宣教師事件の孤立部族、唯一の「友好的な接触」

「彼らはココナッツを受け取った」、接触した女性研究者に聞いた

2018.12.11
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人類学者のマドゥマラ・チャトパディヤエ氏は、6年にわたってアンダマン諸島の部族を調査した。(Photograph Courtesy of Madhumala Chattopadhyay)
人類学者のマドゥマラ・チャトパディヤエ氏は、6年にわたってアンダマン諸島の部族を調査した。(Photograph Courtesy of Madhumala Chattopadhyay)
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 ベンガル湾に浮かぶインドの離島、北センチネル島で11月、米国人宣教師が死亡した。この事件をきっかけに、立ち入りが禁止されているこの島に再び関心が集まり、島の人々の将来を心配する声が高まっている。彼らは狩猟採集を生業とし、長らく外部からの接触を拒んできた。(参考記事:「森の部族に身を捧げた男、二度と帰ってこなかった」

 20世紀後半を通じて、北センチネル島を含むアンダマン・ニコバル諸島を管轄するインド政府は、センチネルの人々との接触を試みてきた。しかし、その試みの多くは、海岸から一斉に放たれる矢や槍に出迎えられた(1970年代には、ナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリー番組のディレクターが、撮影中に槍で負傷した)。

 失敗が相次ぐなか、1990年代初頭に行われた2度の接触は特筆に値する。このとき、センチネルの人々は、インド国立人類学研究所(AnSI)の人類学者を含むチームからココナッツを受け取ったのだ。

 このチームに唯一の女性として参加していたのが、マドゥマラ・チャトパディヤエ氏。子供の頃からアンダマン・ニコバル諸島の部族を研究することに憧れていた同氏は、人類学者となって6年にわたり彼らを調査、20本の論文と、著書「Tribes of Car Nicobar」を出版した。(参考記事:「宣教師を殺害したインド孤立部族、侵入者拒む歴史」

 AnSIの博士研究員だったチャトパディヤエ氏は、1991年1月、北センチネル島へ行くチームに加わる最初の機会を得た。だが、難点が一つあった。島々の「敵対的な」部族との接触を試みるチームに、女性が参加したことはなかったのだ。「リスクを承知しており、傷害を負ったり死亡したりしても政府に賠償金を請求しない、という覚書を書かなければなりませんでした」とチャトパディヤエ氏は振り返る。「両親も似たような覚書を書かされました」

 無事許可を得たチャトパディヤエ氏は、センチネルの人々と接触した初めての女性人類学者となった。あれから27年を経た今、北センチネルの島民との接触について、同氏がナショナル ジオグラフィックのインタビューで語ってくれた。

ココナッツを浮かべる

「(1991年1月の調査の)数カ月前にAnSIが送ったチームは、いつも通りの敵対的な応対を受けたので、私たちは少し不安でした」とチャトパディヤエ氏は話す。チームは小さなボートで島に近づき、無人の砂浜に沿って煙が立ち昇る方へと進んだ。4人のセンチネル族の男性が、弓矢を携えて海岸へ出てきた。「私たちは、彼らの方へ向けてココナッツを浮かべ始めました。驚いたことに、何人かは水に入り、ココナッツを回収していきました」

 その後の2、3時間、ココナッツを拾うために、男性たちは何度も砂浜から水中へとやってきた。離れた場所から、女性と子供たちが眺めていた。とはいえ、よそ者である人類学者たちが襲われる危険性はまだあったと、チャトパディヤエ氏は振り返る。(参考記事:「アマゾン、森の先住民の知られざる日常 写真20点」

次ページ:「彼は突然、弓矢を構えました」

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