「すみません、家計簿つけていません……」

家計相談ののっけから、こんな謝罪の言葉を口にする人は意外と多いです。

家計簿をつけていない(つけられない)→収支管理ができていない →お金が貯められない →そんな私を許してください。

相談者の心理を察するに、こんな感じでしょうか。

この考え方、私は大いに間違っていると言いたい。これが正しいなら、家計簿をつけていない人はみんなお金が貯められないことになってしまいます。そんなはずはありません。

私自身、家計簿は一切つけていません。実は、つけられないのです。ファイナンシャルプランナー(FP)のくせに? いえいえ、FPだって一人の人間です。 家計簿をつけるのは何せ大変な作業ですから、幾度となく挫折してきました。 それでも、私はきちんと貯蓄形成できています。

ところが、世の中には収支をしっかり管理してお金を貯めるには、“家計簿は必須アイテム”みたいな考え方が根強くあります。それで、冒頭の謝罪につながるのでしょう。

では、頑張って家計簿で収支管理している人が、ちゃんとお金を貯められているかというと、これもまた違うのです。いまはスマホを使った家計簿アプリを使う方もだいぶ増えてきました。しかし、紙からスマホにツールが変わっても、使い手側の意識が変わらなければ、多少の“つける苦労”が軽減されるだけで結果は変わるものでもありません。

家計簿だろうが、家計簿アプリだろうが、改善につながらない理由はどこにあるのでしょうか。ここでは主な理由を4つを取り上げてみたいと思います。

1.「なぜ」買ったのかを把握していない

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知らず知らずのうちに不要なものを買っていない?
shutterstock / Ekaterina Pokrovsky

物事には「原因」と「結果」があるものです。

「たくさん食べた」(原因)→「太った」(結果)といった具合に、「お金が貯まらない」(結果)にも、原因があります。その原因に気付くことが、改善の第一歩になるのですが、家計簿に「何」をいくらで買ったのかを明記しても、「なぜ」買ったのかの原因を書くところはありません。なぜを探れば、自分の買い物の癖が表れます。

例えば、

  • コンビニに行って、つい余計なもの(飲み物、お菓子など)を買った
  • 何となくカフェに入って、コーヒーを飲んだ
  • 食事を作るのが面倒で、外食した
  • 夜中ネットサーフィンしていると、不要なものも買ってしまう
  • 会社帰りには、何かを買って帰らないと気が済まない
  • ストレス発散で飲みの回数が多い
  • 安くてお得だから

なぜと自問自答していくと、無駄買いのパターンが見えてきます。つまり原因が把握できれば、具体的な改善策を立てられます。それを実際に「行動」に移すよう心掛ければいいのです。

2. 途中集計していない

家計簿をつけても、ひと月が終了してから支出の合計額を集計し、「あぁ、今月もこれだけ使ってしまった」で終わるケースも問題です。せっかくつけた支出一覧を振り返りもしないので、次の月につながる学習材料にもなりません。

家計簿アプリの場合、頻繁に入力すれば途中集計をしてくれるのに、ある程度レシートがたまってからや、ひと月分まとめて入力したりといったケースもよく聞きます。これだと集計機能も、威力を発揮しません。

お金遣いは日々の「行動」なので週1回でも途中で集計すれば大きく違います。月の生活費がいくら残っているのか、1週間でここまで使ってしまった、などと気付くことができけば、翌週には「気を付けよう」と意識しやすくなるでしょう。

3. 家計の「3大構造」を意識していない

家計の「3大構造」を意識せずに家計簿をつけるのも問題です。

3大構造とは「基本生活費」「 季節要因費」 「ライフイベント費」です。

基本生活費は食費や住居費、水道光熱費、日用雑費といった生活するのに必要な支出です。中には水道光熱費などのように季節変動するものもあるかもしれませんが、基本的にそれほど変動しません。

季節要因費は1年を通して季節的にかかる費用。年末年始のイベントや帰省費、ゴールデンウィークのレジャーなどがこれに当たります。

ライフイベント費は、数年に1回など頻繁に発生しない費用を指します。車検や車の買換え、リフォーム、家電の買い換えなどです。

これらの3大構造を一緒にしてしまうと、毎月の支出額は大きく変動します。それもそのはず、季節要因費とライフイベント費はそもそも大きく変動する特徴を持っているためです。毎月の支出変動が激しいと、どこから手をつけていいのか分からなくなります。そこでこれら3つを別々に集計した上で合算すれば、家計のどこに問題があるのかが発見しやすくなります。

ここで1点補足したいのは、教育費をライフイベント費として計上することです。多くの人は教育費を基本生活費にカウントしているでしょう。実はこれが家計の実態把握を難しくさせています。教育費ほど子どもの年齢によって金額が変わる費目はありません。複数子どもがいれば、なおのことです。

4. そもそもつけ方が間違っている

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カードを使ったときに家計簿をどうつけるか迷う人も。
shutterstock / wutzkohphoto

最後の理由として、そもそも家計簿のつけ方が間違っているというケースも少なくありません。

例えば、「積立」を「支出」に計上しているのはよく見受けられます。積立は貯蓄なので、実際には出ていっているお金ではありません。似たケースに「保険料」の扱いがあります。貯蓄目的なのに支出になっていたりしているのです。

また、最近はカード払いが増えてきて、管理に迷う人も増えています。よくある間違いが電子マネーのチャージを支出計上すること。電子マネーで買い物する際にも計上すれば、支出の二重計上になります。電子マネーへのチャージは、現金が電子データに「形」を変えただけで、お金はまだ自分の手元にあると考えてください。

一方、クレジットカードも含め、カード払いした場合の基本は、買い物した時点で支出と捉えること。つまり、レシートをもらった時点で支出と考えると、管理しやすいと思います。

主な理由4つを取り上げてみましたが、最大の貯まらない理由は1の「なぜ」です。2~4は技術的な問題なのでそれほど根は深くありません。無駄遣いの原因を探り、きちんと自分のお金の遣い方と向き合うことは習慣化しないと身に着かないものです。

実はお金の遣い方と向き合うには、家計簿よりも日記の方が有効です。もし家計簿が無理だと思ったら、日記をつけるのはアリです。ポイントは、その日にあった出来事に対して、自分がどう思ったかを書きつづることです。

お金との付き合いは一生涯です。だから一生涯もののスキルを身に着けると思って、家計簿だけに頼るのではなく、自分のお金の使い方にじっくりと向き合ってみてはいかがでしょうか。

八ツ井慶子:生活マネー相談室、ファイナンシャルプランナー。どなたでも参加できる「生活マネー塾」を主宰。

BUSINESS INSIDER JAPANより転載(2017.11.27公開記事)