1913年、メアリー王妃はロンドンの高級デパート、ハロッズを御用達として指定しました。

それ以来ハロッズは英国王室と良好な関係を築き、多いときには、エリザベス女王、エリザベス王太后、エディンバラ公フィリップ王配、チャールズ皇太子の4人の王室メンバーから一度に御用達の指定を受けたこともありました。

御用達に指定されると、指定したメンバーの紋章を掲げる権利が与えられます。これは選ばれた少数の店舗や生産者にしか許されない、大変名誉なことでした。

エリザベス女王も、王室の他のメンバーと同じようにハロッズに出向き、ショッピングを楽しまれていたといいます。

マーガレット王女の女官だったアン・グレンコナーの1975年の著書『マーガレット王女とわたし:イギリス王室のおそばで歩んだ女官の人生』には、こうした記述があります。

「女王はクリスマスプレゼントを選びにハロッズに行かれました。公式行事の付添をする女官として女王に仕えていた私の母は、そのときも女王に付き添ったそうです」

ダイアナ妃も王室にいらっしゃった頃は、頻繁にハロッズでショッピングをされていました。

diana at harrods
Georges De Keerle//Getty Images
1982年、ウィリアム王子を妊娠中のダイアナ妃が、ハロッズで買い物をされるところ。

1984年から1997年まで、ハロッズはウィンザーで開かれる馬術競技会「ロイヤル・ウィンザー・ホース・ショー」のスポンサーも務めていました。この競技会は毎年恒例のイベントで、エリザベス女王もお気に入りだったといいます。

インディペンデント紙によると、当時ハロッズのオーナーだったモハメド・アルファイドは、「年に1度、ウィンザーで女王と一緒に記念写真を撮ることを、この上ない名誉だと感じていた」そうです。

彼のそうした熱意はドラマシリーズ『ザ・クラウン』でも描かれています。ドラマでは、なんとかエリザベス女王のテーブルについて隣に座ろうとするモハメドでしたが、結局、ダイアナ妃と同じテーブルに座ることになります。

実はモハメドが女王と会う機会は、ホース・ショーに限ったことではありませんでした。女王と面会する機会は思いのほか度々あったようです。

queen and mohammed al fayed
Tim Graham//Getty Images
エリザベス女王とモハメド・アルファイド。1992年のロイヤル・ウィンザー・ホース・ショー。

しかし、1997年にモハメドの息子であるドディ・アルファイドがダイアナ妃とともに事故死するという悲劇が起きてから、良好だったはずのハロッズと英国王室の関係は180度変わってしまいます。

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1998年、ハロッズがロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーのスポンサーから外される
●2000年フィリップ王配が御用達指定を撤回。2001年には、エリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達指定が失効
●2000年12月、王室メンバーの紋章がハロッズから撤去される
●2010年、アルファイド家はハロッズをカタールの政府系投資ファンドに売却(残り1,816文字)

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目次

1.1998年、ハロッズがロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーのスポンサーから外される
2.2000年フィリップ王配が御用達指定を撤回。2001年には、エリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達指定が失効
3. 2000年12月、王室メンバーの紋章がハロッズから撤去される
4.2010年、アルファイド家はハロッズをカタールの政府系投資ファンドに売却


1.1998年、ハロッズがロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーのスポンサーから外される

事故の翌年の1998年、ロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーの主催者は、ハロッズをスポンサーから外しました。「これは単にビジネスの問題だ」と、ウィンザー馬術振興会の会長であるサイモン・ブルックス・ワードは当時、発言していました。

しかしインディペンデント紙は、それは“ビジネスの問題”ではなかったとして、「ダイアナ妃の事故死を陰謀だと主張するアルファイド氏を王室が嫌悪しているのは明らかだ」という内容の記事を掲載しました。


2.2000年フィリップ王配が御用達指定を撤回。2001年には、エリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達指定が失効

2000年1月、エディンバラ公フィリップ王配が御用達の指定を撤回(※)。

その際、「ここ数年にわたり、王配とハロッズの取引が大きく減少したため、御用達の指定は更新されません」とバッキンガム宮殿の広報は発表しました。

エリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達の指定も2001年に失効し、ハロッズから再指定の申請もありませんでした。

このことにより、英国王室とハロッズの長い付き合いに終止符が打たれることになりました。

(※)当時モハメドは、「事故は王室の陰謀で、主導者はフィリップ王配だ」と公言していたといわれている。

harrods royal warrant
Ian Nicholson - PA Images//Getty Images
指定を撤回される前のナイトブリッジのハロッズ。エディンバラ公の紋章が掲げられていた。

3.2000年12月、王室メンバーの紋章がハロッズから撤去される

2000年12月、ハロッズは「1997年12月以降、英国王室とはまったくお取引がないため、このような状況で御用達の指定をハロッズから申請することは適切ではないと判断しました」と発表。そして、「女王もチャールズ皇太子も、ここ数年、ハロッズでお買い物をされていないのに、紋章を掲げることは誤解を招くもとであり、偽善的な行為だと判断しました」と続けました。

さらに、オーナーであるアルファイド家もスポークスマンを通じて、「今回の件は、ハロッズの経営には影響がないと思っています。王室の方が買い物をされる場所だとわかるようハロッズに紋章を掲げることは、我々にとってもはやほとんど意味がありません」と声明を発表。

それから数カ月たった後、モハメドは「私たちは世界最高の店としてハロッズを評価していただいていることを誇りに思っています。世界中からお買い物にいらっしゃる目の肥えたお客様をいつでも歓迎します。王室の方もハロッズにお買い物にいらっしゃってください。フィリップ王配以外の方であれば、いつでも歓迎します」とさらなる声明を加えました。

御用達の指定が撤回され、女王がハロッズでお買い物されなくなったのは、1997年8月に起きたダイアナ妃とドディ・アルファイドの事故に対して、モハメドが「息子とダイアナ妃の事故死は陰謀だ」と主張していたことに関連していたようです。

harrods royal warrant taken away
Matthew Fearn - PA Images//Getty Images
2000年12月、作業員たちによって撤去されるチャールズ皇太子の御用達であることを示す紋章。

4.2010年、アルファイド家はハロッズをカタールの政府系投資ファンドに売却

2010年になってからモハメドは、ハロッズが御用達の指定を取り消された2000年に、御用達指定されたときに交付された文書を焼却していたことを明らかにしました。そして、「自分には、王室の方々がまたハロッズを訪れるようになるとは思えない」と書き残しました。

同年、アルファイド家はハロッズをカタールの政府系投資ファンド、カタール・ホールディングスに売却します。

2018年、ハロッズの新たなオーナーであるカタール・ホールディングスは、モハメドが店舗に設置したダイアナ妃とドディ・アルファイドの像を撤去しました。一部の報道では、それは英国王室を再び招き入れるための第一歩としてとられた措置だといわれています。

mohamed al fayed at the dodi al fayed and diana memorial unveiled at harrods at harrods in london photo by david lodgefilmmagic
David Lodge//Getty Images
ハロッズに設置されていたダイアナ妃とドディ・アルファイドの像と、モハメド・アルファイド。

Translation by Takenori Noguchi From Town&Country