私たちははるか昔から、友情を示したり、商取引を成立させる際に、握手やキス、ハグをしてきた。ただし、他人に触れるという行為は、不適切なものも相手に伝えてしまう。
新型コロナウイルスの感染者が増えるなか、フランスでは国民的な習慣となっている頬へのキスを当面控えるようにとの警告が発せられた。世界中のビジネスの場では、握手のかわりにひじをぶつけ合う挨拶が採用されている。
知らない人と触れ合うこうした習慣は、いつどのように始まったのだろうか? かつての感染症の流行の際に変化はあったのだろうか?
握手の起源として有力な説は、平和の意思表示として始まったというものだ。互いの手を握るという行為は、武器を手にしていないことの証になり、その手をゆさぶることで、相手が袖の中に何も隠していないことが確認できる。
世界各地に残る古代の壺や墓石、石版などには、数多くの場面で握手のモチーフが登場する。結婚の場面はもちろん、神々の契約、戦士が戦いに赴く場面、死者が死後の世界に到着する場面にも、握手が描かれている。文学作品である『イーリアス』や『オデュッセイア』にも登場する。
一方で、握手はその万能さゆえに、描かれている場面の解釈が難しくなる。「握手は今日でも人気のあるモチーフです。現代人もまた、握手を複雑かつあいまいなものだと感じているからです」。美術史家のグレニス・デーヴィズ氏は、古典美術における握手の使われ方についてそう述べている。
米国で握手が広まったのは、18世紀のクエーカー教徒の影響が大きいと思われる。階級や社会的な序列に関係なく振る舞おうとしていた彼らは、当時一般的だったお辞儀や帽子を脱ぐといった仕草よりも、握手の方が挨拶としてより民主的だと考えた。
「クエーカー教徒は仲間内で握手を習慣としており、それを今日の私たちと同じように、地位に関係なく誰にでも用いるようになった」。歴史家のマイケル・ザッカーマン氏はそう書いている。
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