ハイハイしていた赤ちゃんが2本の足で歩き始める。本人や親にとってはもちろん、動物の種としても、それは特別な出来事だ。成長するにつれて、同じように4足歩行から2足歩行へ移行する動物はほとんどいない。はるか昔に絶滅した恐竜以外には。
その恐竜のなかで、4足歩行から2足歩行へ移行していた証拠がまた新たに見つかった。ムスサウルス・パタゴニクス(Mussaurus patagonicus)と呼ばれる竜盤目竜脚形類の恐竜だ。論文は、5月20日付けで学術誌「Scientific Reports」に発表された。
ムスサウルスという属名は「マウストカゲ」という意味だ。というのも、孵化したばかりのムスサウルスは、ネズミほどの大きさしかないからだ。人間の手のひらにすっぽりと収まる大きさだが、その後、シダ植物などを食べてみるみる成長し、わずか8年で体重が1トンを超える。体の大きさと形があまりに急激に変化するため、歩行形態もそれに合わせて変化せざるを得なかったのだろうと、最新の研究論文は指摘する。
およそ2億年前から始まったジュラ紀の初期に生きたムスサウルス・パタゴニクスに関しては、3つの異なる成長段階の化石がほぼ全て見つかっている。それらを基に3Dモデルを作り、成長するにつれて体の重心がどう移動していったかを研究した。すると、幼体の頃は大きな頭と首によって体が前方に傾き、十分に発達した前脚がそれを支えていたことがわかった。しかし、尾の成長とともに重心は骨盤の方へ移動し、体全体が上方向へ伸び、2足歩行を可能にした。(参考記事:「ネコ脚で四足歩行、奇妙で巨大な新種の恐竜を発見」)
「このパターンが全ての竜脚形類に当てはまるかどうかはわかりませんが、この恐竜のグループが人間と同じように成長とともに2足歩行するようになったという事実は大変興味深いです」と、アルゼンチンにあるラ・プラタ博物館の古生物学者で、この研究を率いたアレハンドロ・オテロ氏は言う。