1868年に世界初のクチュールのアトリエが開業。
世界の王室は、これまで限りなくアートとアンティークのコレクションを蓄えてきた。そうしていくうちに、いつしかオートクチュールの歴史上最高のパトロンとなっていった。
オートクチュールの仕立て業は、初期から王室とつながりがあった。フランス皇后ウジェニー・ド・モンティジョの公式ドレスメーカーだったイギリスのデザイナー、シャルル・フレデリック・ウォルトが、パリに世界初となるクチュールのアトリエをオープンした10年後の1868年、現在のフランス・オートクチュールおよびファッション連盟を設立。そして産業省の一部門として、クチュールハウスを運営するデザイナーが守らなければならない厳しい基準を発表した。
各国異なる、プリンセスの趣向と愛用ブランド。
一部の王族は、デザイナーのインスピレーション源になることもある。例えば、ジャッキー・ケネディの妹、リー・ラジウィルは数多くのコレクションにデザインのヒントを与えてきた。85歳になった今でも、ジャンバティスタ・ヴァリのショーに参加しつづけている。
故マーガレット王女が最も気に入ったドレスとは?
デザイナーは依頼人のボディラインと振る舞いをさらに良く見せるだけでなく、親密な関係を築くことで、人柄を惹き立たせる技術が必要とされる。クリスチャン・ディオールのクリエイションに魅了されていたイギリスの故マーガレット王女は、21歳の誕生日に纏った白のイヴニングドレスを「数あるコレクションの中で最もお気に入りのドレス」と残している。彼女は50年代にブレナム宮殿のディオールの2つのショーの運営役を務めたこともある。後には、ウガンダ国内に存在する4つの伝統的な王国のひとつ、トロ王国のエリザベス・バガヤ王女をチャリティファッションショーのランウェイに招待した。彼女はモデルとしてのキャリアで非常な成功を収め、60年代と70年代を通してクチュールが国際的な発表の場であることを示した。
オートクチュールの服は芸術作品であり、絵画と同じようにキャンバスを必要とする。相手がいなければ成り立たないのだ。それらに命を吹き込むカリスマ性のある人、そしてそうさせる素質のあるデザイナーが、これからもクチュール界を支え続ける必要があるのだ。
Text: Ross Aston