興味対象はセレブ、芸能人、精神世界、開運、風変わりなイベントなど。コラムニストの辛酸なめ子さんによる、“旬の人”のインタビューです。「普通は、聞きませんよね?」というような質問で、じわりじわりとお相手の心をつかみ、これまであまり知られていなかった素に近い姿まで、イラストに描いて紹介してくださいます。

今回のお相手は、日本舞踊家の花柳寿楽さん。
ご自身の舞踊家としての活動のほかに、現在放映中のNHK「どうする家康」や「大奥」、歌舞伎公演やジャニーズ、宝塚歌劇団などの振付所作指導にも関わり、お忙しい毎日です。インタビューではそんな、ドラマやお芝居制作の舞台裏の話や、意外なプライベートまで語ってくださいました……

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●昔といま「大河ドラマの舞台裏」はどう違う?
●きものの着方や、立ち居振る舞い。「知らない」ことがたくさん
●大御所俳優・杉良太郎さんの息子役にふさわしいのはどんな人?
●大名、将軍、天皇役……そのあとは?
●じつは俳優だった花柳寿楽さん。意外すぎる深夜の「趣味」とは?


日本人の所作を「知らない」人が増えました。

日本舞踊家として活躍する一方、舞台や大河ドラマの振付、所作指導などでも有名な花柳寿楽さん。その肩書きから、厳格な先生では……? と緊張しながら稽古場にお邪魔すると、やんごとなきオーラを漂わせた物腰やわらかな紳士でいらっしゃいました。ドラマや舞台で「所作指導」の先生はいつごろから登場したのか、寿楽さんに伺うと……。

「昔はできて当たり前。おじいちゃんやおやじがきもの着てたよ、という人が多かったので、所作や着物をちょっと直すのも自分でできていました。でも、僕が18歳でNHKの大河ドラマに出演していたころには既に『所作指導』の先生がいましたね」

「辛酸なめ子 この人を深堀り!」連載
イラスト=辛酸なめ子

16歳の時に、帝国劇場のエレベーターで蜷川幸雄さんに直接スカウトされてから、俳優としても活躍。当時、蜷川さんが『たけくらべ』の信如を演じられる育ちの良さそうな少年を探していて、目に止まったそうです。既に所作が際立っていたのでしょう。続いて、杉良太郎さんの息子役でNHKの大河ドラマに抜擢。

「杉良太郎さんは当時既に大御所の存在でいらっしゃいました。NHKのプロデューサーいわく、そんな杉さんと、一緒にいても大丈夫なおっとりした子ということで選ばれたそうです」

「辛酸なめ子 この人を深堀り!」連載
撮影=高嶋佳代

NHKと縁がある寿楽さんは、『信長 KING OF ZIPANGU』『徳川慶喜』などのドラマにもご出演。

「大名役の後に、足利将軍、孝明天皇と来たので、今度オファーが来るのは神しかないなと自分的には勝手に思ってるんですけど。ふふふ」

いまは所作の神でもあらせられます。

「いまは、知らないことを『知らない』と堂々と言える世代、僕の若いころは『知らないことは恥ずかしい』と教えられましたから。『知らない』と言えることはとてもいいことです。そして、はじめて時代劇に出る俳優さんには、きものをもっと着てほしい。浴衣でもいいからって思いますね。なかには『自分で帯を締められるようになりたい』『家で1日浴衣で過ごしてみた』なんて志のある方もいらっしゃいます」

きものでの所作は、想像以上の筋力が必要。立ち上がる、正座をする、あぐらをかくなどの基本姿勢であってもなかなか苦労する方もいるのだとか……。

今回、右足を立てていると刀を抜きやすい、敵意がない場合は刀は右側に置く、など武士の所作を教えてくださったサービス精神旺盛な寿楽さん。現場でもこんな風に柔和な語り口調で指導してくださるんでしょうか。

「辛酸なめ子 この人を深堀り!」連載
撮影=高嶋佳代

「どうなんでしょう。人によっては僕のこと怖いって言う人も、面白いって言う人もいるんですけど。スイッチが入って責任感が強まると、怖い顔も出てくるのかもしれません」

忙しい日々で、スイッチオフの時は何をされているのでしょう?

「完全なオフはなかなかとれないので、帰宅して眠りにつくまでが至福の時です。欲しいもののカタログを熟読し、商品を比較して一つに絞る喜び! 靴や電化製品、趣味の釣り竿、ときには船や海のそばの別荘など買えないものまで研究します(笑)だから実際に購入に至るのは稀。買い物よりも、おそらくその妄想プロセスが好きなのでしょうね。実際、3回に2回ぐらいは買わないで済むので内心嬉しかったりして」

煩悩に翻弄されない寿楽さんは、生き方も美しく、豊かな貯金と真の品格が所作にも生活にもにじみ出ているようです。

文・イラスト=辛酸なめ子 撮影=高嶋佳代 編集=吉岡博恵(婦人画報編集部)


はなやぎじゅらく○1967年生まれ。学習院大学経済学部卒。幼少より人間国宝である祖父、二世花柳壽楽に師事。1990年三代目花柳錦之輔を襲名、2009年三代目花柳寿楽を襲名する。「錦会」「花柳寿楽舞踊會」を主宰するほか、総合芸術としての舞台をめざし東西五人の舞踊家による「五耀會」を立ち上げ全国で公演を続ける。日本芸術院賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞など、受賞多数。現在、明治座『大逆転!大江戸桜誉賑』、NHK「大奥」「どうする家康」など、歌舞伎公演やジャニーズ、宝塚歌劇団、NHK大河ドラマなどの振付所作指導にも携わる。


花柳寿楽日本舞踊教室

「礼に始まり礼に終わる」。その言葉通り、踊りの稽古を通じて、きものでの美しい立ち居振る舞いや、心を感じさせる丁寧な所作も身につけることができる花柳流の舞踊教室。初心者からプロを目指す方まで、年齢や経験を問わずひとりずつの目的、レベルに合わせてマンツーマンの指導を行う。1年に1度のお浚(さら)い会や温習会を通じ大きな舞台で踊ることができる機会もあり。見学や体験は随時受け付け。初心者はきものの着付けから教えてもらえる。東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1 tel.090-1557-0280 hanayagijuraku@gmail.com


しんさんなめこ〇1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻。興味対象はセレブ、芸能人、精神世界、開運、風変わりなイベントなど。巫女的な感性であらゆる事象を取材しまくる驚異のフィールドワーカー。著書に『スピリチュアル系のトリセツ』『無心セラピー』『女子校礼讃』『電車のおじさん』『新・人間関係のルール』『辛酸なめ子の独断! 流行大全』など多数。最新刊では、開運できるスポットから、ゆるゆるオモシロスポットまで、全国24のパワースポットを紹介。俗世のすべてから浄化されたいすべての人に贈る、スピリチュアル旅案内『辛酸なめ子、スピ旅に出る』(産業編集センター)。唐突に始まった戦国武将としての「刀さばき」のご指導。 立派な神棚を拝見し、「来世はこんな家に生まれたい」と辛酸さん。

『婦人画報』2023年4月号より

『婦人画報』2023年4月号(松島聡さん表紙の特別版)より