第4回 北欧神話の起源と写本「エッダ」発見の物語
中世北欧をめぐる話題、北欧神話をめぐる話題、バイキングをめぐる話題などに、「サガ」や「エッダ」という言葉が頻出する。特に「サガ」については、例えば、映画『スター・ウォーズ』シリーズの長大な物語を総称して、「スター・ウォーズ・サガ」などと言うこともある。
では、そもそもどういうものなのか、伊藤さんに聞いた。
「より分かりやすいのはサガのほうですね。片仮名ではサーガというふうに書く人もいるんですが、私はサガと短く書きます。これは語源的にはドイツ語のsagenまた現代英語のsayと同じで、言う、話す、言葉を発するという意味です。日本語で私たちが『物語』とか『お話』というのは、『話す』だったり『語る』『ものを語る』という動詞から派生したといっていい名詞なんですね。サガというのはまさにそれで、本来は言葉を発するという意味の動詞からできあがった『お話』『物語』『語り』という意味の名詞です」
非常にシンプルな話だ。「サガ」とは、まさに「お話」という意味なのである。ただし、歴史的な経緯で、どのような「お話」なのかということには限定がつく。
「本来は伝説であったり、伝承であったり、あるいは神話的なものを全て含んでいたのですが、やがて人々の楽しみのために聞く物語という意味を付随するようになっていきました。特に中世アイスランド人にとりましては、自分たちがどこから来てこの島に住んでいるのか。あるいは今はこういう社会状況だけれども、昔の先祖たちはどんなふうに生きていたのか。さらに言うならば、それこそ異世界ファンタジー的なものなんですが、昔は英雄がいてどのような活躍をしたのか、自分たちにつながる物語として語り継いだ歴史。あるいは自分たちの先祖が信じて語り継いだ物語。それがサガと呼ばれるものです」
ぼくがこの言葉に出会ったのは、高校生以降に読んだ『グイン・サーガ』『エルリック・サーガ』『ネシャン・サーガ』といったファンタジー作品なのだが、これらは英雄譚という意味での「サガ」を活用していたのだと思われる。
なお、サガが書かれたのは12世紀から14世紀だという。「12世紀ルネサンス」と呼ばれる気運があった時代にノルウェー王がフランス宮廷のロマンス詩を取り入れるようになり、吟遊詩人たちが語る物語が宮廷の婦人たちを中心に大流行した際(その中に出てくる騎士たちは日本流に言えば「白馬の騎士」というようなまさに「ロマンチック」な存在だったという)、先祖伝来受け継いでいたサガがあまり語られなくなった。そのことに危機感を抱いた人たちが、サガを写本に書き残し始めた。「ルネサンス」で復興されるのではなく、むしろ消えてしまいそうになった危機感から記録されたというのが興味深い事実だ。
一方で、「エッダ」は込み入った背景のある言葉だ。先に書いておくと、ぼくはこの言葉を石ノ森章太郎のマンガ『サイボーグ009 エッダ(北欧神話)編』で知った。中学生か高校生の時である。主人公のサイボーグたちが、天を覆うほどの巨大な樹木のふもとにある「やどり木の村」を訪ねて、北欧神話の神々の名を持つ超人たちと戦う話だった。これによって「エッダ」が北欧神話と密接な関係にあることは印象付けられたのだが、とはいえ作中には充分な説明もなかったので、当時は「北欧神話=エッダ」だと思っていた。
でもその理解は間違っているようだ。まず、北欧神話というのは、いつできたのだろうか。その起源について。
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