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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。 今回は、政府主導で誘致が決まった台湾積体電路製造(TSMC)の国内工場について坂本氏の考えを聞いた。(聞き手は小柳建彦)

質問

 ここ数年、経済安全保障のためにも日本国内で半導体産業を復興すべきだという議論が、政府や与党の自由民主党内で高まっています。その結果、ファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建てる半導体工場に国が約6000億円の助成金を出すことになりました。このアプローチの有効性についていかがお考えですか。

坂本さんの答え

 TSMCが台湾で成熟させた技術を持ち込んでオペレーションするだけなので、将来につながる技術は日本に蓄積されないでしょう。そもそも何を作るかを考える前に工場を作ろうというのは順番が逆だと思います。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)

最先端を手掛けなければ人材は育たない

 もしファウンドリーを日本に作るなら、そこで最先端の5ナノメートル以下の微細加工プロセスの研究開発を実施し、その技術に基づいて量産ラインを構築するような拠点にすべきです。

 しかし今の構想では大部分が20ナノ台という何世代も前の技術の製造ラインになりそうです。一部は10ナノ台の微細度のラインも構築することになりそうですが、いずれにしてもTSMCにとっては最先端ではなく、すっかり成熟した技術です。それをそのまま持ち込んでラインを組んで作るだけになります。これでは今後の半導体微細加工プロセス技術を担う人材は日本に育ちません。

 そもそも半導体の工場はものすごく巨額の投資が必要なのでとてもリスクが高い。工場建設は手始めにやることではないのです。

 まず、どんな半導体の需要を取りにいくか、あるいはどんな需要を作りにいくか、というビジネスの戦略を立て、次にそれを実行するためのファブレスの設計会社を作り、そのファブレスのビジネスが大きくなってある程度自社需要が見込めるようになった段階で初めて工場建設を考えるべきではないでしょうか。