米国時間の11月15日(日本時間11月16日午前9時27分)、米スペースX社は民間として最初の運用ミッションとなる宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功した。スペースシャトルの退役から9年、NASAは宇宙飛行士を送り出すのにずっとロシアの宇宙船に頼らざるをえなかったが、いよいよこの状況に終止符を打つことになる。
誰も想像していなかった
起業家のイーロン・マスク氏が2002年に設立したスペースXが、太平洋のマーシャル諸島にあるオメレク島で最初のロケットの打ち上げに挑んだのは2006年のことだった。しかし、米空軍士官学校の人工衛星を積んだファルコン1ロケットは、打ち上げから約30秒後にエンジントラブルに見舞われた。ロケットは海に落下し、吹き飛ばされた人工衛星は島の倉庫に激突した。
その1年後には、ダミーの貨物を積んだファルコン1が打ち上げられたが、軌道に到達する直前に制御不能に陥った。2008年8月の3度目の挑戦では、NASAと米国防総省の小型人工衛星を積んだファルコン1が打ち上げられたが、第1段ロケットと第2段ロケットが分離後に激突してエンジンが損傷し、失敗に終わった。
それからわずか8週間後、スペースXは4度目の打ち上げに挑んでついに成功。民間資金で液体燃料ロケットを軌道に投入した最初の企業となった。
2008年当時、この勇敢な航空宇宙企業がのちに何を成し遂げるか、誰も想像していなかったはずだ。スペースXは現在、自社の宇宙船で人間を軌道へ運んだ最初の、そして唯一の企業となっている。しかし、同社がここに至るまでの道のりは長かった。史上初の成功と派手な失敗を繰り返し、創業者であるイーロン・マスク氏をめぐる論争も絶えなかった。(参考記事:「初の有人商業宇宙船を打ち上げ、米スペースX」)
賭けに出たNASA
スペースXはその後も数々の記録を打ち立ててきた。2012年には国際宇宙ステーション(ISS)への補給ミッションを成功させ、その3年後には史上初めて軌道ロケットの第1段ブースターを地上に着陸させ回収した。現在はパワーアップしたロケット「ファルコンヘビー」を運用、米国は昨年、軌道への打ち上げを21回行っているが、ファルコンヘビーはそのうちの13回に使用された。(参考記事:「スペースXの最新ロケット、ここがスゴイ」)
しかしスペースXは、NASAなしでは今日の地位を築くことはできなかったはずだ。NASAは、スペースXがまだロケットを飛ばしてもいない2006年に、同社との間で商業軌道輸送サービス(COTS)プログラムにもとづく契約を締結し、最終的に3億9600万ドル(約415億円)を投資して、宇宙船「ドラゴン」とファルコン9ロケットを開発させた。
NASAの商業宇宙飛行担当ディレクターであるフィル・マカリスター氏は、「NASAの当時の長官で、COTSプログラムを構想したマイク・グリフィン氏は、これをギャンブルと呼んでいました」と回想する。
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