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オートクチュールと王室の高貴な関係。

2018-19年秋冬オートクチュールコレクションがパリで開催されたばかり。オートクチュールの起源は、遡ること1868年。アトリエが開業した初期の顧客は王室であり、今もその関係は絶え間なく続いている。世界各国のロイヤルファミリーにとって思い入れのある歴代のワードローブを今一度振り返ってみよう。

1868年に世界初のクチュールのアトリエが開業。

1985年、当時の大統領レーガンが主催したホワイトハウス晩餐会にてダイアナ元妃が纏っていたブルーのシルクドレスは、ビクター・エデルスタインによるもの。2013年のオークションでは、約3,380万円の値がついた。Photo: REX/Shutterstock

世界の王室は、これまで限りなくアートとアンティークのコレクションを蓄えてきた。そうしていくうちに、いつしかオートクチュールの歴史上最高のパトロンとなっていった。

オートクチュールの仕立て業は、初期から王室とつながりがあった。フランス皇后ウジェニー・ド・モンティジョの公式ドレスメーカーだったイギリスのデザイナー、シャルル・フレデリック・ウォルトが、パリに世界初となるクチュールのアトリエをオープンした10年後の1868年、現在のフランス・オートクチュールおよびファッション連盟を設立。そして産業省の一部門として、クチュールハウスを運営するデザイナーが守らなければならない厳しい基準を発表した。

フランス皇帝ナポレオン3世の皇后、ウジェニー・ド・モンティジョ(1853)。Photo: Fine Art Images/Heritage Images/Getty Images

各国異なる、プリンセスの趣向と愛用ブランド。

ディオールのドレスに身を包むモナコのシャルレーヌ妃。Photo: Pascal Le Segretain/Getty Images for Princess Grace Foundation-USA

クチュールハウスはその家柄を語られることが多いが、取引する顧客も同様だ。顧客は親密なグループに属し、好みのイメージを持っている。例えばカタールの前首長妃殿下モウザ・ビント・ナーセル・アル=ミスナドはシャネルの熱烈なコレクターだが、ヨルダンの王妃ラーニア・アル=アブドゥッラーはジバンシィを好む。オランダの王妃マクシマ・ソレギエタはヴァレンティノを、サウジアラビアのワリード王子の元妻アミラ・アルタウィールはラルフ&ルッソを選ぶ傾向にある。

カタール前首長妃殿下のモウザ・ビント・ナーセル・アル=ミスナドはラルフ&ロッソを纏って。Photo: Juan Naharro Gimenez/Getty Images
オランダ王妃のマクシマ・ソレギエタ。着用している真っ赤なドレスはヴァレンティノ。Photo: Robin Utrecht - Pool/Getty Images
ジバンシィのドレスをこよなく愛するヨルダンのラーニア妃。Photo: Antony Jones/Getty Images
ジャンバティスタ・ヴァリ2012春夏のショーに姿を現したリー・ラジウィル。Photo: Antonio de Moraes Barros Filho/WireImag

一部の王族は、デザイナーのインスピレーション源になることもある。例えば、ジャッキー・ケネディの妹、リー・ラジウィルは数多くのコレクションにデザインのヒントを与えてきた。85歳になった今でも、ジャンバティスタ・ヴァリのショーに参加しつづけている。

故マーガレット王女が最も気に入ったドレスとは?

ディオールのドレスに身を包みポーズを構える故マーガレット王女。Photo: Keystone Pictures USA/Keystone/REX/Shutterstock

デザイナーは依頼人のボディラインと振る舞いをさらに良く見せるだけでなく、親密な関係を築くことで、人柄を惹き立たせる技術が必要とされる。クリスチャン・ディオールのクリエイションに魅了されていたイギリスの故マーガレット王女は、21歳の誕生日に纏った白のイヴニングドレスを「数あるコレクションの中で最もお気に入りのドレス」と残している。彼女は50年代にブレナム宮殿のディオールの2つのショーの運営役を務めたこともある。後には、ウガンダ国内に存在する4つの伝統的な王国のひとつ、トロ王国のエリザベス・バガヤ王女をチャリティファッションショーのランウェイに招待した。彼女はモデルとしてのキャリアで非常な成功を収め、60年代と70年代を通してクチュールが国際的な発表の場であることを示した。

オートクチュールの服は芸術作品であり、絵画と同じようにキャンバスを必要とする。相手がいなければ成り立たないのだ。それらに命を吹き込むカリスマ性のある人、そしてそうさせる素質のあるデザイナーが、これからもクチュール界を支え続ける必要があるのだ。

Text: Ross Aston