<楽天5-4中日>◇11日◇Kスタ宮城

 打撃不振に悩む中日森野将彦内野手(32)が5月8日巨人戦以来、22試合、93打席ぶりの本塁打を放った。5回、楽天小山から左翼スタンドへ3号ソロを運んだ。打率1割台に沈んでいた3番打者が1発を含む2安打。逆転負けで3連敗となったが、打線のキーマンが復調のきっかけをつかんだ。

 打球は鈍い音を残して、左翼へ上がった。半信半疑の表情で一塁へ駆けだした森野だが、風にも押されて白球はスタンドに飛び込んだ。実に34日ぶり。5月8日の巨人戦での第3打席以来、93打席ぶりの3号ソロ。決して会心の当たりではなかったが、それが逆に復活途上の森野を象徴していた。

 「調子とか言うより、何とか結果を出すだけです」。

 森野は少し照れた。試合は3点リードをもらった先発中田賢が5回に四死球をきっかけに逆転され、打線も拙攻を繰り返した。2試合連続の逆転負けで3連敗。確かに嫌なムードだが、3番打者が復活すれば、失った勝利はいくらでも取り戻せる。打者は1つの結果がきっかけになることがある。森野の本塁打が敗戦の中にも希望を残した。

 前日10日、被災した宮城県亘理郡の山下中学校を慰問した森野は、心を揺さぶられた。指導した女子ソフトボール部の主将は捕手だった。だが、どこかぎこちない。聞けば津波で正捕手が亡くなり“急造捕手”になったという。昨日まで一緒にいた仲間が突然いなくなる。避難所生活も続く。そんな辛い現実の中でも生徒たちは白球を追っていた。

 「信じられないことが起きている。でも(子供たちは)前に進まないといけないと思っているんでしょう。立ち止まってはいられないんでしょう。きっと」。

 あらためて野球をやる喜び、スポーツの力を実感した。この日、新たな気持ちでグラウンドに立った森野が、復活への上昇カーブを描き始めた。【鈴木忠平】