クモの糸は、地球上で最も用途が広い素材の1つだ。タンパク質でできていて、移動の手段にも、隠れ場所にも、求愛の道具にも、獲物を捕らえる独創的なわなにもなる。(参考記事:「弦楽器であり感覚器官であるクモの糸」)
数種類の糸を作り出せるクモもいる。例えば、よくある円形の巣には、少なくとも4種類の糸が使われているとみられ、それぞれ強度、柔軟性、粘着性などが異なる。
これほど多目的な素材を手に入れたクモは、驚くほど多様な巣を発達させてきた。ただし、「クモの巣」とは言うものの、本質的には獲物をとるためのわなだ。英語でウェブというとおり、「網」と呼ぶほうがふさわしい。落ちてくる獲物を受け止める水平なシート状の網もあれば、飛んでくる獲物を待ち構える垂直な格子形の網もある。クロゴケグモは複雑で厄介な網を作るし、じょうご形やランプシェード形の網は、時に立体的な彫刻に似ている。カラカラグモ科のクモは、近くの獲物目がけて、投石器さながらに自分自身と円錐状の網を発射できる。一方、メダマグモは自分で作った網を投げて獲物を素早く捕まえる。(参考記事:「巣を“発射”して狩りをするクモ」)
オーストラリアのセアカゴケグモは、糸が複雑に絡まった網を作る。そして端がガムのようにねばつく糸を地面に向かって真っすぐ伸ばす。アリやコオロギがこの糸に触れると、即座に糸に絡めとられる。なすすべのない虫は空中に釣り上げられ、セアカゴケグモが食べる気になるまで放置される。
「クモの中には、紫外線反射が小さく、しかも半透明の糸を出すものがいます。そのため、昆虫の目には見えないのです」。進化生物学者で『クモはなぜ糸をつくるのか? 糸と進化し続けた四億年』の共著者であるキャサリン・クレイグ氏はこう話す。
それとは対照的に、紫外線を反射し、一定の角度では青く見えるクモの糸もある。また熱帯のジョロウグモの仲間には、日光が当たると液体の金に浸したように光り輝く糸を出すものもいる。カロテノイドという黄色い色素が糸に混じっているせいだ。(参考記事:「アジアの女郎グモ、米国へ侵入・定着」)
網作りをすっかり放棄してしまったのはナゲナワグモだ。賢い彼らはフェロモンに似た物質で近くのガを誘うと、粘着質の重い糸をこん棒のように空中で振り回して一撃を加える。ワシグモ科は、獲物に向かってスパイダーマンのように糸を放つ。(参考記事:「シリーズ地球のいのち 華麗な生物の擬態」)
しかも、網を作らない種は決して例外ではない。
科学界に知られている5万種近いクモのうち、全く網を張らない種は多数派だとクレイグ氏は言う。だが、網を張らないクモも糸は出す。クモの糸の使い方は多種多様で、思わずからめとられそうになるぐらい魅力的だ。(参考記事:「タランチュラは足から糸を出す」)
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