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 台湾TSMC(台湾積体電路製造)のファウンドリー市場での独走状態はいつまで続くのか。世界の半導体製造シェアの約半分を握る同社に、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や米Intel(インテル)はなぜ追い付けないのか。その“無双状態”のワケを、台湾に拠点を置くアナリスト集団Isaiah ResearchのVice PresidentであるLucy Chen氏に語ってもらった。(記事構成は久保田龍之介=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

 現状ファウンドリー事業でトップの位置を占めるTSMCですが、今後少なくとも3~5年は優位性を維持するでしょう。市場シェアで2位のSamsungやIntelのような競合他社と比較しても、現状は数年レベルでの技術力の差が見て取れるからです。

 例えば、TSMCとSamsung、Intelの3社で歩留まりを比較してみましょう。TSMCの7nm世代プロセスで製造する米Advanced Micro Devices(AMD)や米NVIDIA(エヌビディア)のGPUは、現状の歩留まり率が7割台と効率良く生産されています。

 同プロセスと比較可能な他2社の半導体製品としては、Samsungの8nm世代プロセスやIntelの「Intel 7」があります。Samsungの8nm世代プロセスで製造するNVIDIAのGPUは、歩留まり率が62~67%にすぎません。「Intel 7」で製造するIntelのGPUは歩留まり率が40~45%とさらに低効率です。TSMCと比較すると、Samsungは1~1.5年、Intelは2~2.5年の差で技術的に遅れているといえます()。

表 TSMC・Samsung・Intelの同程度のプロセスでのGPU歩留まり分析
(出所:Isaiah Researchの資料を基に日経クロステックが編集)
製品 企業 ファウンドリー 半導体プロセスの世代 歩留まり率
GPU AMD TSMC 7nm 73~78%
NVIDIA TSMC 7nm 74~79%
NVIDIA Samsung 8nm 62~67%
Intel Intel 7nm 40~45%

 TSMCはビジネス的な観点でも他2社と比べて優位性を維持しており、ファウンドリー市場で世界の約半分のシェアを占めています。その理由は歩留まり率の高さだけでなく、他に2つの理由が挙げられます。すなわち、(1)「ピュアプレーファウンドリー」というビジネスモデル、(2)IC設計分野での500社以上の上顧客を持つこと――です。

SamsungやIntelにとって顧客は「フレネミー」

 (1)のピュアプレーファウンドリーは、半導体製造の専門企業を意味します。このTSMCのビジネスモデルには、顧客と競争することなく、常に協力関係でいられるという利点があります。

 SamsungはIC設計事業も手がけているため、既存あるいは潜在的な顧客と競合する可能性があります。例えば、米Qualcomm(クアルコム)はSamsungのファウンドリー事業での最大の顧客ですが、一方で、スマートフォンのアプリケーションを処理するアプリケーションプロセッサー市場で競合関係にもあります。

 Intelは半導体を自社製造する企業ですが、2021年にファウンドリー事業「Intel Foundry Services(IFS)」を発表しました。IFSにプロセッサー市場の大手メーカーで競合のQualcommやNVIDIA、AMDが参入するかどうかは重要です。現状ではQualcommとNVIDIAがウエハー投入する計画である一方で、AMDはその予定はないようです。

 Qualcommとは顧客層があまり重なっていないため、同社向けプロセッサーの製造を交渉できています。NVIDIAはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)市場での強力な競争相手でもあるものの、コストやリスク分散を考慮し、IFSへの発注を慎重に検討しているもようです。AMDはほとんどの半導体製品をTSMCに、ローエンド製品の一部を低コスト化のためにSamsungに移管する可能性があると予想しています。

 つまり、半導体製造専業でないSamsungやIntelにとって、顧客は「フレネミー(Frenemy、味方でも敵でもある存在)」なのです。

大規模で多様な顧客を通してデバッグ

 さらに(2)として、専業であるTSMCには、半導体プロセスや技術プラットフォームを最適化しやすいという強みがあります。同社には500社以上の上顧客がいるため、大規模で多様な顧客を通して、(多面的に)製造システムのデバッグを継続実施できるというわけです。TSMCの顧客は大量に発注しますから、その大量のウエハーの製造の過程で、プロセスノードの歩留まりと性能をより良く調整できます。

 Samsungの場合、先端プロセスなどの最初の顧客は同社自身になることも少なくありません。さまざまな顧客によるフィードバックが得られにくいため、半導体プロセスの進歩が難しくなっています。