電力危機の楽観視は危険、ITRが企業に夏季の対策を緊急提言


 株式会社アイ・ティ・アール(ITR)は27日、国内企業が電力機器を乗り切るデータセンター対策について緊急提言を行った。「地震」「節電規制」「計画停電」の3つのリスク対応を視野に入れた、商用データセンターの活用や60Hz圏への分散配置などを提言している。

 ITRでは、現状において電力危機を想定せず、従来通りの企業活動を続けられるとの楽観視は危険であると考えている。企業は節電規制への対策を早期に打ち立てるとともに、急きょ計画停電が発動された場合のシナリオについても想定しておくことを強く推奨するとしている。

 現在、企業のIT部門が迫られているのは、「地震」「節電規制」「計画停電」の3つのリスクだ。一部の業界では輪番停電を計画する動きも出てきているが、節電規制には電力消費の総合的な抑制が求められるという。特に「中堅・中小企業では、オフィスビルの一角にサーバールームを設ける例も多く、自家発電機を備えていなければシステム停止の可能性もある。こうした脆弱性を抱える企業は、安定した電力供給が期待できるサイトへのサーバー機器の退避や遠隔二重化を検討するか、停止を前提としたその後のシナリオを作るという選択をしなければならない」(ITR)。

 一方、自家発電機を備える企業であっても「十分な需要予測と稼働検証を行い、安定稼働に備える必要がある。万が一、計画停電が実施されることになれば、シャットダウン、停止、再起動、動作確認に至る4時間程度のシステム停止が断続的に発生することになる。この停止を許容するにしても、サーバー機器のシャットダウン手順を明確にし、正常な再起動を担保することは最低限必要となる」という。

 対応策として、商用データセンターへの移設が効果的だ。「地震対策に優れた建造物に加え、自家発電機を備え燃料会社との優先契約を行っているデータセンターにサーバー機器を預けることは最も有効な対策になる」(同社)と指摘する。実際、震災後に主要データセンター事業者では案件対応が急増しているという。

 セカンダリサイトでのシステム二重化についても、現在急速に需要が増している。プライマリサイトが関東圏の場合は、大阪・名古屋以西にセカンダリサイトを構築するのが賢明だが、関東圏に比べて西日本のデータセンターはそもそも数が少ない。このため、主に大阪のデータセンターでは近く需要過多となる恐れがある。これにより、長野、名古屋、神戸、福岡といったほかの60Hz圏のデータセンター活用が進むと予想されるという。

 こうした点を踏まえ、ITRでは「今夏の電力危機は属する業界、地域、規模により企業ごとにとらえ方が異なる傾向にあるが、リスクが存在する以上、十分な危機意識を持って対処することが求められる」と提言する。特に東京23区を除く関東圏は影響を受ける可能性が高く、夏季までの時間は限られていることから、自家発電装置のないデータセンターを運営するIT部門は最小限の暫定施策しか行えない点を意識すべきとする。

 一方で堅牢なデータセンターでの運用やセカンダリサイトの構築を行っている企業は、「電力機器に対して一定の保険を得ているといえる。しかし、その場合でも、自家発電装置の安定操業が期待できるか、燃料の優先契約や配送ルートは確保できているかといった点から残余リスクを評価し、緊急時に備えて十分な準備を進めておくことが必要だ」とする。

 具体的な対策としては、地震に対して「データバックアップ」「商用データセンターへのサーバー移設」「セカンダリサイトの構築」「UPS/自家発電機などの設置」、節電規制に対して「商用データセンターへのサーバー移設(節電目標に応じた対象システム)」「自家発電機の稼働検証」、計画停電に対して「商用データセンターへのサーバー移設(継続運転を要求される優先システム)」「セカンダリサイトの構築」「自家発電機の稼働検証」「シャットダウンの手順化」を検討し、共通して在宅勤務や通信環境の整備を進めるべきとしている。

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(川島 弘之)
2011/4/27 14:14