EVER-EVOLVING BODY

終わりなき”役への探求”──小栗旬の「変わり続ける肉体」

その肉体は、雄弁だ。彼を見ていると、役者にとって大切なものは、顔でも演技力でもなく肉体だと思えてくる。全身で演じる役者・小栗旬は、己の肉体をとことんまで追い詰め、役に染まっていく。 Photos: Kazumi Kurigami Words: Kyosuke Akasaka Styling: Shinichi Mita @ Y’s C Hair & Make-up: Katsuhiko Yuhmi @ Thymon. Inc Direction: Kosuke Kawakami
終わりなき”役への探求”──小栗旬の「変わり続ける肉体」
ジャケット ¥412,000、シャツ ¥81,000、パンツ ¥97,000〈すべてLOUIS VUITTON/ルイ・ヴィトン クライアントサービス ℡0120-00-1854〉
舞台で痛感したスタミナのなさ

緊張感の漂うスタジオに3つの音だけが響き渡る。動作前の「シュッ」という呼吸音、拳や足がミットをとらえる「バシン!」という衝撃音、そしてその瞬間をとらえようと構えたカメラのシャッター音。そのたびに、彼の長い手足が華麗に宙を舞い、その無駄のない、流れるような肉体の動きに目を奪われる。

小栗旬は単なる二枚目俳優ではない。彼の魅力を感じるのに、リビングのテレビは少し小さすぎる。そのダイナミックで雄弁な肉体にふさわしいのは、おそらく舞台であり、映画の大きなスクリーンだ。

「理想の肉体? うーん……それはよくわからないですね。求める体は、そのとき演じる役によって変わりますから。しいていうなら、どんな役にも応えられる、役者として戦うための肉体が理想でしょうか」

身長184センチ、長い手足に小さな顔。服を着ているととてもスリムに見えるが、ひとたびジャケットを脱ぎ、衣装が薄くなればなるほど、鍛え上げられた肉体があらわになっていく。肩や胸は大きく盛り上がり、腹回りは引き締まっている。袖から伸びる腕は驚くほどに太く、Tシャツの背中には筋肉の筋が浮かび上がっている。

アスリートや格闘家とは異なる。かといって、ボディビルダーのような見せるための筋肉をつけた体でもない。美しさと強さの両方を兼ね備えた、役者ならではの肉体だ。

"近所の公園で階段ダッシュとかしています"

ライダースジャケット ¥520,000、Tシャツ ¥39,000、パンツ ¥110,000、スカーフ ¥50,000(参考価格)〈すべてVALENTINO/ヴァレンティノ インフォメーションデスク ☎03-6384-3512〉
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10キロ程度はコントロールできる

「子どものころからスポーツはやっていましたが、それほど得意なほうではありませんでした。運動神経のいい人って、何でもやったらすぐできちゃうじゃないですか。芸能界に入ると、そういう人たちがゴロゴロいるんですよ。そのなかだと僕は、中の下くらいだと思います。若いころは、トレーニングをしてもなかなか筋肉がつかず、自分にはあまり向いていないと思っていました。でもいま思えば、きちんとしたトレーニング法がわかっていなかっただけ。そこまで必要だとも感じていなかったので、がんばりきれなかったんでしょうね」

20歳のころの体重は約60キロ。華奢で繊細な雰囲気が人気を呼んでいた。もし彼がそのままの肉体だったなら「テレビでよく見る若手俳優」の枠を超えることはなかったかもしれない。だが、小栗は自らの手でその枠をこじ開けていく。転機になったのは、ある舞台作品だった。

「舞台をやっていると、それ自体がトレーニングになって、演劇的な体力がついていく。だから20歳代前半は、トレーニングの必要がなかったし、芝居をしていてもしんどいと感じることはありませんでした。このままじゃマズいと思ったのは、2011年に『髑髏城の七人』という作品に出演したとき。刀を持っての立ち回りは無酸素運動なので、スタミナがないとできない。しかもあの作品では、立ち回りの途中の呼吸をするタイミングに長い台詞があった。求められたハードルの高さは、想像以上。自分のスタミナのなさを痛感しました」

ライダースジャケット ¥520,000、Tシャツ ¥39,000、パンツ ¥110,000、スカーフ ¥50,000(参考価格)〈すべてVALENTINO/ヴァレンティノ インフォメーションデスク ☎03-6384-3512〉

そこから、役者としての仕事をまっとうするためのトレーニングが始まった。

「役者という仕事を理解して、それに合わせたメニューを考えてくれるトレーナーと出合ったことで、肉体をコントロールできるようになりました。役が決まるたびに必要な体を一緒に考え、それを実現するためのトレーニングを行っています。僕がやっているのは、決して最先端の理論に基づくトレーニングではありません。近所の公園で階段ダッシュとかしますし(笑)。どれも地道なものばかりですけど、自分にはすごく合っていると思います」

『髑髏城の七人』は、昨年6年ぶりに再演された。主役を演じる小栗は、ひたすら駆けまわり、刀を振りまわす。初演のときは、熱演ぶりが際立っていたが、6年経った昨年の舞台では、若いころにはなかったキレと安定感を感じた。これも長年続けてきたトレーニングの成果なのだろう。

彼は、現在も週5回1時間のトレーニングを欠かさない。役にあわせるだけでなく、ときには1シーンのために腕や背中などパーツを鍛えることもあるという。さらに半年前からは、「下半身の動きを身につけたい」という思いでキックボクシングのジムにも2日に1回のペースで通っているという。しかし小栗は、いわゆるアクション俳優ではない。役によっては、体を細くしたり、大きくしたりということも求められる。

「体重は、73〜74キロがベストですが、プラスマイナス10キロ程度は、コントロールできます。映画『ルパン三世』(2014年)のときは、役のイメージに合わせるために食事をひたすら制限して、体重を65キロまで絞りました。普段は、好きなものを好きに食べているので、食事制限はかなりキツいですね(笑)。逆に体重が増えたのは、昨年出演したドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』のとき。かなり体をつくりこんで、78キロまで増えていました。撮影が始まる1年前くらいから格闘技の練習を始め、同時進行で下半身強化を目的に、サーキットトレーニングを続けていました。ケトルベルという16キロのダンベルを使ったメニューを数種類、そのあと懸垂、腕立て伏せ、さらに縄跳び。これをインターバル15秒で1日3セット。このトレーニングのおかげでスタミナがつき、体重は増えていたのにとても軽く感じる。現場でどれだけ動いても疲れを感じることはありませんでした」

"どんな役にも応えられる、役者として戦うための肉体が理想"

ニセモノには見られたくない

彼がここまでストイックに自分の肉体をつくる裏には、仲間であり、ライバルでもある同世代の役者たちの存在がある。

「すごいなと思うのは、岡田准一さん。彼は、格闘技のインストラクターもできるほどの”本物”。役のために時間をかけて肉体をつくり、動きを身につける。だからプロから見てもまったく違和感がないんです。もうひとりは、役によってどんどん体をつくりかえる鈴木亮平。ストイックに役づくりする姿には、刺激を受けます。本気で役づくりをしてない役者が彼らの隣に並ぶと、ニセモノに見えてしまいますからね」

現在、美しく鍛えあげられている小栗旬の肉体だが、この秋には「作品のために10キロくらい絞り込みます」とのこと。その肉体に完成はない。画家がキャンバスに何度も絵の具を塗り重ねていくように、彼は自らの肉体を進化させ、次々と変化させていく。そのことをとても楽しそうに語る彼は、やはり根っからの役者なのだろう。

WORKOUT MENU

サイクル1日目
大胸筋、三角筋、上腕三頭筋、腹筋を1時間みっちりトレーニング。

サイクル2日目
広背筋、上腕二頭筋を鍛え、再び腹筋をトレーニングする。

サイクル3日目
体幹&サーキットトレーニング。4日目は休息して、翌日からリピートする。

SHUN OGURI
小栗 旬 俳優

おぐり・しゅん 1982年生まれ、東京都出身。10代のころから、数々のテレビドラマや映画、舞台で活躍。故・蜷川幸雄氏に高く評価され、彼の作品の常連でもあった。7月末からはNHK大河ドラマ「西郷どん」に坂本龍馬役で出演予定。