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 筆者は年間150日ほど、いろいろな企業でワークショップ形式の研修講師を担当しています。多くはキャリア(働き方)をテーマにしたワークショップです。キャリアは個々人の事情と深く関係するテーマなので、ワークショップ終了後に個別質問の時間を設けるようにしています。

 この場で受講者から受ける質問や相談に、「アーリーリタイアメント(早期リタイア)」に関するものが増えてきました。20代から50代まで年齢に関係なく、関心を持っているようです。早期退職の募集対象になることが多い40~50代だけでなく、ミレニアル、Z世代といわれる若手からも相談があります。

 早期リタイアは、言い方を変えると「FIRE(ファイア)」になります。「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った造語です。未来に向けて経済的な安定を確立して、その資産で早期リタイアを実現することを意味します。

 FIREについてはさまざまな情報を見かけますが、「いくら貯金があればリタイアできるか」といった資産運用に関するものがほとんどです。今回は仮に貯金がたまったとして、リタイア後の生活について考えてみましょう。本当にFIREがあなたにとって良い選択なのでしょうか。

早期リタイア後の1日をイメージ

 まず早期リタイアした場合の、標準的な1日の過ごし方を考えてみましょう。起床から就寝までを詳細にイメージします。

  • 起床時間は何時?
  • 起床してから朝食まで何をする?
  • 朝食は何時?
  • 朝食後、昼食まで何をする?
  • 昼食は何時?
  • 昼食後、夕食まで何をする?(午後1時に食べ終わったら、午後は5~6時間自由時間)
  • 夕食は何時?
  • 夕食後、寝るまで何をする?(午後6時に食べ終わったとして、就寝が午後11時だと5時間ある)
  • 就寝は何時?

 いかがでしょう。イメージできましたか。

 朝はジョギングや散歩をする、朝風呂に入るといった過ごし方でしょうか。朝食を済ませて、午前中はどんなことをしますか。近所を散歩する、好きなスポーツをする、趣味に没頭するなどが考えられます。

 午後はどうでしょう。実は、午前中でしたいことはほぼやり尽くしたのではないでしょうか。そうすると、午後の5~6時間はどんなことをして過ごすのでしょう。

 そして夕食です。夕食だけでなく、1日3食、ご飯を誰と一緒に食べますか。

 この生活のイメージができるビジネスパーソンは、決して多くないでしょう。イメージできた人がいても、これが365日続くと考えたら、受け入れられますか。

 海外旅行やゴルフなどのイベントは除いて考えてください。平凡な早期リタイアでは、あまり変化のない日常が365日続きます。このことをしっかり理解しておく必要があります。