珍しい双子のサルを発見、しかも父親は別

114回の出産を確認、双子はたったの1例だった

2018.10.16
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
TNG-F19と呼ばれるベニガオザルの母親が、双子の赤ちゃんを抱いている。後ろから同じ集団のメンバーが歩いてくる。(PHOTOGRAPH BY ARU TOYODA)
TNG-F19と呼ばれるベニガオザルの母親が、双子の赤ちゃんを抱いている。後ろから同じ集団のメンバーが歩いてくる。(PHOTOGRAPH BY ARU TOYODA)
[画像のクリックで拡大表示]

 霊長類において双子はとても珍しい。それぞれの子を育てるのに、多くの時間とエネルギー、そして食物が必要だからだ。

 ベニガオザル(Macaca arctoides)を調査していた研究者が、このサルの双子を発見した。場所はタイ中部の森林地帯で、野生下での確認は初だという。DNAを調べた結果、母親のお腹で一緒に育ったとはいえ、双子の父親は異なっていることがわかった。この珍しい事例は、2018年9月に学術誌「Mammal Study」に発表された。

 このベニガオザルたちは野生だが、人間がエサをやることもある。双子が共に生存できたのはそのためかもしれないと、今回の論文の筆頭著者である中部大学の霊長類学者、豊田有氏は言う。(参考記事:「双子が明かす生命の不思議」

 双子を産んだサルの母親は、多くの場合どちらかを放棄すると、米セントラル・ワシントン大学の霊長類学者ローリー・シーラン氏は言う。同氏は今回の論文には関わっていない。「多くの子を同時に育てれば1頭あたりのコストが減る、というものではありません。霊長類の子を育てるのには、大変なエネルギーが必要です。双子となれば、労力はひょっとすると倍以上かもしれません」

双子の母親が片方の子を腕で抱き、もう片方の子を背中に乗せている。(PHOTOGRAPH BY ARU TOYODA)
双子の母親が片方の子を腕で抱き、もう片方の子を背中に乗せている。(PHOTOGRAPH BY ARU TOYODA)
[画像のクリックで拡大表示]

 ベニガオザルは複数のオスと複数のメスからなる集団で生活する。時折オスが赤ちゃんと遊ぶことはあっても、子育ての大部分は母親が担っている。(参考記事:「弱いオスほどよくしゃべる、ワオキツネザルで判明」

 一度に1匹の子しか産まないのは、進化戦略の1パターンだ。出産あたりの子の数を少なくすることで、その分それぞれの子により多くのエネルギーを投資している。「そのパターンが破られる事例に、我々は非常に興味をそそられるのです」とシーラン氏。「メスは、一度に複数の子を育てるという難問を突き付けられるのです」(参考記事:「双子研究、遺伝か環境か、それがモンダイだ」

 シーラン氏は以前、双子を産んだチベットマカク(Macaca thibetana)の母親を調査した。母親は、移動を少なくしたり、子供のためによりエネルギーの豊富な食物を摂取したりと、様々な調整を余儀なくされていた。

次ページ:21カ月で114回の出産を確認

おすすめ関連書籍

こざる温泉

「会いに行けるしあわせ動物」シリーズ第2弾。雪の中、温泉に入る姿が愛らしく、「スノーモンキー」の愛称で世界的に知られる、長野県地獄谷野猿公苑のニホンザルをとらえた写真集。

定価:1,760円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加