ハッカージャーナリストの台頭

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ハッカージャーナリストの台頭

2002年のミリー・ドウラー(Milly Dowler)さん失踪事件はイギリス国内でかなりセンセーショナルに報じられたので、ご記憶の方もいるんでは? アメリカでいうナタリー・ホロウェイ事件のような扱いだったわけですが、あの当時ニューズ傘下の大衆紙「News of the World」がミリーさんの留守番電話に侵入し、盗聴していたことが英紙ガーディアンの調べで判明しました。

以下はニューヨーク・タイムズ紙からの抜粋です

同紙は13歳の少女ミリー・ドウラー(Milly Dowler)さん失踪後、日増しに焦りを募らせていく家族から彼女の携帯番号に残された留守録メッセージを盗聴したばかりでなく、メッセージ受信箱が一杯になると、こうしたメッセージを一部消去し、新規メッセージを保存・傍受できるようにしていた。こうして捜査当局に混乱を招き、親戚の人たちにもミリーさんがまだ生きていて自分でメッセージを消したのではないか...という間違った希望を与えてしまった。

ニューズと言えば先日も英国のエリートの留守電に侵入して散々叩かれましたよね。あの時は王族、セレブ、政界のリーダーが相手でしたが、今回のターゲットは失踪した13歳の少女ですし、捜査妨害と知ってやってたようなところもあるので、誰が見たって批判は免れないでしょうね。

でもこれで最後ということもないと思いますよ。

我々はもうハッカージャーナリストの時代に入っていますからね。

数年前から「プログラマー・ジャーナリスト」という、プログラミング技術を駆使してデータを処理・発表していく記者のことがよく話題になっているので忘れてしまってますが、コンピュータに詳しい記者には裏技もあるんです。ハッキング、ですね。

ジャーナリストは昔から情報伝達のゲートキーパーの役割りを担ってきたわけですが、伝える情報は時として違法に入手した情報だったりするわけですよ(例:ウィキリークス広電、ペンタゴン白書)。しかしこれからの時代、ジャーナリストも自分で情報盗むのに必要なスキルを備えた人が多くなるでしょうね。実績をつくるも潰すもハッカージャーナリズム次第。そんな時代に入ってきたと思いますよ。

ハックで入手した情報には市民のためになる場合もあります。企業・政府の不正が暴露されたりするのがそれですね。ただし悪用される場合も必ず出てきます。セレブのメールや開発中の極秘の製品が表に出ることなどです(逆襲もあるでしょう。ヒューレット・パッカードが記者のデータに侵入し、社内からマスコミに情報をリークしている出元を突き止めようとした件は有名)。

でも誰かが法を破っても、それを我々一般人が知ることは滅多にないんですよ。このミリ・ドウラーさん盗聴スキャンダルもボイスメール(留守録)侵入から10年近く経った今頃になって、こうして表に出てるんですからね。ハッキングは簡単に隠せるんです。それに「侵入される方が悪い」と非難の矛先をソースに向けることも簡単にできますからね。

どうせ違法に情報を入手する記者なら、さらに1歩踏み込んで、ありもしない匿名ソースから入手した情報ということにしてもおかしくないですよね? (Michael Gallagher記者はChiquitaのボイスメール侵入でまさにこれをやった*)。

要するに今はこれが普通に行われる時代。これが記者の武器庫に備わった新しいツールというわけですよ。まあ、今回みたいに誰かがヘマこいて表沙汰になる時ぐらいしか我々一般人の目に触れることもないですけどね。

*シンシナティ・エンクワイアラーのマイケル・キャラガー記者が相棒と、大手チキータバナナ(バナナ・リパブリックの名前の由来の会社)の社内ボイスメールに侵入して入手した数百時間分の会話をベースに南米のプランテーションで同社がやってる悪行の数々を報じた件。後で「幹部から入手した情報を基に報じた」というのが偽りと発覚し、「報道内容は100%正確っぽい」(Salon.com)にも関わらず刑事告訴され牢屋送りとなった。

関連:メディアを叩く優れた方法(UKバージョン) - Reason to be cheerful, part 3

Mat Honan(原文/satomi)