映画『TENET テネット』の時間逆行するストーリーの後、クリストファー・ノーラン監督は新たな方向へと舵を切ることを決めたようです。彼の次回作は、複雑なSF作品ではなく、1人の歴史上の人物の人生や難しい選択を描いた、現実的かつ歴史的な物語になるでしょう。それは、世界初の2つの原子爆弾をつくったJ.ロバート・オッペンハイマーの物語です。

1930年代、フランクリン・ルーズベルト大統領は、ドイツ生まれの科学者であるアルバート・アインシュタインから、ナチスが核兵器の開発を進めていることを危惧する手紙を受け取ります。そこでルーズベルト大統領は、理論物理学者であるオッペンハイマーを所長に任命し、「マンハッタン計画」と呼ばれる独自の作戦を開始したことがすべての始まりです。

プロジェクトの存在を秘密にするためにオッペンハイマーの科学者チームは、テネシー州、ワシントン州、ニューメキシコ州など研究所をそれぞれ遠隔地に分散していました。そしてオッペンハイマーは、ベルギーのコンゴで採掘されたウランを用いて、1945年に広島と長崎に投下された原爆「ファットマン」と「リトルボーイ」を製造したのです。

ノーラン監督の次回作について
知っておきたいこと

ノーラン監督のこの映画が、いつ映画館で公開されるのか? そして、どの俳優が出演するのか? は、現段階ではまだわかっていません。題材以外で確実にわかっていることは、「この映画がワーナー・ブラザースによる製作ではない」ということです。ノーラン監督作品は、これまでほとんど同社から誕生していましたが、ワーナー側が『テネット』をすぐにストリーミング配信にかけるという意向を示してからというもの、両者には亀裂が入ってしまったようです。

今のところ、ノーラン監督による最新映画に関する情報は謎に包まれています。映画専門誌「Deadline」の記者によると、ノーラン監督が俳優のキリアン・マーフィーとの共同製作を望んでいると聞いたようです。『バットマン ビギンズ』や『インセプション』などの映画でキャリアをスタートさせたマーフィーは、その後、Netflixシリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』での主演のおかげで、大スターになりました。マーフィーの骨ばった顔の輪郭は、オッペンハイマーに少し似ていると言えるので、もしかしたら主役に選ばれるかもしれません…。

de bom fat man op het manhattanproject
Manhattan Engineer District
オッペンハイマーがつくった爆弾「ファットマン」は長崎に投下され、2万5761人の命を奪っただけでなく、生き延びた人々は長く苦しい後遺症に悩まされました。

次の作品ではSFではありませんが、ノーラン監督にとって少なくとも慣れ親しんだ領域でもあります。2017年の彼の作品『ダンケルク』では、第二次大戦中にドイツ軍のフランス侵攻の最中の撤退戦で、港町のダンケルクで包囲されたイギリス・フランス連合軍40万人をイギリス本国へ帰還させる作戦をテーマに描いていました。つまり、第二次世界大戦中という時代設定は二度目になるということ。歴史好きと称されるノーランにとって、「この時代を語るには、まだまだ時間が足りない」ということなのかもしれません…。

アクションではなく、エモーション

ノーラン監督が得意とする、リアルな爆発的などのアクションシーンを期待していた人はがっかりするかもしれません。この映画で見られる唯一の爆発は、おそらく原子爆弾そのものの爆発と考えられます(もしかすると、その爆発はない可能性もあります)。つまり、従来のようなアクションシーンはほとんどないと予想されます。オッペンハイマーの物語は戦場ではなく、研究室が舞台だからです。

オッペンハイマーの物語は、困難な選択と、彼の心を揺さぶる感情の物語になるはずです。今日、多くの人は彼が原爆を設計したことを批判し、日本で起きた悲劇と何万人もの人々の人生を奪った責任を彼に求めています。オッペンハイマーは戦後、「親戚や同胞を守りたかった」と言っています。が、「科学者(物理学者)としての罪を知った」とも言い、さらに古代インドの聖典『バガヴァッド・ギーター』の一節、ヴィシュヌ神の化身クリシュナのセリフ「われは死神なり、世界の破壊者なり」を引用して、「われは死なり、全てを破壊する者なり」と後悔する言葉も残しています。

robbert oppenheimer
Getty Images
ロバート・オッペンハイマーはマンハッタン計画の責任者であり、「ファットマン」と「リトルボーイ」の生みの親でもあります。

このような疑問に、ノーラン監督は映画を通して答えようとしているのでしょう。1人の男とその男が抱える倫理的なジレンマを描いたシンプルな映画で、特に『テネット』や『インターステラー』のように時間や空間に関する複雑な概念を扱った作品の後では、監督にとって大きな変化となるでしょう(とは言え、ここでも時間をツイストさせる可能性は無きにしも非ず…です)。

ノーラン監督がオッペンハイマーについての魅力的な映画をつくれるかどうかは、まだわかりません。なので公開されるまでの間、私たちはこの傑作の可能性について随時追っていこうと思っています。

Soure / ESQUIRE NL

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