止まらない就活でのコンサル人気、学生が求めるのはスキルとモラトリアム

就活

2020年卒の就活も佳境を迎えている。近年高まるコンサル人気の理由とは。

撮影:今村拓馬

就活生、特に東大・京大などいわゆる上位校の就活生の間で、2019年もコンサルティングファームの人気が止まらない。両校の学生を対象とした就職人気ランキングでは、並みいる大手商社やメガバンクを抑え、コンサルが圧勝の様相を呈した。

「3年いれば、どこへ転職してもやっていける」(人材サービス担当者)とも言われる業界で、汎用性の高いスキルを身につけたい、という学生の思惑がうかがえる。一方、やりたい事が見つからない学生が、モラトリアム期間を延ばすために選択するケースも……。 コンサルを目指す学生は、そして受け入れる側の企業は、それぞれ何を求めているのか。

「受験アスリート」とコンサルの高い親和性

新卒就活サイトを運営するワンキャリア(東京)が東大・京大の就活生を対象に実施した就職ランキングを見てみよう。

調査対象:東京大学・京都大学、または同大学院に所属する2020年度卒予定のONE CAREER会員による、企業別の「お気に入り」登録数を元にワンキャリアが作成

出典:ワンキャリア

トップ10のうち、実に7社がコンサルティングファームだ。 両校の学生がコンサルを目指すのはなぜか。

日々、多くの就活生と接しているワンキャリアの多田薫平マネージャーは、学生の能力と、コンサルに必要な資質との親和性の高さが理由の一つだと分析する。 両校に入るには、「地頭」の良さに加え、論理的思考力や問題が解けるまで考え続ける忍耐力が要求される。

「『受験アスリート』である彼らの能力は、顧客から次々と投げかけられる課題を、ボールを打ち返すように解き続けるコンサル業務と相性がいい。実際に内定を得るのも、思考力が高く反応速度の速い、優等生タイプが多い」(多田氏)

近年の就活では、先輩の経験談やネットに投稿される「口コミ」の影響も大きい。

多田氏によると「コンサルに内定した先輩が、一緒に選考を受けた学生や若手社員の優秀さを語ることで、後輩もこの業界を目指すようになる」という好循環も生まれているという。

ずっとコンサルで働くつもりはない

「特に行きたい業界はなく、厳しい環境の中で成長したいと思って、コンサルを志望しました」

外資系コンサルに内定した東京大学4年の男性(21)は、志望動機をこう語った。

コンサルで働く親戚が「表には出ないが、社会の大きな変化に関われる」と面白さを語っていたことも、背中を押したという。 内定を得たコンサル数社の中から、就職先を決めた理由は「専門領域を絞らず、幅広いスキルを蓄積できる」と考えたためだ。

「『アップオアアウト』(昇進の見込みがない社員を離職させる、外資系コンサルなどに見られる人事方針)でなく、比較的落ち着いた社風」にもひかれた。

一方、慶應義塾大学3年の男性(21)は、コンサル就職を目指しているが「ずっと働くつもりはない」ときっぱり。将来、教育分野でビジネスを始めたいと考えており、事業に必要なスキルを身につけたい、というのが主な動機だ。「インターンで活躍するなど、先輩たちの中でも特に優秀な人がコンサルに就職している」ことも、理由の一つだという。

外資就活ドットコム」を運営するハウテレビジョン(東京)の千田拓治執行役員は「学生がコンサルに集まる大きな理由は、自分が成長できるという期待と、若手でもすぐに社会的インパクトが大きい仕事ができること。そして、どこに行っても胸を張れる高いブランド力だ」と、話す。

好景気の体験がない現代の就活生

NRI

コンサル人気の背景にある、学生たちの就業観を語る野村総合研究所、採用担当の吉竹恒氏。

撮影:有馬知子

では、企業側は就活におけるコンサル人気をどうみているのか。

ワンキャリアのランキング1位となった野村総合研究所(NRI)採用担当の吉竹恒氏は、時代背景も学生の志向に影響を及ぼしていると分析する。

現在の就活生は1990年代後半に生まれ、好景気の経験がほとんどない。リーマンショックや超円高に伴う大企業のリストラなども目の当たりにしてきた。吉竹氏は言う。

「学生に『大企業へ入れば安泰』という期待はなく、自分のスキルを高めることが安心につながると考えている。先行きが不透明な中、業界を絞るのはリスクが高い、なるべく領域を広げておきたいという思いも強い。その結果、コンサルが有力な選択肢として浮上した」

冒頭で紹介した慶應大の学生は、コンサルの中でも大手より、少数精鋭のファームに就職したいという。「大手コンサルには、3年間同じ企業に常駐するような仕事もあると聞いているが、転職を前提に考えると、それでは事業会社に就職したのと変わらない。いろいろなクライアントと仕事をし、多様なスキルを身につけられる環境に身を置きたい」と、目標を語った。

コンサル時代のスキル武器に国連職員に転身

国際連合

コンサルは次に「やりたいこと」をやるための、ステップになるか。

GettyImages

本当にコンサルは「つぶしが効く」のか。2年半、コンサルに籍を置いた後、国際人道支援の現場へ転じた女性に話を聞いた。

国連世界食糧計画(WFP)職員の並木愛(29)さんは、途上国の発展や災害復興を支援する仕事に就きたいと考え、「社会課題を解決するスキルを身につけるため」(並木さん)、新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社した。

在職中は、世界的なファストフードチェーンの会計システム導入を支援したり、自動車メーカーのプロジェクトで工場の職員と一緒に働いたりと「期待以上にユニークで、幅広い事業に携われた」。

徹夜続きの業務もあったが、つらさの中にも「こんなに短期間で、世の中の仕組みを体感できる仕事はない」という手ごたえがあったという。「先輩たちに『脳に汗をかけ』と叱咤されながら、問題の本質を見抜き、解決に向けて効率的に仕事を進めるスキルを学べた」と振り返る。

現在の職場は、途上国での食糧支援が主な業務だ。現地では、クーデターが起きて外出禁止令が出る、訪れた難民キャンプでデモが発生するなどトラブルも頻発する。「厳しい生活環境の中、次々と降りかかる問題に対処する瞬発力や体力、気力のほか、どんな時も冷静さを失わない度胸もコンサル時代に培われた」と話す。

コンサルさえ行けば……という思考停止

コンサル

数年後、コンサル出身者が転職市場にあふれる可能性もある?

GettyImage

並木さんは、学生時代から明確な目標を持ち、それを達成する手段としてコンサルを選んだ。

だがワンキャリアの多田氏は「将来やりたい事が見つからず、モラトリアム期間として、とりあえずコンサルを目指す学生の方が多い」と指摘する。「数年コンサルで働いたら起業したい」と話す学生の中にも、「起業して何をするの」と聞くと答えられず、「手段が目的化している人が相当数いる」(多田氏)。

ワンキャリア採用担当の寺口浩大氏も言う。

「コンサルは、(どんなキャリアにも進める)魔法の扉が付いた修行場ではない。出口がどこなのかも分からないまま、修行を続けるのは危険です」

例えばアクセンチュアは2020年卒業予定者について、「2019年卒と同様、数百人を採用する予定」としている。

業界全体としても採用数は増加しており、数年後には「コンサル出身者」が転職市場にあふれることにもなりかねない。

「ポストコンサル」で考えられる選択肢は、事業会社の管理職や、ベンチャー・中小企業の経営企画、そして起業などさまざまだ。しかしベンチャーや中小のポストはさほど多くはないし、起業家は「頭に汗をかく」だけでなく、実際の行動力や逆境に対する強さなども求められる。

寺口氏は「コンサルさえ行けば安心だと思考停止に陥らず、自分はどのようなキャリアを築くべきなのか、考え続ける必要がある」と話す。

また野村総研の吉竹氏は、就活生にこうアドバイスした。

「何かをしたいと言う渇望感や課題解決への意欲は、好きなものに熱中したり、試練を乗り越えようと苦しんだりした原体験から生まれる。学生のうちに、ボランティアやサークル、インターンなど、さまざまなチャレンジを主体的に重ねてほしい」

(文・有馬知子、写真はイメージです)

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