【月間総括】任天堂とソニーの年度決算から見る今後の展開

 今回は,2017年3月期決算について話をしていこう。その前に,詳しいデータに関してはaueki氏が記事にしているので合わせてご参照いただきたい(参考記事)。

 任天堂の2017年3月期は,前期比3%減収の4890億円,同11%営業減益の293億円,同75%経常増益の503億円,当期利益1025億円(同6.2倍)となった。
3月に発売した「Nintendo Switch:以下Switch」の寄与はあったものの,Wii Uがライフサイクル末期だったこともあり,全体では減収傾向を反転させるには至らなかった。注目のSwitchの販売台数(着荷)は274万台で,会社計画の200万台,エース経済研究所が想定していた220-240万台を上回った。
 この差異は販売開始後,北米での強い需要があることを確認した任天堂が,急遽増産を決め,製品の空輸を実施したためである。通常,チャーター便で空輸を行うと1台当たり数千円程度の費用が発生するはずだが,会社側にヒアリングしたところ,そこまでの費用は発生していないということであったので,定期便を利用したのではないかと推測している。顧客に商品を届けることが使命であることを考えると,空輸の実施は適切だったと考えている。
 なお,日本での販売は60万台だった。会社側は極めて高い消化率を推定しているとのことなので,公表されていた推定販売数より多い。
 この差異が発生した理由は不明だが,マイニンテンドーなどの新しいチャネルの推測値の算出が困難だったからもしれない。このため,以前より指摘している出荷で2週めまでに50万台程度,販売45万台以上の水準は満たされていた可能性がある。ただ,検証は困難であり,1年程度の動向を見て,再度検討したいと考えている。

 また,決算時点では今期のSwitchは1000万台の販売を想定していると発表されている。会社側によると,各地域会社からの数字を積み上げたうえで考慮したもので,これが販売の上限ではなく,状況に応じて増産する余地があるとしていた(※すでに1800万台に増やしたとする記事もある)。
 現在,Switchは据え置き機としてはこれまでにない需要に直面している。会社側も,まだ確証を得る段階にはないが,1家に1台という据え置き機の傾向よりは1人1台の購買となっている可能性があるとしている。

 それでいて,今期のソフト装着率は3.5本とかなり高い。Switchは携帯機と据え置き機のハイブリッド機であるが,販売の動向も両者の強みが取り込まれている印象だ。300ドルの製品が1人に1台売れるとは,マスコミやアナリストはもちろん,会社側も想定していなかったはずである。強い需要に対応するために増産する必要があるが,足下の半導体の需給はデータセンターにおけるSSD需要の増大でひっ迫しており,大幅な増産は難しい。エース経済研究所では,今期1600万台程度の販売を想定している(生産は輸送を考慮し1800万台以上)。おそらく10-12月期には600万台程度の出荷が必要になると予測しているが,この時期に必要な台数を達成するためには,再度,空輸を実施する必要があるかもしれない。会社側は経費の抑制を目指している節が見られるが,需要期に販売を伸ばすことは,来期以降のソフト販売に影響するため,3月と同様に早急な決断を望みたい。

 一方,ソニーのゲーム&ネットワークサービス事業は売上高1兆6498億円(前期比+6%),営業利益1356億円(同+52%)と大幅増益だった。
 新型PS4の発売および年末商戦に多数のソフトが発売された効果で,PS4の販売が2000万台(同+230万台)と大きく伸長したことが寄与した。PS4の販売は,日本を除けば極めて順調に推移している。
 アンドリューCEOが設定した戦略目標であるエコシステムが確立され,ソフトウェア販売も大きく伸びた。エース経済研究所では,ゲーム機ビジネスは初動で決まると考えており,初日に米国で100万台もの販売を達成したPS4は,この要件を満たしたと捉え,販売好調は3年程度続くと予想していたため,サプライズはない。おそらく,今期(2018年3月期)が業績のピークとなろう。
 PS4ハードの販売はすでにピークアウトしており,会社側がガイダンスしているとおり,売上高を牽引しているPSストアを通じたソフト販売も今期がピークとなるはずである。
 問題は,会社側の指摘どおり,アナリストの予想が来期以降も成長が続く前提になっていることだ。これは,PS4 Proが投入されたことと,PSNの加入者増による安定成長が続くと見られているためだと推測している。つまり,今後は世代交代ではなく,アップグレードによるスマートフォンの様なビジネスモデルの変更を想定しているということであろう。
 しかし,以前のIRDAYでエース経済研究所の質問に対して,アンドリューCEOは世代交代を行うと発言していることを考えると,やや疑問符が付くところだ。実際,PS4 Proもアップグレードを促すほど売れているというデータはなく,コンセンサス形成が誤っている可能性がある。エース経済研究所では2019年頃にPS5が登場するという世代交代モデルを想定している。
 ただ,SIEの新製品・サービスの躓きが続いているのも気になるところだ。PSNOW,PSVR,PS4 Pro,PSVUEと5月23日に開催された経営方針説明会では立ち上げに成功したと声高らかに宣言したが,うまく行っているとは言い難い。現時点では失敗とは言えないためかもしれないが,潜在的な市場規模を誤認したまま,投資を続けることは大変危険である。

 コンコルド錯誤という事例がある。音速機として開発されたコンコルドは市場規模が小さいことが判明したあとも,それまでの巨額の投資を惜しんで投資を継続した結果,損失が拡大してしまった。
 エース経済研究所では,PSNOW,PSVR,PS4 Proに関しては発売前から問題があることを指摘している。
 PSNOWの根幹であるクラウドゲーミングサービスは,物理法則を超えることが難しいうえ,ハードウェアが手元にないため,プレイヤーがサービス内容を分かりにくいという大きな問題を抱えていることは事前の調査でも指摘があったのではないだろうか?
 PSVRは何度も生産性について問題点を指摘した。PSVRだけでなく,各社のVR機器でもあるが,生産性にも問題を抱えている。ソニー全体に言えることかもしれないが,ゲームではマーケティング調査は不要にしても,技術的な要件調査は必要で,この調査を行っていれば問題を把握できたはずであると,エース経済研究所で考えている。例えば,任天堂でもVRの技術的な研究は行っているが,彼らは早急な製品化を見送っている。
 ソニーは,これまで革新的な製品を提供してきた。それもまったく世の中に無いような製品を提供してきたがゆえに,技術的な要件調査を是とする体制になっていないのではないかと危惧している。エース経済研究所の問題提起が,ソニー全社で真摯に検討されることを期待したい。