非情な悪役はもれなく、クロスフィット(米フィットネスクラブ)で鍛え上げたようなムキムキの肉体を持っているものです。少なくとも、ネットフリックスのド派手なアクション映画『グレイマン(The Gray Man)』の世界では…。

2022年7月15日(金)よりNetfilixで公開スタートした『グレイマン』では、ライアン・ゴズリングがCIAの雇われ暗殺者を演じ、怪しいCIA幹部や恐ろしいほど鍛え抜かれた肉体を持つ暗殺者クリス・エヴァンスと対峙します。クリス・エヴァンスは今回、銃撃および爆破シーン満載のこの映画の中で最も大きな存在感を放つ、最も非情な人物という役どころです。

彼が演じるハーバード大卒の暗殺者ロイド・ハンセンは、129分の上映時間中に拷問的仕業もいとわないやり放題ぶりを発揮します。そこで注目してほしいところが、そのときの彼のいで立ちです。アッパーに着こなすのは、なんとニットポロシャツなのです。上品でいてスポーティな…健康優良児的なアイテムを着こなした上で、かなり非情な行為をやってのけるので、否応なしにニットポロが目に入ってしまう人も少なくないでしょう。

英国ブランド「King & Tuckfield(キング アンド タックフィールド)」を起用した衣装部門による巧妙な演出もあり、エヴァンスのボディラインが際立った印象になっています。なぜなら、ニットのポロシャツは近年、映画『リプリー』(日本公開2000年)の時代の古い装いという位置づけから、マッスルフィットに代わる洗練されたアイテムへと急速に変化しているからです。どんな映画でも、どんな歯のホワイトニング広告でも、そして英リアリティ番組「ラブ・アイランド」の宣伝ポスターでも、ニットポロが登場しています。今やそれほど汎用的なものであり、着る人の体格がよければなおのこと理想的と言えるに存在になりました。

king  tuckfield
KING & TUCKFIELD
TEXTURED PATTERN POLO
265ユーロ
公式サイトで見る

マッスルフィットの理想形は
ニットポロだった

実際マッスルフィットは、過去何年もの間で人気となっています。それは年を追うごとに白熱し、人気が高まったリアリティ番組シリーズではムキムキ度が高まるのに伴って、服全体がピチピチ感を増していきました。“脳筋的(脳みそまで筋肉でできているような)”なまでにムキムキな肉体が標準的になり、あえて胸の筋肉を締めつけるような白いTシャツも一般的になりました。ですが、どんなに過酷なトレーニングをしても、どんなに筋肉をつけても、マッスルフィットはお世辞にも美しいと言えるものではありませんでした。自分の肉体を誇示するということは、ぴったりしたアイテムで締めつけるということではないのです。特にライクラデニムに包まれた波打つ肉体などは、セクシーとは言い難いもの…。実際ある種独特な、恐ろしく皮肉な効果をも感じさせます。

私たちは皆、過ちを犯すものです。カルチャーにおけるメンズウェアの理解が進化、発展し、近年、普遍的なテイストがアップデートされているのはありがたいことです。まだマッスルフィットのアイテムは手に入りますし、それがお好みなら存分に楽しめばよいのです。

しかしながら現代の肉体派は、昔の肉体派が好んで着ていたクラシックなギアを好む傾向にあります。トラウザーにローファー、そこに合わせるのはもちろんニットポロシャツというわけです。

celebrity sightings in new york city   june 09, 2022
Raymond Hall//Getty Images
ニットポロにトラウザー、スニーカーという出で立ちの俳優シム・ リウ。

なぜニットポロが理想形なのか?

これは合理的なことなのです。腕や胸の凹凸をなぞるようなカッティングは、鍛え上げた筋肉のアウトラインを拾いながらも、想像力とロマンの余地をほどよく残す絶妙なフィット感です。ハードなジムでの鍛錬の目的は、「ボディ & サースト(肉体と渇望)」より、「マインド & ソウル(精神と魂)」が理想ですが、その過酷なトレーニングの結果を誇りに思うのは当然のことです。ただ、マッスルフィットは「目立ちたがり屋」であるのに対し、ニットポロは「ショーマン」であるということを知っておいてください。

その着こなしに関しては、最初にニットポロを有名にした男たちをお手本にしましょう。例えばそれは映画『リプリー』のディッキー・グリーンリーフのようにトランク一杯のニットポロを持ち、一年中バカンスお楽しむプレイボーイ風のスタイリングはいかがですか? 映画『華麗なるギャツビー』の富豪の悪役トム・ブキャナンは? 『007』シリーズでショーン・コネリーが扮していたジェームズ・ボンドもいいですね。そしてもちろん、『グレイマン』でクリス・エヴァンスが演じたサイコパス(ロイド・ハンセン)も…いずれも、「陰鬱感」と「絶対的脅威感」とのバランスが取れていて、いずれも腹立たしいほど鍛え抜かれた体型が目に入ってきます。

そもそもニットポロこそ、マッスルフィットの原型だったのかもしれません。

Netfilixで観る

Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。