2011年5月29日(日)「しんぶん赤旗」

県民不在の宮城復興計画

「水産特区」「農地集約化」財界の意向

民間企業参入、庶民増税に執念


 財界系シンクタンクと宮城県が一体で進める、県民不在の復興計画――。その中身を具体的に見てみます。 (竹原東吾)


 県の「震災復興基本方針(素案)」(4月11日発表)の基本理念は「単なる『復旧』ではなく『再構築』」をうたいます。

 一方、県の復興計画策定を全面支援する野村総研はこれまで11回にわたる震災復興に関する独自の「提言」を発表。震災後間もない3月30日の第1回「提言」で、「単純に復元するだけでなく、新しい発想に基づく都市計画が必要である」としました。

 野村総研コーポレートコミュニケーション部担当者は、宮城県の復興計画策定にあたってのアドバイスは、これら提言と「基本的な方向性が異なることはありえない」と話します。

 これまで明らかになった具体的方向性を見ても、両者の符合ぶりははっきりしています。

農業復興

 農業復興について、野村総研は「二種兼業農家の農地の買い上げを通じた農業法人等への農地の集約化や専業農家の法人化支援」(9回提言、4月22日)を指向。一方、県も「法人化や共同化による経営体の強化」(方針素案)を提唱します。

 政府の「東日本大震災復興構想会議」の委員も務める村井嘉浩知事は「斬新なアグリビジネスの展開(民間投資による活性化)」(4月23日、同会議提出資料)をうたっています。

漁業復興

 漁業復興では、野村総研は「復興対象漁港の絞り込み」「漁業者を組織し、法人設立を支援する等して、経営主体の強化を図る」(9回提言)と提起。県も「漁港の集約再編」「零細な経営体の共同組織化や漁業会社など新しい経営方針の導入」(方針素案)を目指すとしています。

 村井知事は、4月23日に開かれた政府の復興構想会議の席上、「漁業の株式会社化を大がかりでやったらどうだろうか」と提案し、10日の同会議では「緊急提言」として、沿岸漁業への民間参入や資本導入を図る「水産業復興特区」をぶち上げたのです。

 もうけが上がらなければ勝手に撤退してしまう企業の大規模参入――。宮城県漁協の木村稔経営管理委員会会長は25日の衆院大震災復興特別委員会で、「子々孫々まで漁業を続け、そこに住みつくのが漁師。会社なんてもってのほか」「バカにするなといいたい。漁業者は全員一致で反対だ」と表明しています。

道州制視野に

 野村総研と県が一体でつくる復興計画の中身は、財界の狙いそのものでもあります。

 経済同友会が4月6日に発表した「東日本大震災からの復興に向けて」と題した緊急アピール。復興の基本理念は、「東北の復興を、『新しい日本創生』の先進モデルとして、国際競争力のある、国内外に誇れる経済圏を創生する」ことだとした上で、1次産業について、農地の大規模化や法人経営の推進、漁港の拠点化など「大胆な構造改革を進める」と提言しています。

 また「東北復興院(仮称)」を設置し、これが司令塔として復興にあたることで、将来的には「道州制の下での道州行政府の基礎になることを視野に」入れています。復興財源として、「復興税の導入の検討」も求めました。

 村井知事は政府の復興構想会議(4月23日)で、広域的・一体的な復興を進めるための国、被災自治体で構成する「大震災復興広域機構」の設立を提言。さらに、「全国各地いろんなところでいろんな時期に災害があり、ある程度恒久的な税をこの際できれば県民が保険をかけるという意味で間接税、消費税のようなものでしっかりかけるべきではないか」と庶民増税の必要性も訴えました。

 文字通り、財界の意向を震災復興に反映させるための“急先鋒(せんぽう)”の役割を果たしています。

 いまなお、県内約400カ所、2万8千人近くが厳しい避難生活を送っているなかで、財界系シンクタンクと宮城県が一体となってつくる復興計画。震災を奇貨に、財界が執念を燃やす「構造改革」の押し付けが、いま目の前で始まっているといえます。





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