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モバイルゲーム市場の現状,そしてゲーム開発への投資の課題とは。角川ゲームス 安田善巳氏による「TOKYO SANDBOX 2017」基調講演をレポート
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印刷2017/05/11 14:30

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モバイルゲーム市場の現状,そしてゲーム開発への投資の課題とは。角川ゲームス 安田善巳氏による「TOKYO SANDBOX 2017」基調講演をレポート

 インディーズゲームに焦点を当てた複合ゲームイベント「TOKYO SANDBOX 2017」が,2017年5月10日から14日まで都内各所にて開催中だ。このイベントは現在,勢いのあるインディーズゲーム業界を活性化させ,さらなる発展を目的としたもので,ゲーム開発者向けのサミットである「PUSH」,国内外のデベロッパが集うゲームショウ「TOKYO INDIE FEST」,VRゲームの最新タイトルなどが出展される「VR LOUNGE」,そして学生や若者にプログラミングとゲームデザインを学ぶことを奨励する「CODING FOR LIFE」という4部門で構成されている。

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「TOKYO SANDBOX 2017」公式サイト


 本稿では,初日(5月10日)に行われたPUSHの基調講演をレポートする。この日は「投資家イベント」と銘打たれており,会場となったJINNAN CAFE(渋谷)にはゲーム開発者だけでなく,彼らに融資を考えている国内外の投資家も集まっていた。

kulabo 代表取締役 ケヴィン・リム氏
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 基調講演に先がけて,kulabo 代表取締役のケヴィン・リム氏がTOKYO SANDBOX 2017の主催代表として挨拶。リム氏はイベントの趣旨をあらためて伝えると,「最終目標は規模を問わず,日本のゲームデベロッパすべてにサポートを行き届かせることです」と意気込みを見せた。


角川ゲームス 代表取締役社長 安田善巳氏
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 「日本のゲーム産業に対する大いなる誤解」と題した基調講演に登壇したのは,角川ゲームス 代表取締役社長の安田善巳氏だ。安田氏は1981年から2003年まで日本興業銀行に勤務し,投資銀行業務に携わると共に,日本のゲーム産業やソフトウェア産業の調査を手がけていたが,2004年にゲーム業界へ転進。その後,2009年には角川ゲームスを設立し,代表を務めるだけでなく,自らタイトルのプロデュースやディレクションを行うこともある。
 基調講演では,こうしたキャリアを持つ安田氏が日本のゲーム産業の現状や,ゲーム開発者と投資家の間にある課題について語った。

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 安田氏によると,日本のゲーム産業の現状は「1997年をピークに市場は右肩下がり。また技術力も北米や欧州に遅れを取り,かつてのような存在感は失われたというのが,世界における一般的な理解」とのこと。しかし,「そうした流れもあったが,モバイルゲームの成長により,現在は以前と異なる市場やトレンドが生まれてきている」と説明した。
 続けて,信用できる調査機関によるデータを引き合いにして,モバイルマーケットの全世界における市場規模は2015年時点で3.6兆円,そのうち日本市場は約9500億円で世界1位となっていることを示した。ちなみに,2位は北米の約8700億円である。

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 また,モバイルゲームのクオリティにおいても,日本市場はほかと比較して良質なものになっているという。その理由には,ほかの市場より規制が少なくオープンな環境であり,ゲームそのものの面白さが問われることを挙げた。
 その結果,日本のモバイルゲームランキングのトップ100には日本のみならず,北米や欧州,アジアのタイトルが全体の22%を占める状況となっており,安田氏は「日本市場では世界各地の優れたゲームが評価されている」と表現した。

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 そうしたモバイルゲーム市場の成長により,日本のゲーム産業は変化を遂げている。日本にはコンシューマゲーム,PCオンラインゲーム,そしてモバイルゲームと大きく分けて3つの系統のゲーム企業が存在し,そのGDPは4兆円程度。しかし,モバイルゲーム市場から次々と新しい成功者が誕生し,彼らが株式を公開したことにより,日本のゲーム産業全体の企業価値は10年前と比較すると約2倍(7兆円)になっているとのことだ。
 この状況を支えているのは中小のデベロッパであり,彼らのビジネスモデルは大手パブリッシャからのモバイルゲーム開発受託であるという。

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 さらに,日本のゲーム産業はファイナンス(金融)の面でもラッキーだったそうだ。というのも,1990年代前半における日本の金融資本市場の規制緩和と,コンシューマゲーム市場のグローバル化のタイミングが重なったためである。
 安田氏は「スーパーファミコンやPCエンジン,メガドライブの時代に日本のゲームメーカーが上場していった」と述べ,それと同様にここ5年間でもモバイルゲームをヒットさせた企業が上場して,資金を調達できていると説明した。
 その一方,多くの中小のデベロッパは大手パブリッシャの資金でゲームを開発し,企業としてのランニングコストは銀行からの融資で賄っているという現状があるそうだ。

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 終盤には,ゲーム開発者と投資家の間にある課題について,自身も13年ほど投資をしているという安田氏の見解が語られた。
 安田氏によると,投資を受けるゲーム開発者にも経営者の視点が必要だという。具体的には「ゲームビジネスを分かりやすく説明し,パートナーである投資家に理解してもらえるか,目的を共有できるか」が重要になるとのこと。
 ただし,ここで共有する目的とは,ゲームのヒットではない。安田氏は「ヒットはもちろん望むべきものではあるが,実際はご褒美のようなもの」と続けて,それよりも「いかにいい会社にしていくか,働く人が活き活きとできるか,成長できるかといった小さな成功を確実に成し遂げる」「一度の失敗であきらめない」「グローバルな視点を持つ」といった姿勢が大切だと語った。
 そして,「VRのようなゲームに関わる新しい技術をエンターテイメントとして拡散するという意識」「投資家を含め,相手はそれぞれの物差しで自分を見ているという意識」を持ってほしいとまとめている。

 一方,投資家に対しては「日本のゲーム開発者やゲーム企業の経営者は,必ずしも経営やファイナンスに関する詳細な知識を持っているわけではない」と説明した。とくに海外の投資家には「こうした出会いの場では,ぜひ寛容な心でお話を進めてください。おそらく日本のゲーム開発者が一番気にするのは,どこまで投資家が口を挟むのか,どこまで自分達に任せてもらえるかということ」と呼びかけ,「あらかじめ投資に関するメニューのようなものを用意すると,スムーズに話が進むのではないか」と提案していた。

安田氏は株式売却やバイアウト(M&A)などの“EXIT”にも言及。日本のゲーム開発者は,EXITを人生の終わりと考えがちだが,実際にはもっと多様性があるものであり,投資家共々,活用の機会を考えてほしいと語った
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 基調講演の冒頭,安田氏は「30年ほどゲーム産業に関わってきた中で,こうしてゲーム開発者と投資家が一堂に会し,互いに交流するイベントは初めての体験。日本のゲーム産業にとっても歴史的な瞬間です」と述べていた。その言葉どおり,TOKYO SANDBOX 2017をきっかけにして,日本のインディーズゲーム,ひいてはゲーム産業全体がいっそう盛り上がることに期待したい。

「TOKYO SANDBOX 2017」公式サイト

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