2つの広大な海洋保護区が、パタゴニアの海に創設された。
1つ目のヤーガネスは、アルゼンチン南端からすぐ沖の海域で、「世界の果て」とも呼ばれている場所。もう1つはさらに東の沖合、南大西洋のヌマンクーラ・バードウッド・バンクIIだ。2つの海洋保護区(MPA)の面積は合計で約9万6000平方キロと、北海道よりひと回り大きい。いずれも海洋生物であふれているが、絶滅が危ぶまれているものも多い。
今回の新たな保護区の中には、辺境であるがゆえに手つかずの状態を保っている海域もある。アルゼンチン政府による今回の決断について、保護活動家たちは、より強固な保護へと変わっていく兆候として期待している。保護区の面積が広がっただけでなく、新たな規制を実施する法的枠組みも設けられたからだ。(参考記事:「人間の影響を受けていない海は13%、研究成果」)
「国立公園(保護区)を2つ創設した以上に大きな意味があります」。新しい海洋保護区の設置推進を主導してきた環境団体、アルゼンチン動植物基金代表のソフィア・ヘイノネン氏はこう話す。「次の保護区を設置するための基礎も作ったことになるのです」
今回の保護区はなぜ特別なのか
従来、アルゼンチンの海洋保護区は、政府の漁業管理部門が管轄しており、商業的利益も考慮していた。このため、保護区での違法操業を取り締まる予算がほとんど付けられず、漁業を含む採取活動が禁止されていても、その効力は十分でなかった。保護区を管理するための法的枠組みは2015年にようやく通過し、アルゼンチンの国立公園管理局が保護区を管理下に置いたのは2017年だった。
一方で、地元メディアの報道によれば、アルゼンチンのすぐ南の海域ではここ数年で漁獲圧が増していた。そこでナショナル ジオグラフィック協会はパタゴニア海洋保護フォーラムや地元自治体と連携し、この海の生態系の健全さを評価するための調査を実施した。(参考記事:「衛星で漁船を追跡、なんと海面の55%超で漁業が」)
「この海域の生態系には計り知れない価値があること、そして保護が必要であることを、とても広範囲な科学報告書として書き上げました」。ナショナル ジオグラフィックによる「原始の海」プロジェクトのラテンアメリカ部門代表、アレックス・ムニョス氏はこう話す。また2018年の秋、アルゼンチン動植物基金とナショナル ジオグラフィック協会は、10億ドルという記録的な寄付金の一部をワイス財団から受け取った。自然保護を重視する同財団が、海洋保護区や国立公園といった自然保護区域の創設に取り組む団体に寄付したのだ。
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