統というか特徴はグロテスクな描写がある一方でアイドル映画の側面があることだと思うんですけど、そういう意味では荒井さんと仲村さんのアイドル映画としても観てもらいたいと思いますね。やっぱり、荒井さんじゃなかったらもう少し陰惨な映画に見えてたかもしれないんですけど、彼女の存在の爽やかで陰惨過ぎない印象にすることが出来たんじゃないかなって思いますね。
※荒井萌 1995年3月3日生まれ。2005年TBS系ドラマ「新キッズ・ウォー」で女優デビュー。同年に連続して2004年「第7回函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」で短編部門グランプリを受賞し、月川翔、斉藤玲子、園子温が監督を手掛けたことでも話題の『ノーパンツ・ガールズ』、『ノーパンツ・ガールズ外伝』へ出演。その後も主演作『激恋』(10/NHK)、流行語大賞にもなった話題作「ゲゲゲの女房」(10/NHK)、『武士道シックスティーン』(10)などに出演し、着実に演技の幅を伸ばしている。今年は本作の他にショートフィルム『さざなみ』が公開されるなど、期待される女優の一人。一方で「ラブベリー」の人気モデルとしても活躍中。
- --- 対照的な雰囲気の仲村さんと荒井さんの演技を観ていると、「『富江』の「裏テーマ」がより伝わりやすいんじゃないか」と書かれていました。
井口 いろんな解釈が出来ると思うんですけど、一人の女の子の自傷行為の話でもあるんじゃないかなって僕は解釈していて、孤独な女の子が自分の妄想の中でお姉さんっていう存在を作って、それを言い訳にして自分も追い詰めることでバランスを取っているという。だから、リストカットの暗喩であるというか、富江の存在を妄想して傷付くことでようやくぎりぎりで生きている実感を得る女の子の話なんです。それが「裏テーマ」だったんですよね。・・・言ってみれば自殺の話なんですよね。一人の女の子が死に至るまでを富江という存在が後押ししている話というか。だから、正直、思春期の女の子に一番観てもらいたいなっていうのがありますよね。共感してくれる人もいる気がするんですけどね(笑)。
- --- 井口さんは『片腕マシンガール』や『ロボゲイシャ』、『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』、映画版も含む『古代少女ドグちゃん』、続編の『古代少女隊ドグーンV』・・・と制服や特殊なコスチュームを着たアイドルの女の子達を演出されることが多いですが、共通して特に心掛けていることはありますか?
井口 きれいごとで終わりたくないなあとは常に思ってますね。僕はアイドル映画が元々好きで観て育って来てるし、自分でも「アイドル映画を作りたい」ってすごく思ってるんですけど、単純にきれいなだけだと自分が惹かれないんですよね。女の子達のかっこ悪いところとかみっともないところ、ダラしないところ、そういう人間味みたいな部分とのギャップを描きたいんです。だから僕は結構、女の子が追い詰められたり、困ったりする姿を入れたくなるんですけど、それは女の子達を魅力的に魅せるための手段なんですよね。外面だけ作ってもそこは嘘になると思うので、丸ごと人間味を出していった方がいいんじゃないかなって。だから、たぶんアイドルファンの方も完璧にかわいい子よりはどこかで人懐っこさとか親近感とか、マイナス面がある子の方がたぶん萌えるというか(笑)、じゃないかなって思いますね。でも、僕の作品では女の子達が血まみれになったり、酷い目に遭ったりもしてますけど(笑)、そういうところも含めて魅力として観てくれたらいいなって思ってます。
- --- 井口さんの作品には姉妹や家族の確執、「食卓から広がっていく問題」を1つのテーマとして描かれているような気がするんですが、そこに対しての特別なお気持ちというのはありますか?
井口 僕も最近、そういうご質問をよく受けるようになったんですけど、今までは脚本家さんが書いたものでも偶然、家族とか姉妹っていうテーマが入ってたんですよね。でも、『富江』と新作の『電人ザボーガー』ではちょっと意識してみたところがありましたね。人間、切っても切れないものって何だろうって考えた時にやっぱり、絆とか血の問題だと思うんですよね。自分の家族とか姉妹って、自分が望んでいるわけじゃないのに血がつながってるし、どんなに仲が悪くても憎んでいても切れないって思うんですよね。今自分の中でそういうことが無意識的に重要なことになってるんでしょうね。今後、映画を作っていく時にもう1回、「生きること」が見直されると思うんですよね。先日のような震災を体験するとやっぱり・・・不条理じゃないですか。今まで積み上げたものが天災で一瞬のうちになくなったりとか、それで生き残ったり死んでしまったりっていうことがある。だから、命とか運命とか「生きる」ってことが今後、映画とかあらゆる表現の中でもう1回見直されていくんじゃないかなっていう風に僕はすごく思ってるんですけどね。だから、そういうことについて今後も自分でもさらに掘り下げて描いていかなくちゃいけないと思いますし、そういう風になっていくと思いますね。『電人ザボーガー』でも、主人公の人間とザボーガーが兄弟っていう設定だったりするので。死んだはずの弟の細胞を使ってロボットを生み出したっていう元々のオリジナルの設定があるんですけど、偶然なんでしょうけど、そういうところと結び付いちゃうところがあるし、そういう作品ばっかり僕のところにやってくるってことはきっと何かあるんだろうなっていう風に思いますね。
- --- これはすごくお聞きしたかったことなんですけど、井口さんの作品にはキャスティングが変わりながらも、「よしえ」というキャラクターが度々登場しますが、特別な思いがおありなんですよね?
井口 僕が「よしえ」ってキャラクターを作品によく出したりしてるので、今回、僕は何の注文も付けてないんですけど、脚本家さんが「よしえ」を意識して書いてくれたんですよね。物語に無関係だけど巻き込まれてしまうキャラって魅力的に見えるんですよね。だから、「よしえ」っていう女の子は僕の中で人懐っこいキャラクターの象徴なんですけど、その子に酷い目に遭ったりさせたくなるんです。今回はそれをAKB48の多田愛佳さんがやってくれました。多田さんはすごく愛嬌のあるというか独特な芝居をしてくれる子でしたね。僕の中で「よしえ」は自分の中の心の拠り所みたいな感じで、「よしえ」を演出する時にやっぱりほっとするんですよ(笑)。でも、そういう風におっしゃって頂けるのはありがたいことですね。
※よしえ 井口監督が「心の拠り所のみたいな感じで、彼女を演出する時にやっぱりほっとするんですよ」とお話して下さったキャラクター。『片腕マシンガール』ではヨシエ役を木嶋のりこちゃんが&DVDに収録されている特典ディスクには彼女をフィーチャーした「hajirai マシンガール」も。そして、『ロボゲイシャ』では木口亜矢ちゃんが!さらに『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』では、アイドリング!!の11号、森田涼花ちゃんが扮し&こちらもDVDに収録の特典ディスクには、涼花ちゃん主演のスペシャルスピンオフムービー「YOSHIE ZERO 戦闘少女外伝」が収録!それぞれの「よしえ」ちゃん、ご堪能下さい。
- --- AKB48ですもんね(笑)。
井口 そうそう(笑)。多田さんもかなり残酷な目に遭うんですけど、それでも自分としてはすごく愛嬌のある人物像にすることが出来たんじゃないかなって思うので、ファンの方が観たらどう見えるか分からないっていうのが怖くもあり(笑)、楽しみでもありますね。
- --- 『ロボゲイシャ』でご取材させて頂いた時に「デートムービーっていう言葉が自分の中でのバロメーターでカップルが映画を観て、観終わった後にすごくいい感じに食事が出来て、ちゃんとホテルに行けるまでを考えてる監督ってたぶん、世界を探してもいないと思うんですよ」とおっしゃっていたんですが、今回のバロメーターというのは?(笑)。
井口 今回はバルト9さんで上映させて頂くので、もう完璧にデートムービーですね!(笑)。でも今、ホラー映画を男女で観に行く習慣ってあるんですかね?
- --- どうでしょう?でも、バルト9で上映なのでカップルが観に来る確立はかなり高くなりますよね?(笑)。
井口 「ちょっと観てみようぜー」、「嫌だ!あたし、怖いの嫌い!」みたいなそういう会話をして欲しいですね(笑)。
- --- 仲村さんも荒井さんも出てますし!
井口 AKBの多田さんも出てますし。でも、観終わった後、若干気まずい感じで「こんなの見せられちゃった・・・」みたいな感じで、女の子がちょっとふてくされるみたいな感じがあるといいかなって思いますね。
- --- バロメーターはやはり、デートムービーということで(笑)。
井口 そうですね!(笑)。毎年一歩一歩デートに近付いてますね。シネコンで自分の作品を上映させて頂くのは実は今回が生涯で初めてなんですよ!
- --- おめでとうございます!(笑)。
井口 ありがとうございます!(笑)。「あ、僕、また別のステージに立ったな」っていうような気持ちなので本当にうれしいですね。僕、バルト9に観客として行くことはすごく多いんですよ。だから今回、バルト9で『富江』をちゃんと自分でお金払ってみようかなって思ってますね。でも、あそこってトイレとか行くと、今観てきた映画の悪口とか結構言い合ってる人がいるじゃないですか?『富江』の悪口に出くわすと嫌ですね。
- --- 井口さんは目立つのでトイレに行くとお客さんが気付いちゃうかもしれません(笑)。
井口 僕はね、しょっちゅう目撃されますから(笑)。
- --- いいお話だけ聞けるかもしれませんね(笑)。
井口 「怖かった」とか、どんどん声かけて欲しいですね!
- --- 先ほどもお話に出ましたが、さらなる最新作『電人ザボーガー』が日本初お披露目として沖縄国際映画祭で上映されましたね。
井口 震災後の自粛ムードで映画祭自体もそういう感じがあって、お客さん自体はそんなに多くなかったんですけど、お母さんと子供2人とか、僕が今まで体験したことのない家族連れのお客さんの層がすごく多かったですね。6歳くらいの子だと思うんですけど、(モノマネをしながら)「おもしろかったあー」って言われたんで(笑)、それはすごくうれしかったですね。元々、『電人ザボーガー』って子供向けの特撮ドラマだったので子供に観てもらいたいっていうのがあったんですよね。で、昔の特撮ものって子供に媚びてなかったんですよね。大人向けのメッセージもいっぱいあったし、エロティックなシーンもあったし。だから、そのあたりで子供達を鍛えたいですよね(笑)。今回の『電人ザボーガー』はおじさん向け、大人向けな内容なんですよ。ヒーローが年取って挫折して落ちぶれてたんだけど、正義のためにもう1回思い立って、47歳の板尾創路さんがバイクに乗って戦いに行くっていう話なんで、おじさんに勇気を与える作品になっているというか。あとは、「日本、がんばれ!」みたいな内容で僕的にはすごくタイムリーな内容だったんじゃないかなって思うので、いろんな意味も含めて幅広い層に観てもらいたいなあって思いますね。
- --- 2部作なんですよね?
井口 2部作ですね。前半1時間が20代の頃で後半1時間が40代になってからです。
- --- 『GANTZ』と比較されているのがおもしろかったです(笑)。「『電人ザボーガー』は『GANTZ』と同じ2部作だけど、約30年の話を一挙に観れて料金的にもお得!さらに2部合計で上映時間2時間以内!」と。そう考えるとかなりお得ですよね?(笑)。
井口 すごくお得ですよ!(笑)。おそらく10月くらいに『富江』と同じく新宿バルト9で上映する予定です。お客さんが口コミで入ってくれたらいいなあって思ってますね。
- --- バルト9づいてます(笑)。
井口 一歩一歩デートに近付いてきた感じですね!(笑)。
- --- 新作が2本クランクインになりますし、今後も新作上映を楽しみに拝見させて頂こうと思っています。本日はありがとうございました。
井口 ありがとうございます。がんばっていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。
※鹿角剛司 1966年生まれ、秋田県出身。特撮・CGに精通し、2004年にVFX(visual effects)を中心とした映像制作会社スタジオ・バックホーンを設立。VFXスーパーバイザーとして視覚効果の第一線で活躍し、井口監督作『片腕マシンガール』(07)、『ロボゲイシャ』(09)、『電人ザボーガー』(10)、西村喜廣監督作『東京残酷警察』(08)、井口、西村、坂口拓監督作『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』(10)、友松直之・西村監督作『吸血少女対少女フランケン』(09)、山口雄大監督作『赤んぼ少女』(07)、『激情版 エリートヤンキー三郎』(09)、中村義洋監督作『チーム・バチスタの栄光』(08)をはじめ、中平一史監督作『爆発!スケ番☆ハンターズ〜総括殴り込み作戦〜』&奥田真一監督作『逆襲!スケ番☆ハンターズ〜地獄の決闘〜』など、様々な作品に参加。
※多田愛佳 1994年12月8日生まれ。国民的アイドルAKB48、渡り廊下走り隊のメンバー。2006年、第三期AKB48追加メンバーオーディションで13000人弱の応募者の中から見事選ばれ、芸能界デビュー。09年には渡り廊下走り隊としての活動もスタート。国生さゆりの代表曲である「バレンタイン・キッス」のカバーは注目を浴びた。10年にはテレビ東京のドラマ「マジすか学園」に出演。映画作品としては本作がデビュー作。生ライブ・ドラマ・映画・バラエティと活躍の場をメキメキと広げている。
『富江 アンリミテッド』 早くも9.21にDVD解禁!
『富江 アンリミテッド』
【特典映像】
●「メイキング オブ 富江 アンリミテッド(仮)
●劇場予告
●公開初日舞台挨拶
●先行お化け屋敷上映会舞台挨拶
●ポスターギャラリー
【オーディオコメンタリー】 井口昇監督他
※内容はすべて予定です。商品仕様・特典等は変更になる場合がありますので予めご了承下さい。
監督・脚本:井口昇
原作:伊藤潤二
出演:荒井萌、仲村みう、多田愛佳(AKB48/渡り廊下走り隊)、大和田健介、大堀こういち、川上麻衣子
© Junji Ito © 東映ビデオ
オフィシャルサイト:http://www.tomie-unlimited.com/
配給:ティ・ジョイ、CJ Entertainment JAPAN
『富江 アンリミテッド』に続く、井口昇監督最新作!『電人ザボーガー』、今秋公開決定!
監督:井口昇
出演:板尾創路、古原靖久、山崎真実、宮下雄也(RUN&GUN)、佐津川愛美、木下ほうか、渡辺裕之、竹中直人、柄本明他
© 2011「電人ザボーガー」フィルム・パートナーズ
オフィシャルサイト:http://www.zaborgar.com/
チェーンジ、ザボーガー!ゴォ!
配給:日活
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- 2011年01月
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- 伊藤潤二傑作集:5 脱走兵のいる家
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井口昇 (いぐちのぼる)
1969年、東京都出身。イメージフォーラム映像研究所で学び、学生時代に撮った8ミリ映画『わびしゃび』(88)がイメージフォーラムフェスティバルで審査員賞を受賞。以降、『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(05)、『猫目小僧』(05)といった作品で楳図かずおの漫画を原作に成海璃子や石田未来といった若手女優を主演に迎えた作品を監督し、「片腕マシンガール」(07)、『ロボゲイシャ』(09)、『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』(10)など、闘う少女達が過剰に活躍する作品群で国内外からカルト的な支持を集める。2011年のその他の公開待機作としては板尾創路主演『電人ザボーガー』がある。