●「プラズマのその場直接観測」
 LEP-i担当 浅村 和史

ERG にはいろいろお願いさせていただきました。インデックスパルス(スピン同期パルス)の出し方、運用計画立案・検証ソフトウェアライブラリへの機能付加、観測器搭載位置や視野確保、観測器持込日程の後ろ倒し、機器重量確保、継続的窒素パージ、磁気トルカによる太陽追尾、スタースキャナの搭載と姿勢決定精度、ダウンリンクデータ量と衛星内データ伝送レートの確保、データレコーダもうすぐフル検知機能、電磁ノイズ低減、投入軌道の遠地点高度とその初期地方時、パネル内熱絶縁部の電気的導通確保、ミッションデータプロセッサへのデータ保存機能搭載などなど(五十音順)。

中でも多岐にわたるお願いをしたのが衛星外表面の導電性確保と衛星構体への電気的接続です。これは衛星外表面の局所帯電を防止し、低エネルギー電子・イオン観測や電場観測への影響を抑制するために必要ですが、衛星外表面には多種の機器・部材が存在するため、相手が多くなることが問題です。柴野さん、宮澤さんの細部にわたる検討、調整、実験により、OSR(放熱機能を持った金属蒸着ガラス薄板)、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、接着剤、テープ、塗装、フィルムなど(五十音順) について、局所帯電を抑制できる施工方法が考案され、実際に ERGで用いる施工方法でサンプルが作成され、実験で局所帯電しないことが確認されてゆきました。また、材料や施工方法に新規性があると、耐放射線性を持つのか、多数回の温度衝撃や打上げ時の急激な圧力変化に耐えるのか、といった点も確かめる必要がでてきます。方法の考案と確認実験、そしてERG実機への施工が行われてゆきました。対処は打上げ5時間前の最後のMLI(多層断熱材)処置まで続き、そして、JAXA新入職員が配属後の5年間を表面導電性に捧げてしまっていました。

現在、LEPeもLEPiも低エネルギーまで観測できています。電場計測も順調です。対策したからこそだと思います。そして、お願いの理由を分かっているメンバーが自身で方法の考案と試験、実機処置まで行う自由度があったからだと思います。

(浅村からサイエンスセンターの皆さんへ)

サイエンスセンターでは多様な機器の担当・衛星運用担当と共同作業しながら、広く観測データを使いやすくするよう取り組んでいますね。刺激的でしたか?

●「打上げ後が、本番。サイエンスセンターです。」
 堀 智昭、小路 真史、寺本 万里子、Chang Jocelyn、三好 由純

私たちサイエンスセンターの仕事は、(1)「あらせ」や連携地上観測といったERGプロジェクト全体のデータ製造・アーカイブと解析ツールの開発、(2)データ解析講習会の実施、(3)「あらせ」の観測計画を含むERGプロジェクトにおける共同観測の企画です。ここでは(1)と(2)について紹介します。

「あらせ」が打上げ後に取得した観測データはサイエンスセンターで集約され、共通データフォーマットに成形した後、国内外の研究者に提供されます。「あらせ」の観測データが研究に使用可能となるまでには、様々なデータ較正が必要となりますが、その方針は機器PIごとに異なっています。データに対するPIの意向を汲み取りながら、ユーザーの立場に立って、提供するデータの誤用をいかに防ぐかを考えることも、サイエンスセンターの重要な役割です。一筋縄ではいかない難しい作業ですが、「あらせ」の最新の科学データを誰よりも早く目にすることができる、刺激的な瞬間でもあります。

また、日本各地・台湾でデータ解析講習会を企画・開催しています。講習会では、統合データ解析ツール(SPEDAS)を使い、「あらせ」と他衛星・地上観測データを合わせて解析・作図する方法を、学生や研究者向けに紹介しています。「あらせ」のデータに触れながら行う形式の講習会は評判も良く、参加者の研究に役立っていると実感しています。とはいえ、講習会では予期せぬ出来事が往々にして起きるものです。例えば、台湾の講習会で「あらせ」のレベル2磁場データ(観測データから較正を経て物理量変換されたデータ)をダウンロードする際、多くの参加者がレベル2を意味する"l2"を12(じゅうに)と読み間違えた結果、プログラムが動作せずにちょっとした混乱が起きたりしました。こんな単純なミスほどなかなか気づけないものですが、現場でのハプニングもスパイスとして前向きに受け止め、ノウハウとして蓄積し、次に生かしています。

「あらせ」からは続々と新しいデータが送られてきており、地上観測や海外衛星との連携観測も数多く実施されています。これらのデータを最大限に活用して「あらせ」の科学成果を一層大きくできるように、サイエンスセンターはプロジェクトの各担当メンバーと協力しつつ今日も頑張っています。

(サイエンスセンターから小嶋 浩嗣さんへ)

世界初の試みであるソフトウェア型の波動粒子相互作用解析装置ですが、まだ誰も見たことがないデータの中には、どんな科学的な"宝"が眠っているのでしょうか?

衛星パネル ( フライトモデル) へのOSR の施工

衛星パネル ( フライトモデル) へのOSR の施工

【 ISASニュース 2018年1月号(No.442) 掲載】