大林組は2022年11月18日、東京都清瀬市にある同社の技術研究所内で建設中の「3Dプリンター実証棟」(以下、実証棟)を報道陣に初公開した。実証棟の施工には、産業用ロボットアームをベースに自社開発したセメント系建設3Dプリンターを用いている。5月に着工し、2023年2月中旬ごろの完成を予定している。
セメント系建設3Dプリンターは、特殊なモルタルをノズルから吐出して積層し、構造物を造形する技術。同社はプリンターを現地に据え付け、現場でじかに造形する「オンサイトプリンティング」に挑戦中だ。現場では、デンカが開発した3Dプリンター専用モルタル「デンカプリンタル」を用いて壁を「印刷」している。1層の厚さを5mm程度まで薄くすることで、最大45度の傾斜を持つ壁も造形可能だ。
実証棟は平屋建てで、延べ面積27.09m2、最高高さ4.04m。壁は複層構造で、室外側から構造体層、断熱層、設備層(ケーブル保護層、空調ダクト層)を設けた。
構造体層の内部には、大林組が開発した超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」を充填する。指定建築材料ではないスリムクリートを用いたため、建築確認を受けるために国土交通大臣認定を取得した。実証棟は、大臣認定を取得して3Dプリンターで造形する建物として国内初の事例となる。
大林組技術本部技術研究所生産技術研究部の金子智弥担当部長は、「3Dプリンターを用いて技術的な、あるいは法的な問題をクリアした建築物をつくれることを示すのが実証棟建設の目的だ」と説明する。
当日は、建物の床レベルから約2400mmの高さまで造形した状態でお披露目した。22年6月の発表時点では11月ごろの完成を予定していたが、工期は遅れ気味だ。金子担当部長は、「3Dプリンターを使用する作業の進捗は7割、工事全体では5割ほどだ」と説明する。
金子担当部長は工期が遅れた原因について「材料の温度管理の難しさが理由の1つだ。摩擦熱により、プリンターの配管内でモルタルが硬化したことがあった」と明かす。同部の坂上肇副課長は、「温度管理のほか、プリンターを据え付ける場所の設定にも苦慮した。機械の盛り替え時には、位置出しの基準点を複数用意して、キャリブレーション(較正、調整)を繰り返した」と話す。
こうした経験は、ノウハウを蓄えるのに役立ってもいる。坂上副課長は、「使用するモルタルは、硬化時間を調整する薬剤を混ぜて現場で練る。薬剤の量は屋外環境に合わせて変えなければならない。印刷を始めた5月ごろは、気温30度以上の環境での作業に苦労したが、配合のコツをつかむことができた。11月に入って気温10度ほどの日でも、スムーズに印刷できている」と語る。