創業5年で企業価値1兆円! 中国メガベンチャーが「日本企業を爆買い」する日

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Nikada/Getty

13億人という圧倒的な人口と潤沢な資金力、起業支援という国策をベースに、世界各国の市場に進出する中国。スタートアップ企業の世界でもその勢いは止まらない。日本に上陸しているサービスこそ少ないものの、中国では耳を疑うような巨大な市場規模を持つメガベンチャーが続々と誕生している。たとえばDAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)が1億に迫るサービスや、創業数年で企業価値1兆円規模というユニコーン企業は、1社や2社ではないのだ。

「中国のスタートアップ最新事情」はどうなっているのか? ベンチャー企業交流型サミット「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」(以下、IVS神戸/6月5日より開催)の主催者で、インフィニティベンチャーズの共同代表・田中章雄氏、小野裕史氏に直撃した。

盛り上がっているのはネットからリアルのO2O

日本と中国ではビジネス環境がまったく違うことは想像に難くないが、そもそも何がいま盛り上がっているのか?

インフィニティベンチャー 田中氏

インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 田中章雄氏

インフィニティベンチャー小野氏

インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 小野裕史氏

「ベンチャー界隈で経済規模が大きく熱量が高いのは、ネットからリアル店舗への販売を誘導する"O2O"(オンライン to オフラインの略語)の波」だと田中氏は言う。たとえば、シェアリングエコノミー系では、ソフトバンクが20億ドル(約2200億円)出資したことで知られ、中国版Uberと表現されることもある配車サービス「滴滴出行」(ディディ)は企業価値5兆円前後にまで成長し、ハイヤーやタクシーのみならずバスなどの交通機関にまで手を広げ、インフラ化している。

そして、時を同じくして成長を続けているのが「電子決済」だ。「ちょっと待て、日本は電子決済においては比較的先進国に近い方じゃないの?」 。そう思う人は多い。しかし、田中氏、小野氏ともに、中国における電子決済の浸透度は日本を圧倒していると語る。曰く「中国出張時には、ほぼ現金を持ち歩かない」ほどだという。

では、なぜそこまで電子決済が社会インフラとして浸透しているのか? 田中氏は理由を2つあげる。

圧倒的に安い電子決済手数料

まず第1に、スマートフォンが老若男女問わず共通のプラットフォームになっていることだ。日本でいうキャリアメールはほとんどなく(メッセージングにはWeChatなどを使っている)、2000年以降成人を迎えた、いわゆるミレニアル世代も、お年寄りも、同じプラットフォーム(スマホ)上で同じようにサービスを使っている。これによって、「色々な新しいサービスの基礎になるスマホが、(フィーチャーフォン、いわゆるガラケーも根強い)日本と違って中国国民の社会インフラになっている」という現状がある。

第2に「モバイルPaymentの"手数料"がまったく違います」(田中氏)。中国の大手決済インフラはテンセント系のWeChat Payや、2018年にも日本に本格上陸すると言われるアリババ系のAliPayなどがあるが、いずれも手数料が非常に安いのだ。

「そもそも中国はデビッドカードやクレジットカードの決済手数料がおよそ1%以下と安い。さらにWeChat PayやAliPayになると、各プラットフォーム上での決済手数料はほぼゼロに近い。これによってマイクロ決済の壁がない。細かい単位で決済しても赤字にならないのです」(田中氏)

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こうした極めて低い手数料を背景に、マイクロ決済によるさまざまなアイデアのサービス化が急速に進んでいる。実際にマイクロ決済によって成立しているローカルビジネスとして、田中氏はレストランなどで展開する「スマホ充電ビジネス」を挙げる。1時間1元(約16円)で充電させるものだが、これにも電子決済が使われている。

また、中国で急速に盛り上がっている自転車シェアリングビジネスも、同じく1時間1元。これをそのまま日本に持ってきたとしても、日本では成立しない。クレジットカード決済手数料で赤字になってしまうからだ。

O2Oとそれを支える電子決済。この両輪が成長を続けた結果、億単位のユーザーが日常的に使う経済圏が誕生している。これが中国というスマホ大国のもう1つの姿だ。

では、ベンチャーの成長速度はどうだろう?

「たとえば、前回のIVS京都にも招待した中国のニュースキュレーションアプリのTouTiao(トーティアオ/今日頭条)を運営するバイトダンス社は、創業5年にして企業価値が1.2兆円。いま中国のニュースアプリの人気ではテンセントと並ぶか、そろそろ追い越すのではないかと言われています」(田中氏)。

ちなみにTouTiaoはデイリーアクティブユーザー(DAU)が8000万ユーザー、月間ユーザー(MAU)は1億7000万ユーザー、広告売上は一部報道によれば年間8億ドル(約883億円)以上とも言われ、単体ニュースアプリとしては、日本には比較対象が存在しないほどの「巨人」だ。

中国のIT産業におけるAI活用は日本以上に進んでいる

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人工知能の発展を半導体側から支えるNVIDIA(エヌビディア)の自社イベントに日本のAIベンチャー「ABEJA」が登壇したり、NTTデータがAIを使った重症患者予測のテストをスペインで始めるなど、AIの産業化もIT界隈では注目だ。田中氏はこう話す。

「AI単体を切り出してビジネスにしている企業はそんなに目立たないかもしれませんが、私が見ている限りは日本以上に、AIが普通のサービスに組み込まれている印象が強い。たとえば、先ほどのTouTiaoはユーザーに見せる記事のパーソナライズにAIを使用しているし、EC(電子商取引)の分野では、たとえばEC大手アリババの"検索エンジン"と"ネット広告"、アリババ上で商売する"ショップのデータベース"をダイレクトにつないで、売上目標に合わせてAIが自動的にショップの商品の広告を最適化するような仕組みをシステム化しているベンチャーもある」

田中氏が指摘するEC分野における「AI広告」の話はユニークだ。AI広告は、最近のネット広告の世界では当たり前の、いわゆるRTB(リアルタイム入札)よりさらに進んだシステムで、費用対効果を最適化した広告入札のためのキーワード設計といった「人が頭をひねって分析する領域」がほぼ何もないのだ。人間がやることは、言ってしまえば「AIが弾き出した広告出稿プラン」の予算増減を調整し、その原資を投下するか否かの意思決定をするだけだ。

しかも極めて興味深いのは「この仕組みを今の日本の市場では実現することは極めて困難」(田中氏)だというところだ。

というのは、AI広告を実現するには、ECと広告エンジンがダイレクトに繋がる必要があるが、日本では、ECのプラットフォーム(例:アマゾンや楽天)と広告プラットフォーム(例:グーグル)が、それぞれ別のプレイヤーとして存在するからだ。AI広告は、「グーグルがアマゾンを運営している」かのような中国特有の状況が存在しているからこそ、実現できている。

ある意味では、AIが人間のライフスタイルをどう変えるのか?という「最新のAI実証実験を13億人に実施している巨大実験場」が中国というマーケットだという見方もできる。

中国のスタートアップを知りたいなら北京を目指せ

それでは、ユニークな技術やアイデアを持つベンチャーを探すにはどこにいけばいいのだろうか? 田中氏は「北京」だと断言する。

「外国人はみんな上海が凄いと勘違いしているが、実際にはスタートアップの数は北京の10分の1もないでしょう。清華大学などテクノロジー分野の有名大学があるため"レベルの高いエンジニア"が集まるのが北京です。またインターネットは政府の規制が多い分野でもあり、行政に近い場所にいないこと自体が不利になる」

といったことが理由だという。

IVS神戸の中国メガベンチャーセッションに注目

IVS LaunchPad 2016 Fall

ベンチャーの登竜門であるプレゼンバトル「IVS LaunchPad 2016 Fall」の結果発表の1幕。今回はどんなベンチャーが勝ち抜くのか。Launch Padも注目だ。

田中氏、小野氏は「いまの中国ベンチャーの盛り上がりは、"経済規模"のみならず、ベンチャーが拡大する"スピード"でも、シリコンバレーを抜き去ったように感じている」と口をそろえる。中国という市場が持つポテンシャルは、日本人がイメージする以上に大きく、そしてスマートフォンという国民共通プラットフォームと決済インフラを背景に、サービスのデジタル化も日本やアメリカ以上に進んでいる。

インフィニティベンチャーズ主催による国内外のベンチャー企業が一同に会する交流型サミット「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」(以下、IVS神戸)は、6月5日(月)のDay0 前夜祭イベントを皮切りに6月7日(水)までの3日間、神戸市で開催される。IVSは今年で20回目の節目を迎え、参加企業は600社にまで増えた。

BUSINESS INSIDER JAPANでは、IVS神戸に密着して、「爆買開始? チャイニーズユニコン緊急来日」セッションのほか、注目のプログラムを現地取材体勢でお送りする予定だ。乞うご期待。

(※編集部より:滴滴出行に関する一部表現を追記しました 6月5日 10時20分)

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