【大崎事件再審認めず】「何度闘えばいいのか」 96歳目前、再び涙 全国からの支援者、雨粒に無念さ重ね

 2023/06/06 08:28
裁判所に入る前、支援者にあいさつする大崎事件の森雅美弁護団長(左)ら=5日午前、宮崎市の福岡高裁宮崎支部
裁判所に入る前、支援者にあいさつする大崎事件の森雅美弁護団長(左)ら=5日午前、宮崎市の福岡高裁宮崎支部
 「アヤ子さんの悔し涙だ」-。5日午前11時すぎ、福岡高裁宮崎支部から出てきた若手弁護士が「不当決定」の旗を広げた瞬間、それまで持ちこたえていた曇り空から雨粒がこぼれ落ちた。最初の再審請求から28年。第4次請求即時抗告審でも、無罪を訴える原口アヤ子さん(95)の叫びは届かなかった。「ふざけるな」。高裁支部前では支援者の怒号が響いた。

 大崎事件にとって、15日にアヤ子さんが誕生日を迎える6月は涙の季節だ。2017年には3次の鹿児島地裁で再審開始が出て歓喜でまぶたをぬらした。一転、19年は最高裁が開始決定を取り消し。新証拠に自信を持って臨んだ4次でも相次いで涙をのんだ。

 「納得できるものではなく、へこたれる内容でもない。特別抗告する」。会見に臨んだ森雅美弁護団長は語気を強めた。雨は上がっていた。特別抗告期限は12日。下を向く時間はない。

■□■

 再審開始決定を信じ全国から集まった支援者は高裁支部前で横断幕を掲げて抗議した。再審無罪となり、原口さんとの交流がある「東住吉事件」(大阪)の青木惠子さん(59)は「3度も開始決定が出たのに、まだ認められない。何度闘えばいいのか」と憤った。

 同じく再審無罪の「湖東記念病院事件」(滋賀)の西山美香さん(43)は大崎事件が発生した1979年生まれ。「私が生きている間ずっと闘いが続いていると思うと許せない」と涙をこぼした。

 裁判官や検察官も立ち会った事件現場の「再現検証」の動画撮影に協力した映画監督の周防正行さん(66)も棄却の瞬間に立ち会い、「証拠に真っすぐ向き合っているのか。異例の手法で棄却した第3次での最高裁判断が下級審に与える影響は大きい。組織防衛のように映る」と話した。

■□■

 「弟だけ救済されればいい訳じゃない。みんな仲間なんです」。700キロ離れた静岡から今回の決定を見守ったのは、「袴田事件」で逮捕され50年以上経過した今年3月、東京高裁で再審開始を認められた袴田巌さん(87)の姉ひで子さん(90)。十数年前から交流し、励まし合ってきた。初めて会った時の原口さんは車いす姿だった。おしゃべりに花を咲かせたが、会いに行く度に病状は悪化。最近は面会もかなわないが、電話でエールを送り続ける。

 「裁判所は無実と分かっているはず。継続して頑張るしかない」。再審の長い闘いに伴う苦しみは誰よりも理解している。だからこそ、知らせを受けた後にはいつも通りの気丈な声でビデオメッセージを送った。「元気にしてる? またお会いしましょうね」

(連載「届かぬ思い~大崎事件再審請求㊤より」)