WWDCで間もなく発表になるMac OS X新バージョンが、今ある形でのAppleデスクトップOSの最終形かもしれませんね。理由をご説明しましょう。
Mac OS Xはとても成熟したOSで、手堅いベースと堅牢なコア技術、速さ、安定性、99%のユーザーが欲しがるサービスすべてを備えています。が、UIレベルではもっと格段にベター、シンプル、パワフルなものに改善できる余地があります。これはMicrosoftも同じ問題意識を持ってるようで、Windows 8ではデスクトップからタブレットに至るまで各種端末を網羅する従来と全く異なるユーザーエクスペリエンスを備えた新モデルに脱皮を図っていますよね。
これはアップルが先取りしている部分もあり、例えばMac OS XとiOSはアーキテクチャが共通なので、デベロッパーは両対応のアプリを超簡単に書くことができます。
Lionの目標は、デスクトップとタッチ両方のユーザーエクスペリエンスをひとつに統合することですが、これまで我々が見てきたところではまだ最終ゴールではない節もあるんですね。新モデルに移行し、ユーザーをスムーズに馴染ませるためにも、もう1世代時間が必要なんでは?
その意味でもLionは過渡期のOSであると同時に、ひとつの物語の終焉と見ることができるのです。
ネコ科シリーズ最終形にして百獣の王
Mac OS Xはチーターに始まり百獣の王で終わる。Lionと呼ぶのは、偶然ではありません。
[歴代ネコ科シリーズ]
Cheetah(チーター)
Puma(ピューマ)
Jaguar (ジャガー)
Panther (黒豹)
Tiger (虎)
Leopard(豹)
Snow Leopard(雪豹)
Appleはあんまり意味のないブランディングはしませんからね。ライオンでネコ科シリーズは最終回で、これが最後のOSとなり、あとは中身が同じで新しいユーザーエクスペリエンスを備えた新世代OSの登場を待つばかりになるかもしれません。
LionではUIが変わります。これはさらに大きな転換に向けた下地ですが、従来と全く異なる新種のハードウェアの予兆と見ることもできます。それは新iPhoto'11のデザインを見ると一目瞭然ですが。斬新な新手法のタッチに対応した新種のiMacとMacBookが登場しても驚きじゃない、という感じですね。
と言っても、デスクトップOSが消えるってことではないですよ。Mac OS X Lionは昔ラスキンが提唱したビジョンを今に復活させた「モーダル・コンピューティング」という次なるコンピュータ・インターフェイスにパラダイムシフトする転換点に位置するOSです。そこにiOSで一番成功した要素 ―アプリ自動インストール機能を備えたApp Storeやspringboard(LionではLaunchpadに改称)など― を投入し、さらにモーダル・インターフェイスの弱点を補佐するMission Controlなんかの新しいUIエレメントが加わっているのが特徴です。
タッチもデスクトップにぐんと接近しますよ。これはハードウェアのMagic Trackpadから始まった動きですが。
すべてのピースがようやくひとつに繋がります。
フルスクリーンモード&モーダル・コンピューティング
個人的に新OSで最も重要だと思うのが、このフルスクリーンモード。アプリはすべてフルスクリーン表示できます。ウィンドウ表示が(まだ)消えるってわけじゃないですが、これは明らかにモーダルコンピューティングに向かう大きな一歩ですね。iLife'11のUIを見てもその方向性が色濃く現れています。
iLife'11では、ある特定の機能をいじるとき全画面表示になるのみならず、ロールインのエレメント(テキストスタイル変更に使えるコンテキストに応じたパレットがインラインに表示されたり)も入ってるんですね。これはパレットがフロートするのを避けるため考案されたエレメントですね。もちろんこうした新UIエレメントも、Mac OS X Lionのアプリ開発ツールには含まれていると見るのが妥当でしょう。
このUIのアプローチだと、パソコンの利用も格段にシンプルになります。窓を何個も開いてゴチャゴチャすることもないし。最近、一般消費者にもパワーユーザーにもブラウザのタブが好評なのも、同じ理由ですよね、あれも言うなれば「モーダル」ウェブですから。iPhone(とその類似製品)、iPod touch、iPad利用者の95%はモーダルなユーザーエクスペリエンスが好きで使ってると思うのですが、Lionではあれと同じものにもっと近づく、というわけです。今よりコンピュター操作がパワフルでなくなるというんじゃなく、逆にタスクはもっと効率良くこなせるようになると思いますよ。
プロの間では既に使われている実際、Final Cut Proのようなハイエンドのプロ仕様のアプリでも同じ動作が確認できるはずです。ある特定のタスクをこなそうとすると、ソフトが全画面表示になって、別窓が浮いたりしないんですね。窓は全部一緒にドックされ、UIの面がひとつだけになるんです。こうして見てくるとウィンドウっていうのはそのうち完全に駆逐されちゃうのかな、Photoshopみたいなアプリまで。
モーダルコンピューティングにも問題はあります。タスク切り替え。これは素早く、混乱抜きでタスク切り替えできる効率的手法を用意できないとダメなんですね。昨年10月のデモではアップルがエレガントな手法に辿り着いたという印象を受けましたけどね。つまりモーダルのアプリならびに複数ウィンドウ開いて使うアプリの両方を管理できる「Mission Control」に、タッチジェスチャーを合体させる、という手法ですね。長所: ユーザーが集中している作業中のタスクを中心に据え、コンピューティングエクスペリエンスをシンプルに。複数の窓を開いて生まれるゴチャゴチャも減らせる。完全なるタッチコンピューティングへの道を拓く。短所:特に思いつかないです。アップルは、フルスクリーンコンピューティングで生じそうな問題は回避する手立てもちゃんと打ってるようですし。
Mission Control
「Mission Control」は宇宙管制センターの意...ですが、早い話、今のExposeが新しくなったものですね。Dock、Dashboard、開いている全アプリのビュー(ウィンドウとフルスクリーンの両方)が一括で表示できます。デモで見た感じは、すごくストレートで分り易い印象です。
この新しいセットアップで大事なのは、ユーザーが3つのタイプのアプリ(ウィジェット、複数窓が開くアプリ、全画面表示のアプリ)を同時に管理するってところですよね。まあ、今はそうでも、そのうちフルスクリーン・モデルに移行するアプリが増える(それ専用の業域が生まれる)につれ、Mission Controlもさらにシンプルになり、元のExposeのルーツに回帰するんじゃないでしょうか。