リコーフォトギャラリー「RING CUBE」では、モモセヒロコ写真展「世界/なきながら咲いている」が4月27日~5月1日まで開催中だ。この写真展は、RING CUBEの公募の中から選ばれた作品で、「生」をテーマにしている生物や植物などの存在する空間と時間を捉えた作品 約30点が展示されている。
写真家のモモセヒロコさんは、「作品『世界』では、ある一つの空間で生きる生物たちの生を写真に納め、そして作品『なきながら咲いている』では、じっとその場で一生を過ごす生物たちの生を映し出した写真です。身体全体で感じとった世界が、じんわりと伝われば良いなと思っています」と作品の2つのテーマを語っている。
■生活を写真に写し取って作品に仕上げる -生と死を気づかせる-
若いころに母を亡くしたというモモセヒロコさんは、「生と死というのが、テーマの根底にあるような気がするのです」と教えてくれた。
作品を作るには時間がかかるという。「普段の生活を少しずつ切り取って、作品を作っていく感じです。しかし、普通の生活をしながら写真を撮るよりも、別世界に行く感じですね」と普段の生活の中から気づいたことを撮っているとのこと。
その一方で普段からカメラを持ち歩くことは少ないという。
「被写体が見つかると作品になることが多いのです。例えば、庭にアオムシがいたとしますよね。見つけて、ハッと思って、撮りたいと思っても、その時にカメラを持っていないことが多いのです。カメラを持ち歩いていた時期もあるんです。でも、それは安易な気がして」と写真に対する真剣な気持ちは強い。「被写体が見つかると作品になることがあるのですが」と安易な気持ちでないからこそ、これだけ人に訴えかける写真になるのだろう。
■抜け出したい!生きているから -『世界』-
旅の途中でふらりと立ち寄った場所で、すごい勢いで自由に鳥が飛んでいる非現実的な光景が「世界」のきっかけとなっているとのこと。
鳥たちをよく見ていると、一羽一羽が少しずつ異なり、体が小さいけれど存在感があった。この空間は一つの世界、まるで人間の社会のようなもの。しかし、この場所で一生を終えることになる。「この鳥たちは、籠の中から出られないけど、自分は出ることができるかもと思って」と、別の世界に逃避したいという気持ちが表れている。
実際に飛ぶ鳥の写真を撮っていると「まるで鳥を撃っている感覚になりましたね。瞬間をとらえる一心で連射しました。鳥と私の戦いになっているかも」と生き生きとした鳥の姿が「生」について訴えかけてくる。
■そこに存在しているというパワーをくれた花 -『なきながら咲いている』-
『なきながら咲いている』は、「もう生きていられないことが分かっていて、友人の遺影の写真を撮ったという彼女と、そのとき仕事でしていた花を撮るという行為がシンクロしてできた作品です」と、「生」を考えさせられる作品となっている。
花の撮影は、地元誌の仕事として始めた。だから、長野県内の写真が多い。
「引き続き、植物は撮っていこうと思い、いろんな植物園に行っているのですが、作品になるかどうかはわからないです。花は誰でも撮れると考えると、つまらないものにしかならないのでは」と、いつも悩みながら撮影している。でも「花の作品はよかったという人もいて」、作品として発表できてよかったと感じることもあるという。「亡くなった友人は、町の写真屋で働いていて、悩みもあったようなんです。悩んでいること自体が生きていることかもしれないけど」と、その悩みが表れていることが、人の心を動かす要素になっているのかもしれない。
今回の写真展は、生き生きとして飛び回っている鳥と、静かな中で幻想的な美しさを見せる花が織りなす不思議な空間が広がっている。動と静の違いはあるが、きっと生きることを再発見させてくれるだろう。
モモセヒロコ写真展「世界/なきながら咲いている」
2011年4月27日(水)~2011年5月1日(日) ※休館日を除く
開館時間:11:00~18:00(火曜日休館)
モモセヒロコ
1974年10月18日、長野県生まれ。
2000年、武蔵野美術大学卒業後、デザイン事務所やフォトスタジオなどで勤務しながら写真制作を続け、写真は本の装丁、website、雑誌媒体等に使用されている。
現在、松本発のファッションブランドYOUI!/ようさん工房のグラフィック部門を担当。松本と工芸の深い関わりに着目し、そこに新たなエネルギーを加えようという企画「工芸の五月」の編集委員もつとめる。
■リコーフォトギャラリー「RING CUBE」
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