根絶計画始動、海鳥を生きたまま食べる外来ネズミ

絶滅危惧種の海鳥を保護、生物多様性に富む南アフリカ、マリオン島

2018.12.19
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頭皮をかじり取られたハイガシラアホウドリのひな。南極圏に近いマリオン島で撮影。痛々しい姿から、海鳥が直面している侵略的生物の脅威が伝わってくる。200年前、なんらかの理由からアザラシ猟をする人々によって島に持ち込まれたネズミは、やがて海鳥を食べるようになった。新たな天敵を警戒する本能をもたない鳥たちは、ただじっと座ったままネズミに肉をかじられ、数日後に力尽きる。(PHOTOGRAPH BY THOMAS PESCHAK)
頭皮をかじり取られたハイガシラアホウドリのひな。南極圏に近いマリオン島で撮影。痛々しい姿から、海鳥が直面している侵略的生物の脅威が伝わってくる。200年前、なんらかの理由からアザラシ猟をする人々によって島に持ち込まれたネズミは、やがて海鳥を食べるようになった。新たな天敵を警戒する本能をもたない鳥たちは、ただじっと座ったままネズミに肉をかじられ、数日後に力尽きる。(PHOTOGRAPH BY THOMAS PESCHAK)
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 ナショジオのカメラマンとして長年、野生生物を撮影してきたトマス・ペシャック氏は、悲惨な場面にも幾度か遭遇してきた。それでも、南アフリカと南極の中間に位置するマリオン島の現状を伝える映像は、それまでに見たことがない類のものだった。そこで氏は、生物多様性の宝石のようなこの島へ行き、巣に忍び込んだネズミに生きたまま皮膚をかじり取られたアホウドリやミズナギドリのひなの痛々しい姿をカメラに収めた。

「ネズミがアホウドリのひなに対してしていることはまさに大虐殺そのもので、極めて衝撃的です」とペシャック氏は言う。「わたしは肝が太いほうですが、あれは実にむごい光景です」

 今のところ、ネズミに殺されるマリオン島のアホウドリは、全体のわずか数パーセントにとどまっている。しかし鳥類学者らは事態の深刻化を懸念しており、現在同島では目下、ネズミ根絶プロジェクトが進められている。(参考記事:「「史上最大」のネズミ根絶プロジェクトが成功」

 鳥類保護団体「バードライフ南アフリカ」は、南ア政府と協力して、2020年にヘリコプターを使って島全域に毒入りのエサを撒き、ネズミを一掃しようとしている。この計画がもし失敗すれば、鳥のみならず、島全体の生態系がネズミによってさらに傷つけられることになるだろう。(参考記事:「ニュージーランド、2050年までに外来種を根絶へ」

夕暮れのマリオン島西岸で、複雑な儀式のダンスを踊るワタリアホウドリ。(PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK, NATIONAL GEOGRAPHIC)
夕暮れのマリオン島西岸で、複雑な儀式のダンスを踊るワタリアホウドリ。(PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK, NATIONAL GEOGRAPHIC)

暖かくなってネズミが増えた

 ネズミがマリオン島に入ったのは、おそらくは偶然だった。200年ほど前、アザラシ猟にやって来た人々が原因と思われる。だが、島の研究者たちが頭皮を剥がされた鳥の存在に気付き始めたのは2009年頃のことだ。赤外線カメラの動画によって、その犯人がネズミであることが判明すると、生物学者らはなぜ特定の種の鳥が被害に遭うのかを調査した。

 狙われる鳥の中には、絶滅危惧種(endangered)および危急種(vulnerable)に指定されているアホウドリ3種(ハイガシラアホウドリ、ススイロアホウドリ、ワタリアホウドリ)のほか、近危急種のオオハイイロミズナギドリと危急種のノドジロクロミズナギドリが含まれている。(参考記事:「動物大図鑑:アホウドリ」

 研究者らは、気候変動によって冬が暖かくなったせいで、寒さで命を落とすネズミが少なくなっていることを発見した。その結果、ゾウムシ、蛾、種子といった、ネズミがそれまでに頼っていた食料源ではまかないきれないほどまで個体数が増えてしまったのだと、鳥類学者のオットー・ホワイトヘッド氏は言う。

 新たな食料源を探す必要に迫られたネズミたちにとって、数々の生物の中でも、アホウドリと一部のミズナギドリはとりわけ狙いやすいターゲットだったものと思われる。アホウドリの巣は、鳥の体温によって常に暖かく保たれており、ネズミがその下の地面に巣穴を掘るのにおあつらえ向きだ。地中にあるミズナギドリの巣はさらに好ましく、ネズミは鳥が巣の中にいても気にせずにやってきて、そのまま住み着いてしまう。

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