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2017年5月13日(土)

『エルシャダイ』に連なる神話構想の発表まで、あと2週間足らず!? 竹安氏講演まとめ【TOKYO SANDBOX 2017】

文:電撃PlayStation

 5月12日TKPガーデンシティ渋谷で開催された、“TOKYO SANDBOX 2017”のPUSH ゲーム開発者サミットにて、“エルシャダイの世界”をテーマに、株式会社crimの代表取締役、竹安佐和記氏が講演を行った。ここでは、その模様を電撃PS編集部がお届けする

『TOKYO SANDBOX 2017』

 竹安氏といえば『エルシャダイ』のほかにも『Devil May Cry』のモンスターデザインや『大神』の妖怪デザインを手がけてきたクリエイター。2017年6月には氏がモンスターデザインを手がける新作『GOD WARS』が発売されるなど、現在も第一線で活躍している。

 今回公演が行われた“東京サンドボックス”は、2015年、東京インディーフェスという名の1つのゲームショーからスタートし、ゲーム会社やゲーム新興企業と国際的な投資家やパブリッシャ―を結びつけるイベント。大手ゲーム会社で新作タイトルの制作に携わる氏が、本イベントで講演する理由とは何か? それは『エルシャダイ』を作り、現在まで育ててきた氏のクリエイターとしてのマインドにあった。

『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』
▲今回の講演にあたりHP掲載用の写真を複数提出したら、「なぜこの写真が?」という写真が選ばれたという語りから始まった本講演。掲載した人によると、“竹安氏がロックスターだから”ということでチョイスしたそうだ。

 事前のイベント告知では「もしかしたらエルシャダイの続編に関する衝撃発表も飛び出すかもしれないと書かれていてビックリした」という氏は、「エルシャダイの続編が出るまでは、神の時間では一瞬だが、人間では365年かかるかもしれない」と笑いを誘ったが、締めにはしっかり次回作への期待が高まるサプライズも用意されていた。ここではその講演をレポートしていこう。

『エルシャダイ』制作前夜は借金生活……?

 カプコンを辞め、なんのあてもなく東京に出てきたという竹安氏。もともと氏には0円で東京に出て行きたいという夢があったそうだが、それは住む家があってのこと。アテにしていた親戚の家に行ったらアッサリと断られてしまった氏は、すぐに実家に電話して50万円借り、家を借りたそう。

 幸いにも『大神』が非常に好評だったので仕事はすぐに見つかったそうだが、つぎに手がけることになる『エルシャダイ』を作るうえで、感謝してもし切れない恩人は、Vijay氏と竹下和広氏だったと語る竹安氏。Vijay氏からは、渋谷のあやしい喫茶店で「『DMC』、『大神』を超えるゲームを作って欲しい」と言われたことを懐かしそうに語り、今も感謝の念が絶えていないことが感じられた。

『TOKYO SANDBOX 2017』

気まぐれなチャンスに、全力で取り組む

 「そんな装備で大丈夫か?」で2010年のネット流行語大賞で大賞を受賞した『エルシャダイ』は、後日世界最長CMでもギネス記録を受賞したほか、エドウィンとのコラボジーンズやゲームのビジュアル面、演出でも話題となった。

 発売前となる2010年の東京ゲームショウでは“日本ゲーム大賞 フューチャー賞”を受賞したほどの本作だが、当時すでに制作スタジオの閉鎖が決まっていたため、壇上では複雑な気持ちだったと竹安氏は語った。

『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』

 スタジオ閉鎖の理由はリーマンショック。そのとき竹安氏は、“ゲームというのは世の中に出さないと無かったことになる”と感じていたそう。だから、たとえクソゲーと言われても世の中に出たものが評価されると考え、発売することにこだわったという。

『TOKYO SANDBOX 2017』

 そんなこんなでなんとか発売までこぎつけた『エルシャダイ』だが、竹安氏にはなんとかしたいと思っていたことがあったという。それは『エルシャダイ』の物語が未完で終わっていたこと。ユーザーからはラスボスがいなかったことに対する指摘を多く受けたそうだが、竹安氏が気にしていたのは、“ゲームの中で語られたのはゲーム内時間での9時間だったが、じつは残り730年分の物語があった”ことだった。

 『エルシャダイ』とは、神の右手と言われるルシフェルと神に選ばれた義人イーノックが、天動説の世界から地動説の世界へと天地創造に立ち返る、惑星創生の物語。親会社から10年続くコンテンツを作って欲しいと言われたため、竹安氏は壮大なサーガを用意したとのことだが、せっかく作った物語を出さないのはもったいないとずっと思っており、どこかで物語を発表したかったそうだ。

『TOKYO SANDBOX 2017』

 そういうなかで竹安氏が書き上げたのが、550ページ以上にもなるエルシャダイ原作小説。竹安氏はもともと小説を読むのも苦手で、当時は体調を崩しながら小説を書いていたという。その甲斐もあってか、Amazonをはじめとしたユーザーの評判はよく、重版もかかり、出版社からは「さらに書かないか」という提案もあったそう。しかし、会社がなくなってしまったため続編は書けなかった。

『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』
▲チャンスは気まぐれで、いつもできそうもないことばかりがやってくる。だから全力で取り組む。と語る竹安氏。『エルシャダイ』原作小説もその成果のひとつだ。

 ところが、竹安氏に次なるチャンスが訪れる。それは『エルシャダイ』の権利取得。このことを氏は「多くの方の協力で手に入れることができた奇跡」と語った。

 このエピソードのついては語り始めると非常に長くなってしまうとして、本講演では割愛されたが、詳しくは“スピリチュアルおかん”というコミックスに詳しく描かれているそうなので、興味のある人はそちらでチェックしてみよう。

『TOKYO SANDBOX 2017』
▲スライドでは、ねずみを髣髴とさせるシルエットで感謝の念が表現されていた。

『エルシャダイ』を自由にすることができるようになったので、原作小説の前文にあたる、“イーノックとルシフェルの出会いの物語”をコミカライズし、これで一応の区切りをつけることができた、と感じたそうだ。

『TOKYO SANDBOX 2017』

インディーズとは、“作り続ける”こと

 「大きなプロジェクトを進めたが、自分の立場としては下請け」と語る竹安氏。そういう意味でメンタルはまさにインディーと続けた氏は、さらに“自分が思うインディーズとは何か?”ということについて語る。

 氏によれば、それは“独立性の高さがある”ことだという。大企業はよく止まることがあるが、インディーズは進み続けることができる、作り続けていると必ず何度か大きなチャンスが来る、大きなチャンスが来たら、いつもどおりまた作ろう、と作り続けることの重要性を説いた。

『TOKYO SANDBOX 2017』

 話は『エルシャダイ』とつながるオムニバス作品群の総称である“神話構想”にもおよんだ。自分がせっかく得た『エルシャダイ』でなにか作りたいと思って始めたという“神話構想”は“クトゥルフ神話”のように広がり続けるもので、ファンからは終わりのない沼と呼ばれているという。

竹安氏が生み出した“神話構想”の一例

・Gideon-ギデオン-

・AMON-アモン-

・なんでおまえが救世主!? バベルの塔の女子高生

・サワキグラフ(ショートストーリーが掲載された自社本。最近もKindleで執筆中)

 神話構想では仲間も募集中で「作るのに飢えている人は、神話構想に這い寄ってきてください」とのことだ。参加した人はみな「いい経験をした」と語るそうなので、興味がある人はcrimの公式HPから問い合わせてみよう。

『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』

手法を問わず、作り続ける

 現在もゲーム制作を続ける竹安氏だが、ゲーム制作とは対極の、マッキー1本でイラストを描く原始的なものづくり、“マッキーアート”にもはまったそう。また、こういう活動をしていたら2016年、東京ゲームショウでも角川ゲームスのブースにて、『GOD WARS』のヤマタノオロチのライブドローイングを行うことになったという。

『TOKYO SANDBOX 2017』
▲今回の講演にあたりチャリティーでなにかプレゼントをと言われて用意したマッキーアートの複製原画は、大きすぎて会場にもって来れなかったため断念したそう。
『TOKYO SANDBOX 2017』
▲こちらが代わりに用意されたイラスト。『梗概は神の手の中に』というタイトルで、『エルシャダイ』の世界がこの1枚に凝縮されている。実物が登場したときは思わず会場から歓声もあがった。

「そんな画質で大丈夫か?」「大丈夫じゃない、不満だ」

 本公演で“最後まで話そうか迷っていたこと”と前置きしながら竹安氏が語ったのが、ニコニコ動画の動画について。だれかがニコニコ動画にアップした『エルシャダイ』の動画は600万以上再生され、現在も再生数を伸ばしているのだが、竹安氏にとってはそれは腹立たしいことだったそう。

 ……というのは、当時数々の課題を乗り越え、せっかくフルHDで作った動画が劣化した形で二次創作に使われていたため。講演ではそのフルHDの動画も再生された。

『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』

 動画の再生後は、動画中に登場する当時話題となったセリフ「弟の敵を取るのです」にも言及。じつは『エルシャダイ』本編には弟は登場しないのだが、これは出さなかったのではなく出せなかったのだそうで、辛い決断だったと語った。

 先程紹介したエルシャダイ原作小説には、晴れてその弟が登場するが、竹安氏はあまり昔から小説が好きではなかったので、ゲームの話をまたコミックで描き出しているそうだ。

ファンとともに、作り続ける

 このほか竹安氏が取り組んでいるインディーズ活動は、“ギャラリーエルシャダイ”。『エルシャダイ』の世界観をテーマとしたアートが溢れるギャラリーだが、通常のギャラリーと異なるのは、フリードリンク、フリーWi-Fi、電源を完備した“ノマドれるギャラリー”であること。

 本ギャラリーでは、ルシフェルはビニール傘が印象的であること、6月4日がルシフェルの記念日としてファンの間で定着していることから、6月3日から17日まで“梅雨のルシフェル展”を開催するそうだ。

『TOKYO SANDBOX 2017』
『TOKYO SANDBOX 2017』

 ちなみに、竹安氏はインディーズ活動を行う上で拠点が必要だと考え、信者の聖地としてギャラリーエルシャダイを用意したとのこと。ブログで「みんなでエルシャダイを作らないか」という提案をしたところ、『エルシャダイ』がすごく好きな人が15人ぐらい集まり、さらには竹安氏に会うだけで手が震え、泣きながら一緒にがんばりたい、と語るファンもいたそうだ。

 氏はそのファンの姿をとてもうれしく思ったと語り、いまはこの人達となら活動ができると信じている。また新しい仲間で『エルシャダイ』を育てていきたいと思っている、と新たな『エルシャダイ』の展開に意欲を見せていた。

『TOKYO SANDBOX 2017』

メジャータイトルでも新たな神話構想が!

 最後にサプライズとして、2週間以内に新たな神話構想を発表されることが明らかになった。これはインディーズではなく、メジャーなもの。メジャーなものなので、すごく口止めをされていると述べ、講演は締めくくられた。

『TOKYO SANDBOX 2017』

 新たな神話構想とは何なのか? イーノックやルシフェルと、『エルシャダイ』以外にまた別の形で会える日が来るのだろうか? 今はただ、発表されるその日を心待ちにしたい。

『bitsummit』
▲なお、発売中の電撃PS Vol.638では “ビットサミット”&“TOKYO INDIE FEST 2017”を特集。こちらも要チェック!

⇒電撃PSのインディーイベント特集記事の詳細はこちら

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