ヒトラーとトランプ:(1)グローバル化 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

 2017年1月20日、アメリカの第45代大統領に共和党のドナルド・トランプが就任したが、これは、EUからのイギリスの脱退に次ぐ、世界のポピュリズム化の象徴とされる。トランプ新大統領は、「アメリカ第一主義」を掲げ、「アメリカを再び偉大な国にする」とうたって、TPPからの離脱、NAFTAの再交渉、保護関税など保護主義的な政策を繰り出している。

 ヨーロッパは移民問題に悩んでおり、これが移民排斥を主張する極右政党の勢力拡大につながっており、Brexitの背景ともなっている。メイ首相は、移民制限を優先させて、欧州単一市場からの離脱を決定した。経済よりも移民問題のほうが政治的に重いということである。

 アメリカでも、トランプが2500万人の雇用を創出し、「アメリカ製品を買い、アメリカ人を雇用する」と声高に叫ぶのは、不法移民などによってアメリカ人の職が奪われているという認識があるからである。世界の自動車メーカーに対して、メキシコではなくアメリカに工場を作るべきだと要請するようなことは、自由貿易の原則に反するが、それが有権者の大きな支持を得るところに、まさにポピュリズムの跋扈を感じるのである。

 ポピュリズムはなぜ台頭してきたのか。フランスの経済学者トマ・ピケティは、先進国の大衆が、「グローバル化の進展と格差の拡大」を前にして、「取り残された」という気持ちを持ったからだという(Thomas Piketty, ‘Vive le populisme! Le Monde, 15-16 janvier 2017)。まさに、反グローバル化、自国第一主義の訴えこそが、大衆を動員しているのである。

 国境を閉ざせば、移民もやって来ないし、自国製品より安価な外国製品が流入しない。経済学的に全くのナンセンスな主張が、欧米先進国の首脳から展開されるのは異常としか言いようがないが、これこそが民主主義のコストである。

 今日の世界で、人、モノ、カネ、情報の自由な流れを規制することは、一般的に言えば、世界経済の発展と繁栄と平和に対する阻害要因となる。それは、第二次世界大戦に至るブロック経済化の経験からも自明である。しかし、一方でテロリストが国境を越えて活動し、安価な外国製品の流入が国内の雇用を奪い、為替相場の変動が国内産業に影響を及ぼすこともまた事実である。

 そして、そのネガティヴな側面のほうが、大衆には分かりやすいからこそ、反グローバリズムに抗することが政治的に難しくなるのである。しかし、諦めからは希望は見えてこない。世界経済や国際金融の実態について、正しい理解を大衆の間に広める努力を粘り強く展開していくべきであろう。