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CEDRIC DIRADOURIAN

近代的で
国際競争力のある
ポルトガル

ヨーロッパのイベリア半島南西部に位置するポルトガル共和国(以下、ポルトガル)は、西と南が大西洋に面する欧州最西端の国です。ポルトガル人が初めて日本に到来したのは、1543年の室町時代…。江戸幕府の鎖国政策などで一時的に交流が途絶えたこともありましたが、1860年には修好通商条約を締結し、外交関係が本格的にスタートしました。

ポルトガルはヨーロッパの先陣を切ってアジアに進出した国であり、日本にもさまざまな影響を与えてきました。その一つが食文化です。例えば「カステラ」。これはポルトガルの伝統菓子「パォン・デ・ロー」が宣教師たちによって持ち込まれ、それが原型になったというのが有力な説といわれています。さらに「天ぷら」や「金平糖」、「パン」は、ポルトガル語が転じて日本語でも使用されることになったとか…。

ポルトガルの食文化も日本と共通しているところがあり、同じ海洋国家であることから、魚介類の消費量がヨーロッパ随一。その種類も豊富で、太刀魚やタコなども好んで食べられており、中でもイワシ料理は定番として親しまれています。

また、意外と日本では知られていないかも(!?)しれませんが、ポルトガルはテロや犯罪に遭(あ)う危険性の少ない安全な国として世界では有名です。「安全面においては、日本のほうが上なのでは?」と思う人も多いかもしれませんが、シドニーに本部を置く国際的シンクタンク「経済平和研究所(IEP)」が発表した2021年の世界平和度指数(GIP)の番付によると、ポルトガルは堂々の第4位(2020年は3位)。ちなみに日本は前年と変わらず12位なので、いかに安全な国かがわかるかと思います。近年、ポルトガルへ訪れる日本人旅行者が増えているのは、もしかしたら食文化の共通点や安全性も関係しているのかもしれません。

さて、日本と縁が深いポルトガルの魅力をさらに探るべく、ポルトガル大使公邸へ。今回のインタビューを快く引き受けてくれたのは、2022年3月に着任したヴィットル・セレーノ駐日ポルトガル大使です。

外交官としてギニアビサウやアルゼンチン、ドイツ、マカオ・香港、セネガルなどの四大陸をわたってきた人物で、歴代の駐日ポルトガル大使の中で最も若い大使でもあります。今回は大使として、特に力を入れている取り組みや日本の印象などをうかがってきました。

駐日ポルトガル大使に
独占インタビュー

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エスクァイア編集部(以下、編集部):歴代の駐日ポルトガル大使の中で最も若いセレーノ大使ですが、ポルトガル政府から何を求められていると感じていますか?

ヴィットル・セレーノ駐日ポルトガル大使(以下、セレーノ大使):それはポルトガルの今を日本に伝えることですね。外交官としてさまざまな国を見てきて、「ポルトガル人は世界の中でも、イノベーティブ(革新的)な精神と柔軟な精神を強く持っている」と感じています。どんどん新しくしていこうという、ポジティブな精神と情熱を持っているのです。私もその精神と情熱で、日本と新たな次元での関係性を構築できればと思っています。それが私の責務であり、とても重要な役割だと思っています。

編集部:具体的にどんな分野の関係性を深めたいと思っていますか?

セレーノ大使:ポルトガルは日本の国土の4分の1と小さな国ではありますが、テクノロジーの分野においてニッチな技術を持っています。

現在(2022年)、約7割が風力や潮力・波力といった再生エネルギーです。その分野では最先端ですが、水素エネルギーは弱いのです。なので、水素に関しては日本から学ぶべきものがあるので、そこで双方がマッチングできるのではないかと考えています。

あとは、医療のデジタル化です。ポルトガルはそれに関してかなり先進的で、例えばパンデミック下における新型コロナウイルス感染症のワクチン接種率は、(1回でも行った日本での接種率がまだ65%弱であった頃の2021年10月の段階で)ポルトガル国民はおよそ接種率は86%を達成しています。そして集団免疫を獲得した最初の国とされています。これは医療のデジタル化が進んでいるからこそ実現できたことであり、「新しい状況にもフレキシブルに対応する能力があるからこそだ」と思っています。

そういったポルトガルが持つ技術を活かせば、さまざまな分野で日本とパートナーシップを結べると信じています。

ビジネスパーソンのような
顔をもつセレーノ大使

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編集部:なるほど。日本は再生エネルギーが占める割合がまだまだ低いので、うまくマッチングできそうですね。

セレーノ大使:技術分野でニッチと申し上げましたが、それはエネルギーや医療だけでなく多岐にわたります。

金融もその一つで、ロンドンをはじめするさまざまな経済のキーセクターという部分にも投資をしています。そういった企業や関係者たちのマッチングも、大使としての任務です。

私は経済や通商に非常に興味関心を持っており、それが国を進めていく根幹だと考えています。幸いなことに約180年の歴史を持つポルトガル商工会議所から、最も経済に貢献した外交官の賞をいただきました。

編集部:大使はビジネスパーソンのような動きもされているのですね。着任して2カ月半(取材時)ですが、最も力を入れている活動を教えてください。

セレーノ大使:さまざまな活動すべて、最大の努力をしています。その中でも、その第一歩となるのが大使館の移転です。

現在の大使館は麹町にあるのですが、とても人に見せられるようなものではなく、お恥ずかしい限りなのです。実際に東京23区の何人かの区長さまを表敬訪問し、何十もの物件を見せていただいています。

非常に大変な作業ですが、現代的で競争力のある今のポルトガルを、外から見てもわかるようにしたいので妥協はできないですね。

編集部:大使館の移転とは、驚きました…。美意識の高い大使のお人柄と、行動力が伝わってきます。

セレーノ大使:そして…次に力を入れているのが企業と企業、政治家と政治家をつなげていくメカニズムをつくり上げていくことです。

そういったものができ上がると、自ずと文化や観光といったものも浸透していくと思うのです。ポルトガルと日本両国には、せっかく約500年もの近い友情のバッググラウンドがあるので、それも最大限に活かしていきたいですね。

スポーツが心身に
安定をもたらし、
コミュニケーションを豊かにする

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編集部:現在のポルトガルを反映させた大使館が完成するのが楽しみです。東京23区の区長に表敬訪問したとのことですが、印象に残っているエピソードはありますか?

セレーノ大使:私はサッカーをはじめとするスポーツが好きなのですが、渋谷区の長谷部 健区長にお会いしたときにマラソンの話になりました。

もちろん最初はフォーマルな話をしていましたが、お互いがマラソン好きとわかった途端、どんどん会話が膨らんでいったのです。会話の内容も豊かになりましたし、スポーツが私と彼を結びつけてくれた瞬間でもありました。ただ、区長のフルマラソンの最高記録は3時間52分らしく、私より早いのがちょっと悔しかったですけどね(笑)。

編集部:スポーツ好きの大使ならではのエピソードをありがとうございます。ちなみに大使にとってのスポーツはどんな存在ですか?

セレーノ大使:私が生きていく上で一番大切にしているのが、“安定”です。その一つが、妻や子どもといった家族がもたらしてくれる安定です。もう一つは自分自身の安定で、それは身体の安定でも、心の安定でもあります。

今でも、サッカーやマラソンをはじめとするあらゆるスポーツにチャレンジしています。「身体を動かすことによって心身の安定を保っていくことこそが、人として自分自身が持つべきモットー」と考えていますので。なので、私の人生にスポーツは欠かせない存在なのです。

編集部:とても素敵な考え方ですね。大使はバイク好きともお聞きしました。

セレーノ大使:はい、ドゥカティのファンで2台所有しています。日本にも1台持ってきましたよ。そのドゥカティに乗って東京の街を走っていると、一瞬だけでもフォーマルな世界から抜け出せるのです。爽快感も味わうことができ、私を解放してくれます。

そもそも外交は、非常に形式ばった一面があります。物事をシステムチックに進めていくことは、もちろん仕事においては大事にしていかなければなりません。ただ、フォーマルな世界から自分をリセットする時間も大切なことだと思っています。私の場合はそれがスポーツであったり、家族と過ごす時間であったり、ドゥカティに乗ることであったり…。要は自分の世界ですね。それが心身の安定にもつながっています。

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セレーノ大使と妻アンドレアさん。

編集部:今年(2022年)の3月8日に来日したばかりとのことですが、これまで日本に訪れたことはあったのでしょうか。また、日本の印象もお聞きかせください。

セレーノ大使:この素晴らしい国との出合いは、私が駐マカオ・香港ポルトガル総領事だった2017年でした。

当時、マカオ航空に東京・大阪便があったので、まずは東京に。続いて新幹線で、京都・奈良・大阪へ訪問しました。日本に対する印象を簡単に言うなら、「ファンタスティック」です。市民の意識が高く、あらゆる国の見本になれる国だと感じました。

また高齢者の人たちに対して、非常にリスペクトを持っていることも素敵ですね。そういった素晴らしい国の駐日ポルトガル大使に着任できて、とても光栄に思います。

編集部:最後に、ポルトガルと日本の今後の進展について、大使の考えをお聞かせください。

セレーノ大使:ご存じだと思いますが、約500年ほど前に西洋人として初めて日本に訪れたのがポルトガル人です。そんなヒストリーがありながら、私たちは長らくあぐらをかいていまっていたのかもしれません。

いうなれば、コンセントからずっとプラグが抜けている状態。私はそのプラグをきちんとコンセントに挿して、ポルトガルと日本…両国の関係性に電気を流したいと考えています。そしてポルトガルが新しく、競争力がある国であることをもっと見せていきたいのです。それこそが大使としての使命、その全体像だと思っています。

編集部:本日は、貴重なお時間をありがとうございました。