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劇的な幕切れだった。浦和レッズは15日の明治安田生命J1リーグ第15節でサガン鳥栖に2-1と逆転勝ち。新体制での初白星を手にするとともに、実に6試合ぶりの勝利を収めた。代表戦開催に伴う中断期間で、大槻毅監督はチームにどんなフィロソフィーを植え付けたのだろうか。【文=原山裕平】
■劇的な幕切れとなった鳥栖戦
「神がかり的」と表現しても、決して大げさではない。新体制となった浦和レッズの戦いぶりのことである。
5月26日の第13節・サンフレッチェ広島戦に敗れ、10年ぶりの4連敗を喫した浦和は、オズワルド・オリヴェイラ前監督がチームを去り、大槻毅氏を新指揮官に据えてリスタートを切った。
その大槻体制初陣となった第14節の川崎フロンターレ戦は、1点ビハインドで迎えたアディショナルタイムに、森脇良太が劇的な同点ゴールをマーク。ほとんど防戦一方の展開のなか、最後に訪れたチャンスを逃さずに、負け試合を引き分けに持ち込んだのだ。
あれから2週間、浦和はまたしても奇跡のシナリオを演じる。ホームにサガン鳥栖を迎えた一戦は、早い時間帯に先制点を許すも、31分に宇賀神友弥が豪快な一撃を突きさして同点にすると、その後も積極性を保ち、相手ゴールに迫った。
しかし、後半の10分も過ぎたあたりから、突如失速して劣勢に立たされてしまう。セカンドボールを拾えず、球際の攻防に屈する場面も増加。受け身の展開となるなかで、勝機は次第に遠のいていった。
ところが、である。後半アディショナルタイム、自陣でボールを拾った途中出場のマルティノスが、そのまま左サイドをドリブルで駆け上がると、アウトサイドでパスを供給。これが相手DFに当たり浮き球となると、逆サイドで待ち受けていた興梠慎三が、冷静にインサイドで押し込んで、決勝ゴールを奪ったのだ。
「本当はグラウンダーで出したかったが、相手に当たっていい感じでいってくれた。結果オーライですね」
マルティノス本人がそう認めるように、決勝点につながったパスは決して意図したものではなかった。ところがそのパスが、DFがぎりぎりでかぶってしまうほどの絶妙な軌道を描き、フリーとなったエースに到達してしまうのだ。それまでの展開や、時間帯を考えても、まさに幸運と呼んでいいだろう。しかも2試合連続の劇的な幕切れである。
■ミシャ時代を彷彿とさせる大槻スタイル
もはや、大槻監督の“神通力”を感じずにはいられない。
もっとも、「組長」の愛称で親しまれる強面の指揮官は、非科学的な力を信じるタイプではない。分析のスペシャリストとして経験を積んできた理論家であるからだ。
川崎F戦では準備期間が足りず、メンバー変更で刺激を与え、約束事を徹底させる程度にとどまったが、国際Aマッチデーを挟んだこの鳥栖戦までには2週間の猶予があった。川崎F戦後に「戦術的な積み上げをしっかりやりたい」と語っていた指揮官は、その2週間で確実にチームに戦術的な変化をもたらしていた。
最も特徴的だったのは、前線に人数をかけられるようになったことだ。立ち上がりこそ1トップ、2シャドーが孤立する場面が見られたが、次第に選手の距離感が良くなり、前線で連動できる機会が増加。ボランチの青木拓矢が果敢にくさびを打ち込み、1トップの興梠が収めて、シャドーの武藤雄樹や両サイドに展開する攻撃が増えていった。
宇賀神の同点ゴールは、右サイドからのクロスに対し3人が関われる状況にあった。武藤と興梠の2人が“おとり”となれたのも、エリア近くに人数が揃っていたからに他ならない。
そうした状況を生み出せた要因は、前線からの守備意識の徹底にある。
「オリヴェイラ監督の時よりも、前に対してプレッシャーを掛けにいくというのが大槻監督の狙い。後ろの選手も高い位置を取り、前の選手を押し出すっていうやり方ですね。そこは大きく変わったと思います」
ここまで14試合に先発フル出場している槙野智章がそう明かすように、高い位置からボールを奪いに行くことで、前に人数をかけられるようになったのだ。それにより最終ラインからの攻撃参加の機会も増えていった。
これはミハイロ・ペトロヴィッチ(現・北海道コンサドーレ札幌監督)が指揮していた頃のサッカーを彷彿させるものである。槙野は原点回帰とも言える新たなスタイルにやりがいを感じていた。
「ミシャ(ペトロヴィッチ監督)の時ほどではないですけど、『あれぐらい行け』と言われているし、ボール運べとも言われている。またああいう姿をちょっとずつ思い返しながら、出していければいいかなと思います」
一方でリスク管理の面では、課題が残った。ウイングバックが高い位置を取る分、背後のスペースを狙われてしまう。サイドからの進入を許した失点場面のほかにも、ウイングバックの裏のスペースを、鳥栖の狙いどころにされていた。
また途中まで機能していた能動的な守備も、時間が経つにつれて鋭さを失っていく。鳥栖が長いボールを増やしてきたこともあるが、結果的にボールの取りどころが自陣深くとなってしまう。そこから盛り返そうとしても、なかなか前にボールを運べず、セカンドボールの対応や、デュエルで後手を踏むシーンが増え、鳥栖に押し込まれる展開となってしまったのだ。槙野は言う。
「監督は試合前に『オープンなゲームにしたくない』ということを言っていました。でも後半はオープンな展開となってしまったし、ボールの失い方も良くなかった。そこはこの試合の反省点かなと思います」
決勝弾を挙げた興梠もまた、守備の強度が下がったことを認めている。
「やっぱり前から守備をする分、後半は体力的に落ちてくるのかなと。90分間を通したペース配分というのはもっと考えないといけない。特にこれから暑くなってきたら、余計にオープンな試合になってしまうと思うので、そこはもうちょっと考えていきたいなと思います」
大槻監督は「最終的に勝ち点3が取れた」ことは評価しつつも、「内容のところはこれから上積みすることを目標としながら、次に進めることが大きなことだと思います」という言葉からも、内容的には求めるレベルに達していなかったことが窺える。実際に、狙い通りの戦いができたのは、先制された後から後半の頭までのわずかな時間に限られたからだ。
それでも、柴戸海や岩武克弥ら、これまで出番の少なかった選手を積極起用してチームの活性化を図るとともに、鳥栖戦では限定的ながら目指すスタイルを表現できた。しかも、結果的に勝ち点3を得られたのだから、浦和にとっては今後につながるポジティブな試合となったのは紛れもない事実だ。
むろん、課題はまだまだ多く、スタイルの浸透には相応の時間が必要だろう。とはいえ、監督交代の決断は、浦和にとって大きなターニングポイントとなるはず。
二度も吹いた神風を後押しに――。大槻監督による浦和再建への道のりは、まだ始まったばかりだが、少しずつ光明が差してきているのは間違いない。
文=原山裕平
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です