「人間は生物が最も発達した形態だ。生物は何十億年かけて莫大な並列計算を行い、世代交代を経てきた。その結果、人間は環境に適応している。数十年の歴史しか持たず、限られた計算を処理する人工知能が、人間を超える知能を獲得するとは考えられない」。

国立情報学研究所 教授 山田誠二氏
国立情報学研究所 教授 山田誠二氏
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 人工知能(AI)研究者の山田誠二氏は2017年4月26日、「ガートナー ITインフラストラクチャ & データセンター サミット2017」の基調講演でこのように述べた。山田氏は国立情報学研究所 教授や総合研究大学院大学 教授、人工知能学会 会長などを務めている。講演は「人工知能の現状認識と未来への提言」と題して行われた。同氏は一部の人々が過度な期待をAIに寄せることに懸念を示したうえで、AIの歴史と現在、そして将来について語った。

 山田氏は、汎用AIが加速度的に発達し、2045年には人間の知能を超えるとする「技術的特異点(シンギュラリティ―)」の考え方に疑問を呈する。シンギュラリティーはAIの脅威を大げさに語るもので、AIはあくまでも人間をサポートする知的システムとして捉えるべきと主張する。「AIの本質的な限界を見極めることが大切だ。AIの得意や不得意を議論するべき。今後、人間とAIの役割分担が明確になるだろう」と展望を述べた。

「言語化できない推論」を扱うAIでブーム再来

 山田氏は講演のなかで、AI研究の歴史的な経緯を振り返った。「AIには過去2回のブームがあり、今回は3度目のブームと言える。第一次AIブームは1960年代で、米国から始まった。これはAIの黎明期といえる。1970年代の第二次AIブームからは、日本でも研究がはじまった。国家プロジェクトの第五世代コンピュータは、まさにこの時代である」(山田氏)。だが第2次ブームの後、AI研究は長く下火になったという。

 第2次ブーム当時は、エキスパートシステムの開発が盛んだった。エキスパートシステムとは、専門家の能力をif-thenルールの推論で再現することを目指したものだ。しかし、同システムには弱点があった。人間の推論や行動は、実際には言葉にできない無意識の部分に従っている。言語化できないものは、ルール化できない。ルール化できないと、プログラミングができず、エキスパートシステムも作れない。この点がネックとなってエキスパートシステムへの期待はしぼみ、AIは冬の時代を迎えた。

 山田氏は、言語化できない推論の例として、医師の診断を挙げた。例えば、ある医師がCT画像を見て、腫瘍の有無を分類できるとする。しかし、その判断は医師の知識と経験によるもので、実は明確な基準をうまく言葉で説明できないと山田氏は説明する。

 そこで人間がルールを作るのではなく、人間がすでに分類したデータを大量に用意してコンピュータに学習させる「機械学習」の研究が盛んになった。深層学習(ディープラーニング)は機械学習の手法のひとつだ。「深層学習の登場により、現在は第三次AIブームと言われるようになった」(山田氏)。

機械学習が第三次AIブームの中心
機械学習が第三次AIブームの中心
出所:ガートナー(2017年4月)
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