オミクロンの次はどうなる? 新型コロナ「変異株」の現状

WHOは10カ月命名せず、だがオミクロンの「第2世代」が続々と進化中

2022.10.01
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2022年9月22日、イスラエルのテルアビブで、ファイザー・ビオンテック製ワクチンの5回目の接種を受ける男性。イスラエルでは、国内の感染事例の大半を占めるオミクロン株に対応した追加接種用ワクチンの接種を、重症化リスクがある人や65歳以上の人に呼びかけている。(PHOTOGRAPH BY ODED BALILTY, AP)
2022年9月22日、イスラエルのテルアビブで、ファイザー・ビオンテック製ワクチンの5回目の接種を受ける男性。イスラエルでは、国内の感染事例の大半を占めるオミクロン株に対応した追加接種用ワクチンの接種を、重症化リスクがある人や65歳以上の人に呼びかけている。(PHOTOGRAPH BY ODED BALILTY, AP)
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 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって最初の2年間は、感染力や重症化させる力がより強くなった新しい変異株が数カ月ごとに出現した。アルファからミューまで、ギリシャ文字の名称がつけられた10種類の変異株は何百万人の命を奪った。そして2021年11月には、今までとは大きく異なるオミクロン株が出現した。

 だが、この10カ月間、WHO(世界保健機関)が名称をつけた新しい変異株はない。これは、ウイルスの進化が止まったということなのだろうか?

 2022年7月以降の3カ月間、米国では1日あたり300人以上(7日移動平均)が新型コロナウイルス感染症で亡くなっている。また9月下旬になっても1日あたり約5万人(同)が新たに感染している。すべてオミクロン株の新たな亜系統BA.5、BA.4.6、BF.7、BA.2.75などによるものだ。

 米国の高齢者団体AARPの公共政策研究所(PPI)と米マイアミ大学スクリプス老年学センターの集計によれば、米国の老人ホーム入所者の感染率は4月に比べて8月は9倍に、死亡率は4倍近くに上昇した。英国の症状追跡アプリ「ZOE COVID」の調査によれば、新型コロナの感染状況において米国に先行する傾向がある英国では、8月27日に有症状感染者の数が2022年に入って最も少なくなったが、それ以降は次第に増加している。

 こうした最近のオミクロン派生型のいずれにも、WHOは個別のギリシャ文字の名称をつけていない。しかし専門家らは、これらの派生型がオミクロン株に対応した新しいブースター(追加接種)用ワクチンや治療の効果を低下させ、新たな感染拡大の波や死亡をもたらすことを懸念している。(参考記事:「オミクロン対応ワクチン承認、知っておきたい6つの疑問」

 新型コロナウイルスは進化を続け、新たな変異を重ねている。現在までに新たに確認されているオミクロン株の亜系統やその派生型は200を超える。「新型コロナウイルスの進化は終わっていません」とフランス、パスツール研究所ウイルス・免疫ユニットのリーダー、オリビエ・シュワルツ氏は言う。

「状況はかなり改善されています」と、WHO新興感染症共同研究センターの所長で、新型コロナのパンデミックの起源を解明するWHO諮問グループのメンバーでもあるマリオン・クープマンズ氏は話す。だが、秋と冬の訪れを前にして、次の大きな波に備えるべきだと注意を促す。「マラソン選手は、ゴールの前にスピードを緩めないものです」

変異株の進化は続く

 新型コロナウイルスは感染の過程で複製を繰り返すが、その際に複製ミスが生じてわずかな変化が起きることがある。「変異」と呼ばれるこのような変化はランダムに生じ、通常はほとんどウイルスに影響しないが、ウイルスにとって都合のいい変異が現れて広まることがある。そうした変異をもつウイルスは、新型コロナウイルスの系統樹における新しい枝となり、「変異株」と呼ばれる。

「新型コロナウイルスが拡散すればするほど、変化する可能性は高くなります」と、WHOで新型コロナ対策を率いる疫学者マリア・バン・カーコフ氏は話す。また、免疫不全患者の体内にはウイルスが長く残り、多数の新たな変異を起こすので、オミクロン株のような変異株が進化しやすいと考えられている。

 ウイルスを広まりやすくしたり、より重篤な症状をもたらしたりする変異が生じることもある。また、変異によってウイルスの見かけが変わるので、過去の感染やワクチンで獲得した免疫をすり抜けたり、承認済みの治療法の効果が低下したりする。このような場合、WHOは、その変異株を「注目すべき変異株(VOI)」あるいは「懸念される変異株(VOC)」に分類している。

 2021年5月から、WHOは、VOIとVOCに該当する変異株の名称にギリシャ文字を使用するようになった。「ただし、WHOはすべての変異株に名称をつけるわけではありません」と説明するのは、WHOウイルス進化諮問グループのアヌラグ・アグラワル議長だ。この諮問グループは、変異株の命名に関する提言を行っている。「WHOは、新たな公衆衛生対策を要するリスクの増大が懸念される変異株だけに、ギリシャ文字の名称を割り当てるのです」(参考記事:「コロナ変異株の名称をWHOが発表、ウイルス名はどう決まる?」

 現在のオミクロン株の亜系統には、過去の変異株よりも感染が拡大しやすく、獲得した免疫をすり抜けることができるという共通の特徴があり、すべてVOCに分類されている。しかし、バン・カーコフ氏によれば、幸いにも、オミクロン株の亜系統の1つに感染すれば、別のオミクロン株の亜系統に再感染するリスクは十分に低くなる。また、これらの亜系統は、最初に出現したオミクロン株と比較してリスクが大きいとは考えられていない。

次ページ:飛躍的に進化するオミクロン株の亜系統

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