米国のトランプ政権が「大統領気候安全保障委員会」の設置に向けて動いている。
これは一見、地球温暖化対策へ向けた前向きな一歩に思える。なにしろトランプ大統領はこれまで、パリ協定を離脱し、地球温暖化を否定するツイートを連発してきたからだ。(参考記事:「トランプ次期大統領が引き起こす気候変動の危機」)
ところが、委員会設置の提案が先日ワシントン・ポスト紙にリークされると、気候科学者、環境問題活動家、国家安全保障の専門家らはみな眉をひそめた。彼らが懸念しているのは、この委員会の役割と、設置を推し進めているアドバイザーのバックグラウンドだ。
そのアドバイザーとは、ウィリアム・ハッパー氏。79歳になる米プリンストン大学の物理学者で、先ごろ、米国の国家安全保障会議においてトランプ大統領の副補佐官となった。
ハッパー氏はこうした立派な経歴を持っているだけでなく、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの代表格である二酸化炭素は、地球にとって脅威どころか恩恵であるという、過激な意見の持ち主でもある。ハッパー氏は、トランプ氏の科学顧問候補だった2017年、インタビューでこんなことを言っていた。「はっきり言わせてもらいます。わたしは二酸化炭素が問題だとはまったく思いませんし、むしろ良いものだと考えています」
二酸化炭素はほかの汚染物質のように消失せず、大気中にひたすら蓄積され続けることを指摘されると、彼はこう答えた。「二酸化炭素が地球上に長くとどまるのは良いことです。長ければ長いほどいい」
新たな委員会を設置するというハッパー氏の提案は、先日トランプ政権の高官たちに配布された文書に記されていた。委員会は12人編成で、主な目的は、人間の活動による地球温暖化がもたらすリスクを指摘する近年の政府報告書を、「敵対的な立場からの科学的査読」によって見直す、というものだ。この「敵対的な立場から」というのも懸念材料の一つとなっている。(参考記事:「2018年の海水温が観測史上最高に、研究発表」)
「批判は査読には欠かせない要素です。欠点を探り出すことで真実に到達しようとするものだからです」。米国気象学会の元会長で気象学者のウィリアム・ゲイル氏はそう語る。「敵対的な立場からの批評が目指すのは、主に議論を下火にさせることであり、真実に到達することではありません」
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