Tim Sweeney「ゲーム業界の未来? みんなをクリエイターにすることさ」

Epic GamesのCEOはオープンプラットフォームの重要性や非ゲームプロジェクトのメリット,そしてなぜ彼が森林保護をしているのかなどについて議論した。

 彼の一番の競争相手は,どのイベントのキーノートも,ゲーム開発の民主化へのコミットメントを強調するところから始めていた。しかし,Tim Sweeeney氏もその思想の熱狂的な信者である。

 Epic GamesのCEOとしては,UnityのJohn Riccitiello氏のようにプレゼンテーションを使ってこの思想を明確にしないほうがいいのかもしれない。しかし,オープンなゲームプラットフォームとオープンな市場の必要性に対する氏のスタンスはよく知られている(参考英文記事)。Unreal Engine 4とそのソースコードの両方をフリーにするという氏の決断,そしてその戦略を最新作であるRobo Recallまでへの拡大,すべては一つのことを可能にしようと決断した男の絵を描いている。それは「もっとたくさんの人がゲームを作れるように」だ。

 GDC 2017で私と話したとき,Sweeney氏は参入障壁を引き下げる努力について指摘した。ゲーム開発だけでなく,あらゆる形態のアートにわたる問題だ。消費者は特別なツールを使う必要はない ― 彼らはすでにPCやゲーム機でゲームデザインのキャリアの種を蒔いているかもしれないのだ。

Tim Sweeney「ゲーム業界の未来? みんなをクリエイターにすることさ」
 「Minecraftは1億人に行き渡っています。最初はプレイヤーですが,彼らのすべてがゲームデザインをし3Dシーンを作るコンテンツクリエイターになるのです。私はゲーム業界の未来とは,すべての人をクリエイターにすることだと思います」

 「YouTubeがすべての人をビデオクリエイターにし,Instagramがすべての人を写真家にしたように」とSweeney氏は語る。「我々はすべてのユーザーにこのようなものを作る力を与えなければなりません。なぜなら,未来のゲーム世界はどんなゲームデベロッパがすべてのものを作るのか予想できないくらい大きなものになりつつあるからです」

 より幅広い層の人々が新しいゲームやデジタル体験を構築できるようにすることは,なにかバーチャルリアリティを推進するのに必要なソフトウェアを供給するようなものだと氏は続けて語っている。非常に話題を呼び多額の投資を集めた技術に対して,業界の多くでは,その可能性で意見が分かれている。とくに昨年,待望のOculus RiftやPlayStation VRといった複数のコンシューマVRデバイスが売上高を上げることに苦戦していることが予想されたあとでは。

 今年のState of Unreal(※毎年GDCのEpic Games関連セッションの最初に行われる基調講演での共通テーマ)のプレゼンテーションの終わりで,Epic GamesはOculusに投資したFPSであるRobo Recallが無料でダウンロードできるだけでなく,ソースコードにアクセスすることで完全に改変可能にすると発表した。その理由についてSweeney氏は,VRデベロッパを志望する人やこの技術を把握するのに苦戦している人に,内容を具体的に見えるようにし,ゲームがどのように作られているかを理解させるためだと語っている。この見解は,彼らが自身で魅力的なVRゲームを作成することを助けるだろう。

 「Robo RecallはEpic Gamesによる信じられないほど直感的なアクションゲーム体験を伴うVRへのアプローチをもたらします」とSweeney氏は語る。「我々はUnreal TournamentやGears of War,そしてRobo RecallのプロジェクトをVR上に構築しました。なぜなら,我々はそういったクールなゲームを作りたいと思っており,同時にデベロッパにたくさんのテクニックを使う方法を示したいと思っているからです。これが我々がRobo Recallを完全なModキットとほかのデベロッパが利用できるように全ソースコードとともに公開した理由です」

「もし我々がVRにキラーアプリをもたらす手助けができるとすれば,それは,ハイエンドVRユーザーを現在の200万人から次の1000万人に拡大させる次の段階になるでしょう」
Tim Sweeney氏

 「このゲームは,VRに期待される表現のすべてを完璧に統合した初めてのシューティングゲームになると思います。もし我々がVRにキラーアプリをもたらす手助けができるとすれば,それは,ハイエンドVRユーザーを現在の200万人から次の1000万人に拡大させる次の段階になるでしょう」

 もちろん,すべてのクリエイターに真の潜在力を発揮させるには,開発者が観客にリーチできるようなオープンな市場 ― Sweeney氏が長々と語っていたような ― を業界が提供する必要がある。氏のよく知られているMicrosoftとそのUniversal Windows Platformに関する批判によって(関連英文記事),氏はアクセス可能なエコシステムの主唱者となった。さらにこれはUnrealが3年前に改定したビジネスモデルでの貢献,すなわち最初はゲームエンジンを低価格で利用できるようにし,その後,無料で使えるようにし,ソースコードも包み隠さず誰でも見られるようにしたことにも影響している。著名なAAAデベロッパからベッドルームコーダー(寝る前に趣味でプログラムを組むようなアマチュアプログラマ)まで,― 商用リリースした場合に5%のロイヤリティが課せられるという但し書きはあるとはいえ ― Gears of Warや数え切れない大ヒット作を生み出したツールと同じもので取り組むことができるようになったのだ。

Robo RecallはフルMODサポートとソースコード付きで公開された。Sweeney氏は,これはクリエイター自身にVR開発を教えるのによりよい支援になると語った

 「我々は顧客の成功からのみ利益を得るようなビジネスを設計しました」とSweeney氏は強調する。「これはビジネスでなしうる最も誠実なモデルです。なぜなら,これは我々に,最も顧客の利益になることをやる気にさせ,それ以外のことしないようにさせるからです」

「ますますたくさんのテクノロジー大企業が彼らの顧客と直接対立するようなビジネスモデルを採るようになるでしょう」
Tim Sweeney氏

 「ますますたくさんのテクノロジー大企業が彼らの顧客と直接対立するようなビジネスモデルを採るようになるでしょう。それは顧客が価値を認めるソフトウェアを売る代わりに,彼らにソフトウェアと,プライバシーへの侵害や製品のユーザー体験を損なうような広告を与えるのです。しかし,我々のビジネスモデルでは,すべての人にゲームエンジンを与えます。もしあなたがゲームをリリースしたなら,我々は製品の総売上高から5%を請求します。『なんでEpicが俺のゲームから分け前をほしがるんだ』という人もいます。それは,我々がこのエンジンを提供しており,我々は関心をあなたのものと揃えたからです」

 「もしこれが我々をやる気にさせているのを見れば,それは我々にあなたの成功を最大限手助けさせる気にしているということであり,我々は業界中のあらゆる規模のデベロッパに,直接的なサポートと彼らが必要とするすべてのツールと利益を提供することの両面で非常に大きな手助けをします。すべてのソースコード,完全なツール,参入障壁はありません」

 過去数年にわたって,EpicはUnreal Engineのパワーをプロモーションするためにゲームデベロッパ以外との協業を行っている。ことしのState of Unrealはエンタープライズ向けプロジェクトでの最高のショウケースとなっていた。パフォーマンスキャプチャのエキスパートAndy Serkis氏や,シボレーとRogue One: A Star Wars Storyの制作チームが,どのように彼らが作品をよりよくするためにUnrealの技術を使ったのかが議論されていた。Sweeney氏は,これは単に有名人を何人かステージに上げたのではなく,これらのコラボレーションは実際にゲームで使われるエンジンの改善にも役立っているのだと語った。

 「これらの業界ではいつもコンピュータグラフィックスを使っており,彼らはそのメディアについて非常に精通しています」と氏は語る。「彼らと協業することは,彼らの信じられないくらい高いクオリティとリアリズムへの期待などについて,もの凄く啓発されるものでした」

 「たとえば,マクラーレンとの協業では,正確にクルマと同じように見える異方性塗料を作り直さなくてはなりませんでした。非常に複雑な反射をするカーボンファイバー素材も同様です。それが我々を新しい方向に向かわせました。ゲームデベロッパは,特定のオブジェクトをうまくレンダリングできなくても,それをレンダリングしようとせず,なにか代わりのもので済ますといった誤魔化しがいつでもできます。しかし彼らは自分たちのためにこれらすべての難問を我々に解決させたのです。そしてこれらの会社ではゲーム開発者を雇っています」

 氏は,さらなる例としてシボレーとEpicのパートナーシップについて続けた。両社AI制御されたクルマと競走するレーシングドライバーを描いたショートフィルム「The Human Race」で協業している。シーンにもよるが,乗り物から背景全体にかけてすべてUnreal Engineでレンダリングされている。この事実はステージ上で,実証されている。タブレット上で動くコンパニオンアプリを使って,頭上のスクリーンでループ再生されていたデモ映像に写っている乗り物を瞬時に変えてみせたのだ。同社と実写プロジェクトやフォトリアリズムで協業することもまた,将来のバージョンのUnreal Engineで描画されるゲームのビジュアルクオリティを改善することに役立っている。

「ゲーム開発者は誤魔化しの才能を持っています。しかし,我々が現在やっている作品では現実と一致させなくてはなりません。近道はないのです」
Tim Sweeney氏

 「前に私が言ったように,ゲーム開発者は誤魔化しの才能を持っています」とSweeney氏は語る。「開発者がUnreal Engine 2でリアルな髪の毛をレンダリングできなかったとき,我々はたくさんのハゲのキャラクターや帽子をかぶった人々を目にしました。デベロッパはこれらの問題の回避策を取ったのです。しかし,我々が現在やっている作品では現実と一致させなくてはなりません。近道はないのです。我々はフォトリアルレンダリングやすべての種類の実世界のレンダリングのために完全に厳密なサポートをしなくてはなりませんでした。すべてのゲームはすぐにここから恩恵を受けることができます」

 「これらの例はすべて将来のARの可能性のいくつかを示しています。ARやMRはコンピュータ画像とリアルワールドの情景を結び付けようとしています。やらなくてはならない作業が信じられないくらいたくさんあります。ライティング,シャドウ,ビジュアルな外観,カメラエフェクトなどがすべて揃って初めてビューアの中に説得力のあるリアルな画像が表示されるのです」

 同席していたEpic GamesのCTOであるKim Libreri氏はさらにPokemon GO ― AR技術の上に成り立っているものではないとしても,確実にこの技術を世に広めるのに役立っている ― の人気はAR体験の需要が存在することを示していると指摘した。Unrealチームが技術が進歩すれば,これらの要素を提供し利用できるように準備することを決めた。

 「人々は現実世界の光景と完全に統合されたARによるCGコンテンツをほしがるようになります」と氏は語る。「我々は完全に最高の忠実度でレンダリングする準備ができているか確認したいのです。そして現実と見分けのつかないコンピュータグラフィックスを実現したいと思っています」

 「我々は,これが遠くない将来登場するであろうGPU内蔵ARヘッドセットに準備し,そして,それらがあなたの携帯電話とフォトリアルな画像を生成するほかのデバイスを統合する方法だと理解しています。これはゲームを追い越すことにもなります。エンジンが素晴らしくリアルなものを実現できると分かれば,我々はどうすれば現実からライティングを抽出してエンジンが生成する画像に適用できるかを考えます」

The Human Raceというショートフィルムは実写映像とフォトリアルなUnreal Engineで生成された要素を組み合わせている。これは将来の世代のゲーム機用のエンジンを準備するのに役立っている

 すべてのエンタープライズプロジェクト,つまり自動車業界と,それと関連したハリウッド映画のヒット作とのパートナーシップで,Sweeney氏はEpicは最初に主流になるゲーム会社となるだろうと主張している。つまり,このようなコラボレーションで見つかった手法を適用することで,最終的にゲームデベロッパに利益がもたらされるため,同社は新しいパートナー探しに力を入れているということだ。

 「これは巨大で成長の速いビジネスです」とSweeney氏は語る。「2016年のUnreal Engineは以前の2倍の成長を記録しました。これはいまだにゲーム業界を主としたものです。エンタープライズはそのうちの増大する部門となっています。最も面白いのは,それらもとても変わった使い方をするというわけではないことです。ゲームデベロッパと,ジェネラルモータース,ルーカスフィルムが我々に求めるものの90%は同じものなのです。エンタープライズ分野での顧客は,さらに10%を要求してくるかもしれませんが,それは小さな違いにすぎません。ですので我々は彼らのためにそれを作ります。これは我々のビジネスで大きな成長分野となっています」

「ゲーム機が進化するにつれて,我々はScorpioのような新しいハードウェアを手にします。我々は今後2世代以上先の機種にも対応するでしょう」
-Kim Libreri氏

 Libreri氏は付け加えた。「我々のエンタープライズビジネスで素晴らしいことの一つに,我々は,ゲーム機のようなハードウェアの制約に縛られないことがあります。これはゲームエンジンの規模を確認するのにとてもよい方法です。マルチGPUサポートやスケーラブルなレンダリングといったものは,ゲーム機が進化するにつれて,我々はScorpioのような新しいハードウェアを手にするということを意味しています。我々は今後2世代以上先の機種にも対応するでしょう」

 他の業種,とくにデジタルとインタラクティブコンテンツに興味のある業界との架け橋となることは,ゲーム業界に新たな才能を流し込めるということでもある。逸話でいうと,私の友人の一人は,Unreal Engine 4で作られたマクラーレンのプロジェクト(おそらく2年前のGDCで発表されたカーコンフィグレータ)に携わっていたWebデザイナーだった。それから彼は余暇を使ってUnrealをちょっと触っていたのだが,現在彼は自分のゲームを開発しようと考えている。Sweeney氏はこのような話が増えて一般的になることを信じている。その逆も真なりで,経験のあるゲームデベロッパは別の分野でチャンスを見つけている。

 「我々は現在,共通のツールセット,機能,そして人材からなる,ゲーム業界を取り巻くデジタルコンテンツ業界の台頭を目にしているのです」と氏は語った。「これらの驚くべきエンタープライズプロジェクトに参入している請負業者はゲームデベロッパなのです。例を挙げれば,Ninja Theoryと同社のリアルタイムシネマティックです」

 「2種類の流れがあります。ゲームエンジンを採用したこれらの業界の会社は,非ゲームだけどまったく同じスキルを使うプロジェクトのために働くゲーム開発者を採用しています。もちろん,その逆もあります」

「業種間の境界線がかすんできています。我々が実際に目にしているのはデジタルコンテンツ業界であり,ゲーム業界はそのファジーな部分集合のようなものです」
Tim Sweeney氏

 「ゲームがよりリアルになってきたので,我々はゲームスタジオにファッションデザイナーを探しているところです。なぜなら,すべてのキャラクターはリアルな衣装を必要としていますが,クロスシミュレータなしでアマチュアが衣装のデザインをしているとうまくいきません。それは急速に非常に多くの専門分野による業種になっています。まさにハリウッドのように,あらゆる専門分野の人々が映画のセットやすべてのものに貢献しています。私が強調したいのは,どれくらい各業種間の境界線がかすんできているかということです。我々が実際に目にしているのはデジタルコンテンツ業界であり,ゲーム業界はそのファジーな部分集合のようなものです」

 もっと個人的な話題として,私はSweeney氏に彼が継続中の土地保全運動について聞いた。直近だと,氏はノースカロライナ州のBox Creekとして知られる7000エイカー(約28.3平方km)を救った。ARやVRの未来を推進する人間として,氏は地球上の現在の美しさを保全することに力を注いでいる。

 「私はこのワシントンDC郊外のポトマックメリーランドと呼ばれる面白い小さな町で育ってきました」と氏は彼のこのような投資の理由について語った。「私の生涯で,私はかつて歩いた大地のすべてを見てきました。森や金鉱を私は探検したものです。ワシントンDC郊外が拡大すると,これらはすべて家と舗装に覆われてしまいました。私が個人的にきにかけていた地域でしたので,これは非常に悲しいことでした。機会がきたときに,私は自分の意思を固めたのです」

 「私はゲーム業界で資産を持つ人はみんな自分が信じる運動に参加すべきだと思っています。自然保護は私の思いに近いものでした。しかし,人々が社会で長期間にわたってやる価値があるものはたくさんあります。社会活動を手に入れることは,みんながそういったものについて考えるのと同様にいいことです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら