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クリス・ヴァン・アッシュがディオール オムに貢献した4つのこと。

ベルギー人デザイナーのクリス・ヴァン・アッシュが、11年間アーティスティック・ディレクターとして務めたディオール オムを去ることが発表された。次なるステージが気になるところだが、その前にスポーツと融合させたり、斬新なアーティストをキャンペーンで起用したりなど、彼がメゾンに残したレガシーを振り返ろう。

1. テーラリングを守りつづけた。

今年1月、2018-19秋冬コレクションのショーでメンズの「バージャケット」を発表。Photo: InDigital

メンズウェアの世界において、クリス・ヴァン・アッシュは常にルールを破る存在だった。世の中がストリートウェアに夢中になり、ファッションハウスのクリエイティブ・ディレクターの任期がどんどん短くなる傾向だが、10年以上もディオールのメンズ部門を統括してきた。振り返ってみれば、クリスはディオールのクリエイティブ・ディレクターがジョン・ガリアーノラフ・シモンズマリア・グラツィア・キウリと3代にわたって交代していた期間ずっとディオール オムで働いていたわけだ。

2007年、自分のボスだったエディ・スリマンの後を継いで、ディール オムを統括するべくクリエイティブ・ディレクターに就任した。エディはイヴ・サン・ローランを変革するためにディオール オムを去ったが、現在はフィービー・ファイロが去ったセリーヌに移籍している。エディの時代にディオール オムはテーラリングを減らし、ボロボロにリメイクされたロックスター風のデニムで有名になったが、それをクリスは引き継がなかった。

今年1月、マリア・グラツィア・キウリ率いるディオールのオートクチュールコレクションに訪れたクリス。Photo: Getty Images

ジャケット、パンツ、ベストからなるスリーピースのスーツは1666年、英国王チャールズ2世によって初めて着用されたという。西洋のドレスコードに不動の位置を占め、4世紀にわたってほとんど変わることがなかった。しかし、最近になると会社のドレスコードが緩和されたこともあって、人気に陰りが出るようになり、テーラードスーツはストリートウェアの流れに押しつぶされそうになっていた。

しかし、クリスはそのような流れを全く気に留めなかった。これまで常にテーラリングを擁護し、その時々の求めに応じて形を変化させて、時代にあったものを作ってきた。昨年、クリスチャン・ディオールが1947年に作った「バージャケット」を新たにメンズ用に作り直して発表した。ウエストが締まり、高い折り返し襟のついた彫刻のようなテーラードブレザーだ。「ビッグサイズのストリートウェアを着て入ってくるクールなキッズたちが、これを試着したらとても気に入るんだ。僕たちはテーラリングは終わったという連中に真っ向から戦うよ」と今年の初め、『i-D』のインタビューで語っていた。

2. ストリートウェアの要素をハイブランドに織り込んだ。

赤やイエローの配色をきかせ、ブラックのカーフスキンレザーをあしらったスニーカー。

クリスはテーラリングを大切にしていたが、決してそればかりに凝り固まった狭量なデザイナーではなかった。メンズファッションの流行の変化にも目を配り、ストリートウェアやスポーツウェアの要素をディオールの持つハイブランドイメージに取り入れた。

バレンシアガが「トリプルエス・スニーカー」を、そしてカニエ・ウェストが「イージー ブースト700」を発表したのに続いて、昨年11月に彼自身のイメージに沿った「ダッドシューズ」を発表した。これはストリートウェアと伝統的なハイブランドのバランスが絶妙だ。また、胸に「Christian Dior Atelier」の刺繍を入れたボマージャケットや「Le New Look 1947」のロゴを入れたトップスを発表した。

3. ヤングキッズに目を向けた。

シルバーカラーのフレームにハンドルやチェアのパッドにブラックカラーを採用したリュクスなBMXバイク。

昨年12月、ディオール オムはパリの自転車メーカー、ボガード社とのコラボレーションによるBMXバイクを限定発売すると発表した。ハイブランド社がこのようなコラボを行ったのはディオール オムが初めてではないが(2017年にはエルメスが3,000ドルのスケートボードを、そしてバレンシアガが3,000ポンドのマウンテンバイクを発売)、この事から時に若者文化に目を向けるというクリスの姿勢が見えてくる。

彼によって、それまで非主流だったスポーツがハイファッションの注目の的になった。こうして意識的に高級なものとそうでないものをミックスすることによって、過去10年間のメンズウェアが定義づけられてきた。

4. キャンペーンに意外な顔を起用した。

ディオール オム2017-18秋冬コレクションのフロントロウに登場したエイサップ・ロッキー。Photo: Shutterstock

アメリカのマルチプラチナム・アルバムに輝いたラッパー、エイサップ・ロッキー、TVドラマ「ミスター・ロボット」に出演している俳優、ラミ・マレク、青い目のソールシンガー、ボーイ・ジョージ、それにバンド、デペッシュ・モードのフロントマンのデイヴ・ガーンの4人の共通点は何だろうか。それは彼らが、クリスによるディオール オムのキャンペーンに起用されたことがあることだ。

クリスは他の誰よりもカルチャーの時代を形作ってきた人たちに目を向けてきた。人種、年齢、職業はさまざまで、それは彼のキャンペーンにも反映され、皆鋭い感覚で知られている。そして毎回のキャンペーンで同じものばかりを見せることはなかった。

ディオール オム2018春夏コレクションのフィナーレに登場。Photo: Getty Images