FASHION / Editors

『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

カルチャーとは、人生のクールな羅針盤。

6月に開催されたルイ・ヴィトンのショーのフィナーレにて。ヴァージルは、真っ先にフロントロウに座っていたカニエの元へ駆けつけて、互いに抱き合い号泣。 Photo: Shutterstock/AFLO

ここ数カ月の間にも、デザイナーの新旧交代が続々と進んでいます。中でも最もファッション界の熱い視線を浴びたのが、ルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクターに抜擢されたヴァージル・アブローです(p.094)。6月に行われたメンズコレクションで初ショーを発表したヴァージルは、同じタイミングでルイ・ヴィトンからディオールへと移籍したキム・ジョーンズとともに、大きな注目を集めました。二人に共通して言えるのは、ともに「カルチャー」をそのクリエイションの背景に強く持っていることです。ルイ・ヴィトン時代のキムは、ファッションだけでなくアートや音楽などジャンルを超えたコラボレーションを積極的に行い、現代的なメッセージを発信することで若い世代の支持を獲得しました。

ヴァージルにいたっては、キャリアのスタート時点からマルチな立ち位置が際立っていました。カニエ・ウェストの友人で、彼のブランドのクリエイティブディレクターでもあり、自身のブランド設立以降もジャンルを超えたブランドとのコラボを矢継ぎ早に発表。コンセプチュアルなロゴを多用したアートクリエイションやDJとしても精力的に活動しています。彼の存在そのものが現在の「Cool」を象徴する、オープンでありながらカリスマ的なそのあり方に、ブランドデザイナーの新しい形を感じずにいられません。

時代を動かすカルチャーや音楽、社会現象をキーワード別に総まとめ。シーンを取り巻くムードを知ることで、トレンドの背景を考察。

極端に言えば、もはや「ファッションはファッションだけでは成り立たなくなった」ということかもしれません。少なくとも、時代の空気=ストリートのクールさを反映した特別な気分が求められているのは確かでしょう。人々、とりわけ若い世代は、「デザインを着たい」のではなく、コンセプトやリアルな「カルチャーを着たい」のです。今月のテーマ「Culture Cool」では、人々が求める、時代を感じる「カルチャーの今」に視線を向けてみました。

ファッションとカルチャーの最新の関係を知るためのキーワード集(p.086)や、新世代の日本人グラフィックアーティストたちにも注目しました。中でも、世界の音楽シーンやファッション界から熱いラブコールを受けるVERDYさんとは、今回スペシャルなVOGUEとのコラボとして特製のステッカーを制作しました。お好きなアイテムに貼って、自分だけのCulture Coolを楽しんでみてください。

インターナショナル・ヴォーグ・エディターのスージー・メンケスが、2018-19年秋冬のトレンド評を特別に寄稿してくれた。力強さにあふれる女性像をキールックから紐解こう。 Catwalk Photos: InDigital Backstage Photos: James Cochrane

また今、女性として見過ごせない“カルチャー”の動きとしてあるのは、#Me Too運動に象徴される女性の権利や地位向上の動きではないでしょうか。秋冬のトレンドブックで解説をお願いしたスージー・メンケスが、最も大きなテーマとして上げているのも力強い「Women First!」の気運です(p.152)。そんな女性たちの戦いの歴史を振り返るべく、今号では、歴代女性アーティストたちの作品(映画、小説、アート、音楽)から、彼女たちがカルチャーから時代を切り開いてきたその軌跡を追っています(p.118)。

「A SYMBOL OF BEAUTY」脳科学者の中野信子と、コラムニストとして活躍するジェーン・スーが語り合う “美人論”とは? 女性の立ち位置から生き方の選択肢を考える。 Photo: Yoshiyuki Nagatomo

加えて、切れ味鋭い日本の論客お二人(中野信子さんとジェーン・スーさん)にもご登場いただき、女性の視点からの現代的「美人論」を考察しました。女性が出産を担う存在であることから逃れられない「性的非対称性」がある限り、変わらない現実(男性の意識と脳)が残るなか、女性たちは「美人」という社会が押し付けてくる“コンセプト”とどう付き合っていくべきなのか……。詳しくは対談をお読みいただいて、それぞれの“解”を巡らせるきっかけにしてください。

特別付録は、VOGUE×VERDY特製ステッカー。独自のメッセージ性をもつグラフィックで、カリスマ的人気を誇る彼のクールなデザインを楽しんで。

前述したVERDYさんの代表作のひとつに『Girls Don't Cry』というグラフィック作品があります。そもそもは、作品制作において何でも相談するという奥様が好きなロックバンド、ザ・キュアーの『Boys Don't Cry』にインスピレーションを得て、彼女にプレゼントしたものだそう。GirlsもBoysもDon't Cryでねっ。ご都合主義に響くかもしれませんが、お互いに思いやって、尊敬し合っていければいいですね。いろいろ違うのだから、だからこそ。そのために、カルチャーって大事なのかもしれません。それは、よりよく生きるためのリアルな知性。そうあってほしいものです。

Mitsuko Watanabe