私にとってテクニカルアートディレクターの意味

Twitterでは、自分の趣向に合ったサイトをリンクしているだけということが多いですが、たまに仕事に関係したことを書いていることがあります。先週ですが、以下のようなことを書きました。

Twitterの文字数ではどうも説明しきれない部分があるので、この場で少し補足しておきます。

マークアップする方は印刷機?

単価数百円のマークアップサービスがあるように、見た目のデザインを再現するという意味でのマークアップの価値は下がっていく一方です。もし見た目を形作るだけでマークアップがあるのであれば、それは当然のことです。紙の印刷業も同様で、見た目の再現の水準が同等であれば、あとは価格しか残りません。Dreamweaver のようなソフトも仕組みと癖さえ分かっていれば、高い質のコードを生成しつつ見た目を再現することも出来るわけです。HTML5でまた新たな意味付けが増えてマークアップの価値が上がるのかといえば、どうなんでしょうね。HTML5 になろうが、HTML9 になろうが、見た目を再現するためにマークアップをしている限り価値は上がることはないと思います。

見た目の再現の水準が同等であれば、あとは価格しか残りません

どういった環境でどのブラウザで見て、何をしているときに見ている状態か分からない『デザイン案』という名の設計図を見て、マークアップをする方は想像力を膨らませてインタラクションを加えつつ見た目を同じにすることに努力をそそいでいます。制作会社やデザイナーのワークフローによって違うので何とも言えない部分もありますが、最後のほうで初めてマークアップをするという状態は様々な点で圧迫が生じます。にも関わらず印刷機のような存在になっていることでコストも下がるので、割に合わない作業になることもあるでしょう。

同じ値段のデザインはない

表面的な見た目を再現するという意味では「印刷機」なのかもしれません。しかし、そこにかかるコストは表面的なところだけでは換算出来ない部分があります。10月に講演した 3.4.U! で、Webデザインには3つのコストがあると説明しました。

  • 開発時間
  • パフォーマンス
  • 維持費用

これら3つのコストバランスを考えることが出来て初めて Web サイトをデザインすることが出来ます。一見、同じような見た目のデザインでもこれらの3つのコストが異なる場合があるので、結果的にあるデザインの長期的コストが上がることも考えられます。インターフェイスをデザインする方は文字数やデータが増えたときを想定してデザインしなければいけません。パフォーマンスを犠牲にしてまで装飾を増やしていないか、同じような表現でも最適化する方法があるのか。そして、更新依頼が来た際にも耐えられるデザインになっているかを模索しなければいけません。

こうしたことをマークアップをする方、マークアップの知識のあるデザイナーは考えていますが、考慮されないままデザインだけ通ってしまうと、マークアップをする方、又はプログラマーに余計なコストがかかる可能性が出てきます。

技術的な側面からディレクションする

マークアップをする方はなるべくデザインの初期段階から相談役としてデザイナーをサポートする必要があります。3つのコストを考慮しつつ、技術的な側面から何が可能なのか、どうしたら利用者にとって最適なのかをアドバイス出来るのではないでしょうか。こうした意味を含め Twitter では「テクニカルアートディレクター」という名を使って書きました。見た目とは違う部分から Web サイトデザインを良い方向を導くことが可能だと思います。

日本では「マークアップエンジニア」という言葉が広く使われていますが、使われ始めた当初は今回書いたような意味が含まれていたと思います。「マークアップエンジニア」でも「テクニカルアートディレクター」でも名前は好きな方を使えば良いですし、自分がしっくりくる肩書きがあればそれを使うべきです。重要なのは、デザインとサイトを支えるマークアップやプログラムとの関係がより親密になる方法を見つけなければならないということです。見た目の再現という受け身ではなく、サイトデザインの最適化のためにデザイナーと話せる架け橋的な役目になれば、誰にとってもやさしいサイトになるでしょう。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。