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Erdemが衣装デザインを担当。英国ロイヤル・バレエ団の新作への想いを語る。

英国ロイヤル・バレエ団の新作「Corybantic Games(コリュバンテスの遊戯)」開幕前、VOGUEはトニー賞受賞の振付師クリストファー・ホイールドンと、衣装デザインを担当したアーデム・モラリオグルに面会。約20年ぶりに選ばれた日本人プリンシパル、平野亮一も出演する本公演の独占試演を見る機会に恵まれた。

英国ロイヤル・バレエ団のダンサー達の1日は慌だしい。時に労働時間は12時間を超える。午前10時半からのクラスに続き、午後5時半まで。多い時には5本の作品のリハーサルをひっきりなしに行う。その間、ランチタイムが1時間と理学療法があるくらいだ。そしてこれらはすべて、夜の舞台が始まる前に行われるのだ。

「Corybantic Games」の初演まで1週間を切り、ダンサーたちは初めての舞台稽古の真っ只中だった。

「まるで新たな始まりのようです。だって芸術、創作チームの全員が初めて、この作品がステージ上でどう映るか知ることができるのですから」。プリンシパルのローレン・カスバートソンは、バレエ団の本拠地コヴェント・ガーデン内のマーゴ・フォンテイン・スタジオを、筆者とともに後にしながらそう語った。

彼女は、彫刻のようであり繊細でもある動きを組み合わせた踊り、パ・ド・ドゥの練習を、同じくプリンシパルの平野亮一と終えたばかりだった。振付師ホイールドンは、彼らのリフト、ピルエット、デヴェロッペのすべてを細かく調整した。

「今日までは、スタジオでレッスン着で稽古を行っていました。舞台稽古ではたくさんの変更点が生じるので、いつも精神的に少し疲れます。ヘアスタイルはすでに2回変更になりました。舞台袖で、ヘアセットを解かれ、ヘアスプレーをされながら、また一からピン留めをされて……」

だが、こうした狂乱の最中にも関わらず、今朝、カスバートソンは「魔法のような瞬間」 を経験したと語った。彼女が衣装を取り出そうとした時に気づいたのだと言う。「待って、アーデム(ERDEM)を着てロイヤル・オペラ・ハウスのステージに立つんだわ」と。

レナード・バーンスタインのオーケストラ曲「セレナード(プラトンの『饗宴』による)」にのせた振付に導かれるかのごとく、衣装には細やかなコントラストが施されており、特に美しい裸体の青年たちが一挙して踊る様は、非常に見応えがあった。と同時に、レースや錦織を多用した、きらびやかなアーデムのランウェイでのデザインとは大きくかけ離れていた。

バレリーナたちのシャンパンカラーのシルクサテンでできたボディスとハイウエストパンツは、骨組みが強調された角ばった縫い目で仕立てられており、繊細なプリーツの入った足首まであるチュール・スカートの縁にはベルベットのリボンが丹念に手縫いされていた。

一方、男性のレオタードは細糸で織られ、白タイツより上は裸のように見えた。すべてのダンサーは、それぞれ異なるデザインの黒のベルベットでできたハーネスが巻きつけられており、古代ギリシャの衣服キトンの優美なドレープを思い起こさせた。

「この音楽が作られた1950年代を研究し、その要素をギリシャ風の衣装と融合させました。このアイデアをとても気に入っています」デザイナー、アーデム・モラリオグルは、豪華な赤いベルベットに覆われた、ベッドフォード・ リタイヤリング・ルームでのインタビューで語り、さらにこう続けた。

「大胆なラインは、まるで身体に直接マーカーで描いたかのよう。また、自身の過去のコレクションを見返して、2018年春夏コレクションのビスチェは1950年代の根幹を成していて、最新の秋冬コレクションでのプリーツスカートもこの作品にすんなりとマッチしました」

パリ・オペラ座バレエでのクリスチャン・ラクロワの精巧なチュチュから、アン・テレサ・デ・ケースの 「レイン」 でドリス・ヴァン・ノッテンが手がけたカジュアルな装いまで。ファッションとダンスの関係には豊かな歴史がある。そして、ホイールドンとアーデムの 「Corybantic Games」 でのコラボレーションはその足跡をたどっている。

21名のダンサーの衣装デザイナーにアーデム・モラリオグルを選んだのは、ホイールドンにとって自然な選択だった。二人の出会いは約6年前、シェークスピアのロマンスを脚色した「冬物語」や「アフター・ザ・レイン」といったホイールドンの数々の作品を観たアーデムが自身のショーに彼を招いたことがきっかけだ。また、ローレン・カスバートソンも、2015年のローレンス・オリヴィエ賞に出席した際にアーデムのドレスを選んでおり、彼の衣装を纏うのは今回が初めてではなかった。

このコラボレーションは友情とお互いへの尊敬の念から生まれたと言っても過言ではない。だが、なぜアーデムは格別この作品に惹きつけられたのか。「それはたぶん、この作品が過去にはない、全く新しい前衛的な作品だという点でしょう」と、アーデムはそう答えた。

レディー・トゥー・ウエアのデザインは、バレエの衣装デザインとは幾分異なる。その理由の一つに、ファッションとは服を通して自己表現を可能にしており、一方でバレエの衣装はダンサーの役を具現化するものだからだ。さらに実用性も必要となる。

アーデムは語る。「最新コレクションのデザインをした時には、脚を頭上高く上げる人のことを想定する必要はありませんでした。また、衣装は毎公演後の洗濯にも耐えられなければいけません。それぞれダンサーの身体に合うように誂えてあり、仮縫い作業は綿密に行わなければならず、さらにダンサーたちのスケジュールに合わせるため、土壇場のものでした」

舞台稽古中、ハーネスに付けられたベルベットのリボンがダンサーの動きを妨げていた。しかし、アーデムと衣装チームが解決策を見出すまでに時間はかからなかった。小さく目立たない輪でリボンをきつくならない程度に固定したのだ。

メンズファッションへの進出に関していえば、アーデムがロンドン・ファッション・ウィークを彩る日も近いだろうか。残念ながら今はないだろう。アーデムはレディースファッションにこだわっている。「ただしーー」アーデムは笑いながら、「ダンサー用の衣装を除いてね」と付け加えた。

「Corybantic Games」
公演期間/開催中〜2018年4月9日(月)
公演会場/ロイヤル・オペラ・ハウス Royal Opera House, Bow Street, Covent Garden, London WC2E 9DD
Tel./+44(0)20 7304 4000(Box Office)
http://www.roh.org.uk

Photos: Luc Braquet Text: Liam Freeman

アーデム(Erdem), ロイヤル・バレエ団
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