勝間和代さんが原発推進CM出てたのに理解が足りなかったことを詫びてるので“広告塔”の決め方教えてやる

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今回は中川淳一郎さんのブログ『ウェブはバカと暇人のもの』からご寄稿いただきました。

勝間和代さんが原発推進CM出てたのに理解が足りなかったことを詫びてるので“広告塔”の決め方教えてやる
かつて中部電力のCMに出て、電気事業連合会後援のラジオ番組に出演していたり、『朝まで生テレビ』で親原発的発言をしていた勝間和代さんが「みなさまの原子力に対する重大な不安への理解、および配慮が足らなかったことについて、そして、電力会社及び政府のエネルギー政策上のコンプライアンス課題を正しく認識できていなかったことについて、心からおわびを申し上げます」と書いていますね。

「原発事故に関する宣伝責任へのお詫びと、東京電力及び国への公開提案の開示」2011年04月15日『REAL-JAPAN.ORG』
http://real-japan.org/2011/04/15/421/

勝間さんの声明にはコメント欄で「お前が言うか」「で、ギャラは返還するのですか?」みたいな声にあふれ炎上しているわけですが、人々の怒りは「カネでテキトーなことを言わされた客寄せパンダが何を言うか、エッ!」というものがあるのですね。

切込隊長も「だから、彼女の話を受けての反応が“どの口で電力会社批判しているんだ”という内容になるのは当然だよなあ」* と違和感を覚えています。

*:「勝間和代女史が寝返った件(いい意味で)」2011年04月16日『切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog』
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2011/04/post-bbf3.html

ここではですねぇ、いわゆる“広告塔”がどうやって決まるのかってことをシミュレーションしてみますね。オレは以前、建設省の河川事務所関連の仕事で「土手に光ファイバーを埋め込み、川を情報化します!」という運動のPRをやっていたことがあるのですよ。ここでは光ファイバーを土手に埋め込むことの是非については何も述べないからな。ここはあくまでも“広告塔をどうやって決めるか”という話をするからな。


建設省のアピールしたいこと
・土手に光ファイバーが必要であることを河川沿線住民・納税者に植え付けること
・情報化社会の到来は河川沿線住民を幸せにします!

そのために言いたい内容
・災害というものはいつくるか分からない。備えあれば憂いなし。光ファイバーを使った情報網を整備することにより、洪水の際も迅速に情報提供ができます
・光ファイバーがつながれば、明るい生活が待っています
・光ファイバーには無限の可能性があります
・光ファイバーにより、“河川コミュニティ”を生み出すことができます

なぜ広告塔を立てるか?
・自分の言いたいことを自分で言うと単なる自画自賛になるから
・人気のある人に言わせることで、注目を集められるから
・広告塔になった人は、“何を言うか”の発言はけっこうコントロールできる。カネを渡しているだけに、そこは“暗黙の了解”が存在する

以下、建設省と広告代理店との広告塔決定会議の模様を再現するぞ。登場人物はこんな感じだな。実際は10人以上いるけど、重複する役割のやつも多いし、どうせしゃべるのは5人くらいなので、以下のようにしとくぞ。

・建設省ノンキャリアA(48歳 以下“ノンA”):司会進行役
・建設省ノンキャリアB(51歳 同“ノンB”):「しかし……」「でも……」と否定する役
・建設省キャリア所長(45歳 同“所長”):意思決定役
・広告代理店営業(43歳 同“営業”):合の手を入れる役
・PR会社社長(50歳 同PR):「PR的にはですねぇ〜」と言うご意見番役
・広告代理店企画担当下っ端(26歳・オレのことね):メモ役

ノンA:ウオッホン、今日はですねぇ、○○川光ファイバープロジェクトの“有識者会議”に出席する人選を決めてみたいと思います。彼らはこのプロジェクトについて会議をし、その成果を半年後に発表し、我が河川事務所の光ファイバー推進計画を後押しするために重要な役割を果たします。

所長:まぁ、そこのとこ、頼みますよ。私が本省に戻った時、実績を見せる必要がありますからね、イイ人を提案してくださいね。

ノンA:やはり、会議の座長はナントカカントカ大学の田中先生しかいないでしょう。

営業:その通りですね。やはり、田中先生は“コレ”(親指と人差し指で○を作る=カネの意)さえ出せば、何でも言ってくれますしね。それに、情報通信分野では何せ日本の第一人者ですからね。

一同:ガハハハハ

ノンB:でも、“コレ”(同様に親指と人差し指で○を作る)がけっこうするんじゃないですか……。

営業:まぁまぁ、そこは今までのお付き合いもありますし、ちょっと押えていただくようお願いしますよ。

ノンA:全体では何人くらい必要ですかね?

PR:まぁ、PR的観点と、説得力という点から考えると、1.座長 2.防災の専門家 3.情報通信に詳しい若いジャーナリスト 4.川遊びなどアウトドアの専門家 5.光ファイバーメーカーの技術者……

営業:そこに女性も加えたいですなぁ、ガハハ

一同:そうですなぁ、ガハハハ!

ノンA:やっぱり美人がいいですなぁ、所長、どんなタイプがお好みですかねぇ。

所長:まっ、このー、まっ、そこは専門家のご意見を、ということで、PRさん、誰がいいですかねぇ?

PR:これはどの層にアピールするか、という点によると思うのですが、若い層にアピールしたいのであれば、これはやはりNHKの朝ドラに出ていて、この近隣出身の女優さん、近藤アケミちゃんがいいのではないかと思います。そして、年上の層にアピールしたいのであれば、昔○○川を舞台にしたドラマ『四年五組 田中先生』で主人公の恋人役として、河川敷をよく歩いていた酒田ヨシコさんなんかもいいですね。今、ちょうど50才でふっくらしてきたところから主婦層の共感を得やすくなっています。

営業:あと、知的な女性ってことを言えば、負間洋代(ふま・ひろよ)さんが最近は著書も多く、テレビ出演もあっていいのではないでしょうか。彼女は“フマー”と呼ばれる女性ファンがたくさんついて、憧れられる存在です。そして、やはり論理的にものごとを分かりやすく説明してくれますから、説得力が違います。

ノンB:女性は2人にしませんか? やっぱり予算の都合もあるので。

所長:大体会議ってどのくらいギャラ出せばいいの?

営業:座長は名前をお借りし、まとめを発信していただく、ということで、1回15万円くらいですかねぇ。ほかは1回10万円。ただし、タレントさんは成果発表会の時だけ来ていただいて70〜100万円くらいじゃないでしょうか。タレントさんはわざわざ会議に出ても特になにを言うわけでもないですし、どちらにせよ、こちらが言いたい原稿を読んでもらうだけですからね、ガハハ。

ノンA:光ファイバーメーカーの人は無料でいいんじゃない? だって受注できるんだからさ。

一同:そうですな、ガハハ!

ノンB:じゃあ、女性は2人ってことにし、一人タレントさんにすると(電卓を出す)……1回の会議で55万円、半年で3回会議やるから165万円。で、あとは記者発表会もあるから。220万円だね。タレントさんに100万円払うとし、320万円ですね。

所長:う〜ん、300万円で仕切れないかね?

営業:頑張ってみます。

PR:しかし、これだけ言いたいことを彼らに言わせて320万円ってのはまぁ、そんなに高いとも言えないと思いますよ。

ノンA:はい、じゃあ、お金の話は代理店さんに任せるとし、女性は誰がいいかって話に戻りましょう。近藤さん、酒井さん、負間さん、3人の候補がいますが、どうですかねぇ?

所長:負間さんっていくつなの?

PR:43歳ですよ。

所長:だったら若い近藤さんと中年の負間さんでいいんじゃない?

営業:やはり、若いコがいると目の保養になりますからな、ガハハハハ!

一同:ガハハハハハ!

ノンA:というわけで、決まりましたな、じゃあ、代理店さん、アプローチを開始しておいてくださいね。

まぁ、もちろんこれは相当デフォルメして書いてはいるものの、実態はこんな感じではある。“広告塔”は“各分野の専門家”と“タレント”になるが、彼らは基本的には“川に光ファイバーを敷く”ことを普段から何も考えていない人だらけである。だから、特に素晴らしい意見を持っているわけではないが、運営主体からすれば、“他人に言わせる”ことが重要なのだから、知見はハッキリ言ってどうでもいい。

あくまでも、運営主体が望む形の発言をしてくれればそれでいいのだ。「カネ払ってるでしょ?」の一言で済むのである。そして、実際の会議では建設省・メーカーが作ったアジェンダを元に粛々と時間が過ぎ、その場で一人一人意見を求める。

「河川敷にライブカメラを設置し、水位を見ることができます!」などと言い、「負間さん、どう思いますか?」と聞かれたら「いいことじゃないですか。住民にとっては安心感が生まれますよね」としか普通は言わないだろう。

かくして議事録には

【ライブカメラ設置について】
負間:「いいことじゃないですか。住民にとっては安心感が生まれますよね」

と正式に書かれ、光ファイバー設置を負間さんが推進したかのようになるのである。

これってけっこうおいしいバイトなのである

通常この手の有識者会議は、何か後で不祥事が発生した場合は「私は与えられた情報だけを元に判断していた。もし、もっと情報を与えられていたらこの会議に出席することはなかった」と言うものである。

さらには「だまされた私も被害者です!」とまで開き直る人もいる。

ただね、1時間会議出れば15万円とか10万円もらえるってのは、貧乏学者とかNPO団体の理事とかからすれば“おいしい”ことなのよ。この額はタレントにとっては“安すぎる”ってことになるけど、普通そこは“それなりに”ギャラは事務所の要求を考慮し、支払うよ。

まぁ、結論づけちゃうけど、「その活動に共感しました! やらさせていただきます!」ってことではなく「1時間ほど拘束されて、ちょちょっとテキトーなことか台本通りのこといえばお金もらえるんでしょ? だったらいいかな」程度の気持ちで参加している人も多いよ。

まぁ、原発と光ファイバーを同じに論じてんじゃねぇよ、エッ! という声もあるかもしれないけど、あくまでもここは「広告概論1:広告塔の決まり方 架空ケーススタディ」ってことで勘弁してね、ガハハハ。

執筆: この記事は中川淳一郎さんのブログ『ウェブはバカと暇人のもの』からご寄稿いただきました。

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