2000年代に名声を博した俳優が、ダークコメディ映画『Red Rocket』でスポットライトの当たる場所へと戻ってきました。これが大変なことであることは彼にもよくわかっているけれど、そのことで舞い上がっている様子は全く見られないのです。

サイモン・レックスってどんな人?

サイモン・レックスについて語るのに、何から始めればよいでしょうか…? 彼の過去を深堀りすることも可能です。モデルをやっていた時代。その後、MTVでVJ(ビデオジョッキー)をやり、俳優をやり、2000年代前半にパパラッチに追い回されてタブロイド紙に話題を提供していた時代。あるいは、それよりもっと前の時代について語ってもいいでしょう。

まだ駆け出しの頃に、ゲイポルノ映画にいくつか出演していたという事実がネット流出もしました。その影響によるか否かは明らかにされていないものの、表舞台から姿を消すこととなったのです。ちょうどこのタイミングで、日本でNHKで第2シーズンのみ放送された『恋するマンハッタン(What I Like About You)』(米国では2002年~2006年まで第4シーズンまで放送)のメインキャストで登場するも、第1シーズン終了後に突如降板となっています。

新作映画『Red Rocket』と大絶賛のサイモン・レックス

ショーン・ベイカー監督の新作映画『Red Rocket』(2021年12月10日米国公開)で、そんなサイモンが演じたマイキー・セイバーと彼自身との間に、奇妙な類似点を生み出していることに気づくことでしょう。なにはともあれ、まずは『Red Rocket』の話から始めることにしましょう。その作品は批評家の間で大反響を呼び、映画にはあまり夢中にならない人たちを夢中にさせているのです。とりわけ、サイモン・レックスの演技に対して。

実は、本記事のサイモンへの「エスクァイア」US版インタビューは、この映画の話がきっかで始まったわけではありません。まず最初に話したのは、サイモンが注目を浴びるきっかけとなった世界、「ファッション」についてです。

メンズファッション界とのつながり|トム・ブラウン、マーク・ジェイコブス…

インタビューを行った2021年11月初旬、サイモンはニューヨークのイーストビレッジで、トム・ブラウンのタキシードの試着を終えたばかりでした。彼がトム・ブラウンと共に出席する2021年のCFDAアワーズに着ていくタキシードです。このデザイナーが彼に同行を求めたのは、「常にサイモンならではのユニークなアプローチでプロジェクトに臨んでいるからで、私をいちばん触発してくれるのは、本当に自分自身でいることに自信を持っている人だからなんだ」と、ブラウンは言います。

サイモンは相変わらず、リラックスした様子で自分の衣装に身を包んでいます(ここに掲載されている写真を見ればおわかりでしょう)。

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サイモンは、「以前ほどこの世界––ファッション業界・モデル業界––に馴染(なじ)んではいません」と言います。とはいえ、「とても興奮はしているよ」と話してくれました。そして彼は、これまであまり聞いたことのない内容の話をしてくれました。

それは今から数十年前に、彼はすでに「高嶺の花」とも言えるニューヨークのハイファッション界にデビューしていたということ。たまたまキャスティング・ディレクターの目に止まり、偶然に近いカタチでモデルになったというわけではなく(とは言え、のちに大きな成功もしていますが)、もっと前からファッション業界と関わりがあって、そのキャリアによって成功を成し得たのです。

サイモン・レックス少年が小学校の卒業式に着るスーツを買うとき、この50年間で最も大きな影響力を持つデザイナーのひとりがそれを手伝ってくれていたとも言います。それはなんと、マーク・ジェイコブスです。

「マーク・ジェイコブス––ぼくは彼と特別なつながりがあるんだ」と、サイモンは言います。「マーク・ジェイコブスとぼくの間には、驚きの事実があるんだよ。それはね、ぼくの事実上の名づけ親は彼の元夫だったんだ。ぼくは子どものときにニューヨークへやってきた。ぼくは10歳の頃にニューヨークに来たんだけど、当時、ゲイの結婚は合法的なものではなかったと思うけれど、とにかく彼らはカップルだったんだ」。

こうしてサイモンは、まだファッション・スクールの学生だったジェイコブスと出会ったのです。「そして、ジェイコブスはぼくを5番街のバーニーズに連れていって、5年生の卒業式で着るスーツを選ぶのを手伝ってくれたんだ。その頃、彼はまだ有名じゃなかったね、これから頭角を現そうとしている時期さ。ファッション業界とのコネクションという意味ではなかなか興味深い話だよね」。

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このときのサイモンの話しぶりは、とてもリラックスしている調子でした。ぶっきらぼうというわけでもありません。彼にとっては紛れもない事実なので、「こんなことがあったんだ、どう、クールだと思わない?」といった平常心で思い出の一片をふつうに語っている感じです。とは言え、彼の25年以上に及ぶキャリアは「このエピソードがあったおかげだった」とみなすこともできるでしょう。

しかし、彼と話していると、その態度にわざとらしさなど全く感じられないのです。それがサイモンの魅力、彼自身がこの世界に臨むアプローチのスタンスであることが確認できました。常に、「悠揚(ゆうよう)迫らぬ態度で臨む姿勢」とでも言いましょうか、なんでもトライしてしまう、冷静な好奇心を持っているようです。少なくとも彼はその姿勢を貫き、最初のモデルの仕事を手に入れたのです。

モデル業のキャリアと暮らし

「要するにぼくは部屋から外へと連れ出されて、『この仕事をやる気はあるか?』って導かれたんだ」と、サイモンは言います。「基本的にはイタリアの雑誌か、あるいはカタログみたいなものだったかもしれないけれど、ぼくが憶えているのは、その仕事のためにミラノへと送り込まれ、そこのエージェントと契約を交わし、それからパリとニューヨークへ行ったことだね。ミラノ––パリ––ニューヨークと、3都市を巡ってファッションショーをやったんだ。で、大学へ行く代わりに、ヨーロッパやニューヨークへ出かけ、そこで暮らしたというわけさ。そしてその後も、そんな生活を世界中でやっいたというわけなんだけど、素晴らしい生活だったよ」。

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そうしてサイモンはモデルのキャリアの後、MTVのVJ(ビデオジョッキー)へ。そして。さらに俳優へと転身します。

2000年代前半には大スターとなり、「Scary Movie(絶叫計画)」シリーズに出演したほか、タブロイド紙にも数多く登場しました。その後は? まあ、言ってみれば、しばらく陽の当たる場所から遠ざかっていたわけです。仕事はしていましたが、誇りに思えるような仕事ばかりだったというわけではありません。(サイモンは、「その頃のショービジネスの仕事の9割は、人に“見てくれ!!”と言う気にもなれないものばかりかな」と言います。「うーん、自分が見る気になれないものだからさ、わざわざ人に言うこともないかって感じなんだ」とも)。

恋人との生活|なぜポルノ映画に出演したのか?

再び、モデルの頃のに戻りましょう。

彼が連れ出された部屋というのは、ちょうどそのときモデルの仕事のオーディションを受けていたガールフレンドを待っていた部屋だったということ。当時ふたりは一緒に暮らしていて、なんとか生活費を稼ごうとするものの、うまくいかない日々が続いていました。そしてやむを得ず、“例の”撮影をやることになったそうです。はっきり言ってしまうと、それはポルノです。ほんの数本だけサイモンは出演しますが、全くスキャンダラスなものではありませんでした。

ですが今では、その話題に触れず彼のことを語るわけにはいきません。なぜなら、彼を再びスポットライトが当たる場所へと連れ戻した役は––新作映画『Red Rocket』の中心人物であり、チャーミングだけど抜け目がない元アダルト映画俳優––マイキー・セイバーなのです。これを語るためには、その過去は欠かせない話題と言えるでしょう。

映画『Red Rocket』とサイモン・レックス本人との類似点

ここにかつては大いに人気を博したものの今では、「次にやることは何かな?」と探す男がいます。彼はチャーミングでルックスもよく、私たちのほとんどがビデオでやらないようなことを(少なくとも広く流通するビデオではやらないことを)何度かやったことがあります。まるで映画に登場するマイキーそっくりです。

マイキーというキャラクター設定は、長い間アダルト俳優をやってのちに燃え尽きて、テキサスにある故郷に舞い戻ってすぐに第二の人生を探しはじめるというもの。この役と、それを演じている俳優自身との間にはささやかな共通点以上に、一種の対称性を認めることもできるのです。

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いくつかの表面的な類似点によって、「この俳優がこの役を演じるためには、自分自身の人生からごっそり持ち出してきたに違いない」と考えてしまう人もいることは確かです。が、サイモンはそれを否定します。

結局のところこのキャラクターはサイモンいわく、「一種のナルシスティックの塊で反社会的な人間。勝手な思い込みをしていて、いつも自分のことばかりしゃべっているんだ。基本的に周囲の人々に対する気遣いも皆無で、自分が欲しいものを手に入れるためには誰を傷つけようとおかまいなしなんだ」といった人物です。

つまり、この役と俳優本人は、全く別の存在であることは間違いありません。大衆がそのふたつを混同することに注意しなければならないということを、サイモンもよく理解しています。彼は風刺ラッパーのダート・ナスティとして、ミッキー・アヴァロンやアンドレ・レガシーと共に『My Dick』という意味深なタイトルのヒットを飛ばしたときにそれを経験していました。

「それはとてもコミカルな存在としてハリウッドのゲス野郎を誇張したようなキャラクターでダート・ナスティになったのだけど、それは半分冗談でつくったキャラクターなんだけどね。でも、“なるほど、あれが本当のサイモン・レックスなんだな”と考える人も少ないことも知っているしね」と、サイモンは説明します。「当時、いざぼくに会った途端、“なんだ、実際はとても思いやりのある人なんだね”となるわけ。ぼくのほうもそこで、“そうさ。あれはただのキャラクターだよ。ぼくが本当にあんなやつだと…?”って言うんだけどね 」。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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さらに彼は続けます。

「それは皮肉にもほどがあるよね。このマイキーって役は、もっとしっかりしたものだよ。そして、こういったタイプの役を演じることは、すごく面白いことだってこともわかったんだ。なにしろひどい役で、だからこそ楽しくて面白い。だって、ぼく自身は絶対にこんなふうにはならないからね」。

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サイモンの言う「楽しくて面白い」が、マイキーというキャラクターの腹黒い一面を意識したものであることは、皆さんも知っておいたほうがいいでしょう。マイキーは輝きを取り戻すことに対して、ほとんど反社会的とも思える強い執着心を持った人物であり、テキサスの故郷に舞い戻ってくると別居中の妻の家に転がり込み、ティーンエイジャーの少女をてなずけはじめるのです。

「この脚本を読むと、彼(マイキー)はとにかくひどいやつで、ぼくは“なるほど、こいつは好感の持てる男ではないけれど、どこか憎めないところがあると観客に感じさせること、それがぼくの仕事ってわけだな”って思ったね」と、サイモンは言います。

「だって、ただひどいだけのやつだったら、何がどうなろうと知ったこっちゃないわけだからね。そこが肝心なところで、ぼくらとしてはうまく表現できたと思ているよ」。

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それは批評家や観客も同意見だったようです。

映画『Red Rocket』は大好評を博し、サイモンの演技は見事な出来と絶賛されています。彼は世界中の映画祭に出席しているほか、今後公開が予定されている作品もすでに2本あります。ひとつはザカリー・クイント、ルーカス・ゲイジ、ジュディス・ライトと共演の『Down Low』、もうひとつは『Mack and Rita』(「小さな役だけど、ダイアン・キートンと一緒に仕事をしたんだ」とサイモンは言います)です。そして、アカデミー賞の噂も飛び交う中で、サイモンの目には再び、誇りに思えるような人たちと一緒に仕事する日々が見えてきているかもしれません。

「たまに、何か特別なものに参加することができるんだ」、とサイモン。「この作品もそのひとつさ。だから、ここではっきり言っておきたいんだ。ぼくがとても感謝していることを。重要な作品に参加できたこと、そしてショーン・ベイカーがぼくの中に何かを見出し、ぼくを信じ、業界のほとんどがぼくに見向きもしないときにチャンスを与えてくれたのは本当にラッキーだったってね。いまではこの映画のおかげで、業界がぼくを見直してる。これってクールなことだよ。そうだろ?」。

Source / Esquire US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。