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 政府と地方自治体で行政システムのインフラ統合を目指す「ガバメントクラウド」は、ITベンダーの戦略に変化をもたらしそうだ。デジタル庁がパブリッククラウドの調達先を、自社サービスと「直接契約」できるクラウドベンダーに限ったからである。

 特に国産ITベンダー大手の多くは、法人顧客の個別ニーズに合わせたプライベートクラウドや、プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」、他社のパブリッククラウドと組み合わせた「マルチクラウド」の提供に力を入れていた。しかし政府がガバメントクラウドで求めているのは、そのどれでもないことが判明した。

 デジタル庁が2022年度に予定する次回以降のガバメントクラウド調達に向けて、国産勢と海外勢はどう動くのか。日経クロステックは、今回ガバメントクラウドに採用された米Amazon Web Services(AWS)と米Googleを除く、国内外の主要なクラウドベンダーに参入の意向を聞いた。

 国産勢ではNEC、NTTデータが「応募を検討している」と回答した。さくらインターネットも「3~5年など中期で時間をかけてでも準備を進める」(田中邦裕社長)と参入を目指す方針を表明した。

 今回採用されたAWSとGoogleに競合する海外ベンダー大手も参入の意向を示した。米Microsoftが参入の準備を進めているほか、米Oracle日本法人である日本オラクルも「応募を検討している」という。

 なお富士通と日立製作所は今後のガバメントクラウドへの応募意向について「コメントを控えたい」と回答した。NTTコミュニケーションズは「(今後の)ガバメントクラウドの要件が当社サービスと合致する場合は提供していきたい」とした。

 富士通は国産大手ベンダーの間でも、特に中央官庁など行政機関に自社サービスを提供することに注力してきた。同社の「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-O」には行政の利用を想定した「ガバメントクラウドサービス」というメニューもある。デジタル庁の要件を踏まえた機能強化や戦略が注目される。

主なクラウドベンダーのガバメントクラウドへの応募意向。日経クロステックのアンケート・取材による
ベンダー名参入への考え方
Microsoft(日本法人の回答)応募へ準備を進めている。(技術要件を確認するために)デジタル庁側と協議を持った機会もあり、要件は満たせると考えている
日本オラクル検討している。今回の要件のほとんどはすでに当社サービスで満たしていると考えている
NEC検討している。今回は要件に合わず応募を見送った
NTTデータ要件に合うサービスを適材適所で提供する方向で検討をする。今回は要件に合わず応募を見送った
さくらインターネット中期で参入できるよう準備を進める。ISMAPの取得は申請済み
NTTコミュニケーションズガバメントクラウドの要件が当社サービスと合致すれば提供したい
富士通回答を控える
日立製作所回答を控える

NECとNTTデータは自社クラウドの強化で検討へ

 NECとNTTデータは2020年にそれぞれ、ハイブリッドクラウドやマルチクラウド提供の強化を打ち出していた。ただしガバメントクラウド向けでは、自社のクラウドサービスを強化したうえで参入への検討を進めるという。2社はどちらも「行政機関にマルチクラウドやハイブリッドクラウド、運用受託や設計などをトータルに提供していく」という従来方針も維持する考えだが、若干の軌道修正を伴う形だ。

 このうちNTTデータはプライベートクラウドに近い「専有型」も含めて、「顧客ニーズに合ったサービスを適材適所で提供する」としている。現在のガバメントクラウドの要件に合ったサービス提供を目指すかについては明言しなかった。

 さくらインターネットは政府のクラウド調達で必須となる「ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)」の認定を2021年6月に申請し、2021年度中にも取得見通しだという。ガバメントクラウドを含めた政府案件に応募するためで、「特定の用途に限って要件を絞るなど、ガバメントクラウドの調達も多様化する可能性がある」(田中社長)ことも視野に入れて、準備を進める考えだ。

 ベンダーにとっての課題は、2021年10月に実施した2021年度分の調達で課された、約350の網羅的な要件をどうクリアするかだ。2021年度の選考は3社の応募にとどまり、AWSとGoogleの2社だけが選定された。要件には事業規模の大きさや自動翻訳など広範囲なAI(人工知能)機能の提供を求めるものもあり、米IT大手のほかは実質的に応募が絶たれる要件だった。