麗しい舞台姿と細やかな表現で人気を集めている若手歌舞伎俳優の中村米吉さんが、歌舞伎以外の舞台に本格挑戦。公開後「可憐!」と話題となったキービジュアルの撮影現場で、舞台『オンディーヌ』への思いを伺いました。

フランスの劇作家ジャン・ジロドゥの戯曲『オンディーヌ』は、永遠の愛を信じて人間界に入った水の精オンディーヌと、遍歴の騎士ハンスの悲しい恋の物語。1939年にパリのアテネ座で初演されて以来、世界で上演され、1954年のブロードウェイ公演ではオードリー・ヘプバーンが主演、日本では劇団四季の公演でも知られています。

今回、新たな脚本と音楽、ビジュアルで上演されるにあたり、主役の水の精オンディーヌを、歌舞伎女方として活躍する中村米吉さんがつとめることになりました。米吉さんは愛らしい顔立ちで歌舞伎の女形として活躍。2022年は新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』のナウシカ役や、『松浦の太鼓』お縫、『義経千本桜 鳥居前』静御前などを好演。バラエティ番組でも、そのチャーミングな発言に注目が集まっています。その米吉さんが歌舞伎以外の舞台に挑戦。しかも、女性役…。

「お話をいただいた時には、まさか自分が? と驚きましたし、歌舞伎ではない舞台は初めての出演になりますので、お引き受けするかどうかはずいぶん悩みました。でも、父(中村歌六さん)に相談しましたら“面白いんじゃない”と言ってくれまして。実は父は若い頃に劇団四季で浅利慶太先生のもとで勉強させていただいていた時期があり、『オンディーヌ』のお芝居の素晴らしさをよく知っていたのです。今の自分に何ができるのかわからないけれど20代最後の年にやれることをやってみよう‥‥そんな気持ちで挑戦することにしました」と米吉さん。

中村米吉さんオンディーヌ
撮影=セドリック・ディアドリアン

ビジュアル撮影の準備は、まずヘアメイクから始まりました。「鬢付け油やお白粉を塗っての歌舞伎の化粧とは根本的に違うので、ヘアメイクの奥戸彩子さんに教えていただき、セッションしながら本番に向けて詰めていくことができればと思っています」と、米吉さん。肌の美しさと顔立ちを生かしたナチュラルなメイクが、15歳のオンディーヌの初々しさやピュアな感情を際立たせていきます。

衣裳を手掛けたのはデザイナーの仲村祐妃子さん。「湖と水の泡をイメージして、軽やかで透明感のある水の色をいくつも重ねたドレスにデザインしました。オンディーヌのあどけなさを表現するためにシルエットはハイウエストに。裾は動いた時に動きが出ることを意識しています。今回の舞台では途中で衣裳チェンジがないので、一着でオンディーヌの心の変化と儚い結末を感じていただけることも心がけました」とコンセプトを語ってくださいました。

中村米吉さんオンディーヌ
撮影=セドリック・ディアドリアン

よく見るとドレスや髪飾りにはヒトデのモチーフや水の泡を思わせるチェーンがあしらわれていて、ディテールにまでこだわりが詰まっています。

中村米吉さんオンディーヌ
撮影=セドリック・ディアドリアン

ヘアメイクを終え、ウィッグと衣装をつけた米吉さんがスタジオに入って、いよいよ撮影がスタート。モニターをチェックしながら、オンディーヌらしいポーズや表情をつくり上げていく米吉さん。照明やリップの色なども細かくスタッフと調整しながら撮影は進みます。

「オンディーヌは、純粋無垢で天真爛漫なキャラクター。そのストレートな言動が無邪気で愛らしく見えるよう“等身大の真っ直ぐさ”を作っていくのが難しいところです」と米吉さんは語ります。

中村米吉さんオンディーヌ
撮影=セドリック・ディアドリアン

ドレスの裾をつまんでくるりと回転する場面では、最初はつい、歌舞伎に登場する芸者さんが着物の褄を取るようなポーズに。それでもすぐにコツを飲み込み、水の流れにふんわりと漂うかのような軽やかな裾さばきでカメラに対峙していました。

中村米吉さんオンディーヌ
撮影=セドリック・ディアドリアン

オンディーヌの役作りには、これまでの古典歌舞伎や、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ 白き魔女の戦記』でタイトルロールのナウシカを演じた経験も生きてくるのでしょうか?

中村米吉さん オンディーヌ
撮影=山副圭吾 ヘアメイク=北 一騎
取材会の模様。完成したビジュアルの前で米吉さん。

「古典歌舞伎の舞台では、教えていただいたことを丁寧に演じることが第一で、その経験を積み重ねることでだんだんと応用のし方が身についていきます。ナウシカをさせていただいた時は古典歌舞伎のパターンが通用しない部分があって難しかったのですが、今回はさらに白紙から役を組み立てなければなりません。女優さんもご一緒の舞台であえて女方の僕が演じることも含めハードルは高いのですが、自分の中に今持っている感性や表現のし方がどこか少しでも生かすことができればとは思っています。演出の星田さんをはじめ、衣裳の仲村さん、ヘアメイクの奥戸さんなど皆さんを信じて、良い作品になるようにつとめていきたいと思っています」


なかむらよねきち○1993年5代目中村歌六の長男として東京都に生まれる。2000年7月歌舞伎座『宇和島騒動』の武右衛門倅武之助で五代目中村米吉を襲名し初舞台。インスタグラムのストーリーでは「甘いものは世界を救う!」のハッシュタグとともにお気に入りのスイーツも紹介し人気を集めている。

中村米吉さんインスタグラム


舞台『オンディーヌ』

中村米吉さんオンディーヌ
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中村米吉さんオンディーヌ
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作/ジャン・ジロドゥ
上演台本・演出/星田良子
企画・製作/アーティストジャパン
出演/
中村米吉 小澤亮太
宇野結也 和久井優
佐藤和哉(篠笛)
白鳥かすが 我善導 
宮川安利 加納明
市瀬秀和 紫吹淳

【愛知公演】
期間/2022年12月23日(金)~25日(日)
会場/ウインクあいち 大ホール
tel.052-571-6131
Google mapで確認
愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38
主催/サンデーフォークプロモーション /teamGeki

【東京公演】
期間/2023年1月6日(金)~11日(水)
会場/東京芸術劇場 シアターウエスト
tel.03-5391-2111
Google mapで確認
東京都豊島区西池袋1-8-1
主催/アーティストジャパン

『オンディーヌ』公式サイト


構成・文=清水井朋子